2夜目!
ちょっぴりファンシーな寝巻きに枕。それ以外の荷物は持たずに呼び鈴を押す。これが添い寝屋さんの正しいすスタイル、正装という奴だ。
だから、決して私の頭がおかしい訳じゃないと宣言しておく。
「こんにちわー! 添い寝しに来ましたー!」
カチッと音がして、依頼主さんが出たのを確認して元気良く、でも決してうるさくならないようにご挨拶。いつでもどこでも、第一印象は大切だ。同僚さんは挨拶した途端厳重に鍵を掛けられてキャンセルを受けたと言っていたから、同じ事にならないように頑張らないと。
今回の依頼は鉄仮面さんで、いつもご利用いただいているお得意さんらしい。今日は、いつも伺っている先輩が風邪を引いてしまったから、私が代打で入る事になったのだ。
そんな事を考えてグッと気合を入れたところで、呼び鈴から声が返ってきた。
『……あの、鉄仮面さんはお隣ですよ?』
………今ならきっと顔でお湯が沸かせるよ! 実際にやれって言われても困るけど!
というか、依頼主さんはご近所でも鉄仮面さんで通ってるんだね。ビックリしたよ。休んだ先輩から『何があっても驚かないように』ってメールが来てたのにさっそく驚いちゃった。
というか、今更ながら不安になってきたんだけど。前もって驚かないようになんて忠告がいるとか、一体何が待っているのかとちょっと期待、ゴホン、ワクワク、でもなく、ドキドキしてきた。あれ、なんか変わんない?
とにかく、私はお仕事で来てるんだから、ここで怯んじゃ駄目だよね。
と、言う訳で――
「《ピンポーン》添い寝しに来ましたー!」
今度こそ鉄仮面さんの部屋のチャイムを鳴らしておっきな声で元気良く告げる。
そうしてしばらく待っていると、ガチャリと解錠する音が聞こえてゆっくりと扉が開いた。
まず目に入ってきたのは、女の子でもここまでのはいないってくらい白い、白魚のような手で、チェックのシャツを着た上半身が次に見える。それにすぐ下半身が見えて、腰の位置ががすっごく高いのが分かる。体型だけ見ればそこらのアイドルなんて一蹴できるようなスタイルの良さだ。
むしろ、私のスタイルと交換して欲しいくらいに。うん。泣いてないよ?
それからさてお顔拝見と笑顔を維持して視線を上に持っていくと、サッと視線を逸らされた。事前情報通りにシャイな人なんだと分かるひとコマだ。
うん。それはいいんだ。シャイな人だっていうのは分かってたし、それで傷付くほどやわじゃごめんなさい嘘つきましたちょっと悲しかったです。
でもさ、それ以上に強烈なインパクトがあったんだよ。
「て、ててて、鉄仮面だーーーーーーーー!」
そう。依頼主さんは本当に鉄仮面でした。