宇宙人襲来
宇宙人襲来
宮瀬 和樹
「ママー」
幼い子供が庭から、母を呼ぶ。
「どうしたの?」
食事の支度の手を止め、母親が尋ねる。
「きてみてー。とってもきれいな花がさいたよ」
「どこ?」
「こっち」
「まあ、本当。本当にきれいな花ね」
「この空みたいに真っ青な色をしている」
「見ているだけで心が透きとおるようなきれいな青い花だわ。ママ、きれいな花、大好きよ」
「ママが好きなら、ぼくも好き」
「大切に育てましょうね」
「うん」
地球は青く澄む美しい惑星だ。しかしそれは遠く離れて望む上辺だけの眺めであって、実際には地上ではその美しさとは裏腹に、残忍極まりない醜い殺戮が、いつ尽きるとも知れず、いたる所でくり返されている。
人類は様々な、たとえば肌の色が違う、宗教が違う、政治体制が違うなど理不尽な理由をこじつけ、人と人、民族と民族、国家と国家とがお互い憎しみ合い殺し合っている。あまたの屍を晒し、流されたおびただしい血でもって、大地を汚しているのだ。楽園であったはずの惑星を、地獄へと変えてしまった。
「攻撃準備完了しました」
少佐が告げる。
「よろしい」
司令長官が満足そうに頷く。
「あいつらの逃げ惑う姿が、目に浮かぶようであります」
「ああ、これであの劣等人種どもの息の根を止め、地上から殲滅できる」
「われわれ優等人種の勝利も間近ですね」
「そうだ、地球は浄化され、繁栄は約束された」
「長年の努力が報われ、夢がかないます」
「作戦が完了したら、祝杯をあげよう」
「楽しみです」
「では我々の勝利を願って」
「勝利を願って」
「地球の繁栄のために」
「繁栄のために」
「攻撃開始」
「エネルギー波砲発射、10秒前、9、8、7、6、5……」
しかしそのとき、大音響とともに司令室全体が激しく揺れる。机の上の書類が散乱し、兵士たちは倒れこむ。
「どうした?」
司令長官は机にしがみつき、大声で叫ぶ。
「分かりません」
「敵の襲撃か?」
「調査します」
「あの劣等人種どもに、こんな攻撃力があるとは思えん」
照明が暗くなる。
「インジケーターが損傷レベル5を示しています」
「甚大な被害だ。箇所はどこだ?」
「動力部機関室がやられた模様です」
「ただちに補助動力を供給しろ」
「了解、補助動力エネルギー供給開始」
スイッチが入ると再び照明が明るさを取り戻す。司令長官は一気に命令を下す。
「修理班を動力部機関室に急行させろ。大至急損傷部位を修復させるんだ」
「了解、修理班、動力部機関室に急行せよ」
「防御シールドを最大レベルまで引き上げろ」
「了解、防御シールドを最大レベルまで引き上げます」
少佐はレバーを操作する。しかしすぐに赤ランプが点滅する。
「だめです。補助動力だけではエネルギーが足りません」
「今のレベルは?」
「防御シールドレベル六です。少しずつ下がって、じき5になります」
「いかんな。動力部の修復にどのくらい時間がかかる?」
「およそ一時間です」
「かかりすぎだ。そんなに待てん。30分でやらせろ」
「了解、修理班、30分で仕上げるんだ」
「敵の正体を調査できたか?」
「いえ、まだです」
「何をもたもたしている」
「申し訳ありません。急いでいるのですが、先ほどの攻撃は分析不能です」
「どういうことだ?」
「コンピューターにデータがないのです」
「今までにない新型兵器だとでも言うつもりか?」
「多分」
「まさか、あいつらにコンピューターでも分析不可能な兵器を作るだけの科学技術力があるはずない。ということはつまり、まったく別の敵が出現し攻撃をしかけてきたということか?」
「分かりません」
「レーダーの探知を強化して、警戒を怠るな」
「了解、レーダーの感度レベルを10にアップします」
「何か映るか?」
「いいえ、何も」
「もし少しでも不審な物体がひっかかったら、すぐに報告しろ」
「了解、レーダー感度10を続行します」
「あいつらの仕業であろうがなかろうが、ぐずぐずしている暇はない。とにかく叩き潰してしまえ。中断させられた攻撃を今すぐ開始できるか?」
「エネルギーレベルを確認します……ただ今、レベル6、確認。攻撃するにはまだ不足しています」
「あとどれくらい必要だ?」
「2です」
「補給するのに何分かかる?」
「30分です」
「遅い」
「しかし動力部の修理がすむまでは補給しきれません」
「ではもっと早く修理させろ」
「お言葉ですが、これ以上は無理かと……」
「命令だ、15分で修理を完成させろ」
「了解、修理班、15分で修理を完了させろ」
「修理がすんでエネルギーレベルが回復したら、ただちに総攻撃をかける」
「はい」
「準備しておけ」
「了解……あっ、司令長官」
「どうした?」
「レーダーが不審な物体をとらえました」
「何だ?」
「分かりません」
「モニターに映し出せ」
「はい、了解、モニター方位2PGM7」
司令室前面の巨大なスクリーンに映像が映し出される。全員の視線が注がれる。青空を背景に、何か物体が動いている。
「何だ? あれは」
「分かりません」
「分析しろ」
「了解……大きさ……全長2000メートル」
「2000メートル? ばかな」
「間違いありません、2000メートルです」
「空を飛んでいるではないか。宇宙船か?」
「いいえ、機械ではありません。あれ全体で一つの生命体だと、スキャナーに出ています」
「うそっ、信じられなーい。もう一度確かめてみろ」
「了解、再確認します」
「どうだ?」
「何回やっても生命体です」
「2000メートルの生き物だと、しかも空を飛んでいる」
「こっちに向かってきます」
「さっきの攻撃の正体はあれか?」
「もしかしたら」
「モニターを拡大しろ」
「了解、モニター拡大」
「ゲゲッ、何だ? あれは?」
「目があって、鼻があって、口があって……顔のようです」
「何て醜い面をしているんだ。気持ち悪い。すぐに撃ち落せ」
「しかしまだ、攻撃エネルギーは充分ではありません」
「かまわん。あんな化け物にやられてたまるか。今すぐ攻撃開始しろ」
「了解、攻撃開始します。エネルギー波砲、発射」
閃光が走り、司令室が細かく振動する。次の瞬間、モニター画面の中で激しい爆発が起こる。全員が固唾を呑んで見守るが、スクリーンは爆発のあと、もうもうとした煙を映し出すだけで怪物の姿は消える。
「命中したか?」
「命中です」
「やった、やっつけた」
司令室に歓声が上がる。しかし少佐は落胆して言う。
「いえ、だめです。命中しても全然きいていません。スキャナーによると相手のダメージはほぼゼロです。それどころかスピードを上げてどんどんこちらに近づいて来ます」
モニター画面の煙の間から怪物がその姿を現す。
「現在、マッハ20」
「冗談を言うな。生物がそんなスピードを出せるはずない」
「冗談ではありません。あと3分でここに達します」
「こうしちゃおれん。全員第一級防衛態勢をとれ」
「了解、総員配置につけ」
「総攻撃をかけろ」
「了解、すべての兵器を発射せよ」
「撃って撃って撃ちまくれ。弾がなくなるまで撃ちつづけるんだ。絶対にあの化け物をやっつけろ。ここに来させてはいかん。核ミサイルもぶっ放せ」
「しかしそれは最高幹部会議の許可がないと……」
「かまわん。今はそんな悠長なことを言っている暇はない。核ミサイル発射」
「了解、核ミサイル発射します」
「あるだけぶっ放せ。やっちまえ、打ち落とすんだ。こっぱみじんにしろ。叩き殺せ。我々の力を思い知らせてやれ」
「ミサイル命中まであと3秒、2秒、1秒、あっ、怪物が後ろを向いて尻を見せ肛門から黄色いガスを噴出しました。その勢いで核ミサイルが吹き飛ばされて、まっすぐこっちに向かって飛んできます。このままではこの基地に命中します」
「そんなばかな、ありえないことだ。訴えてやる」
「被弾まで、5秒、4秒」
「逃げろ」
「3秒、2秒、1秒、命中」
「ぎゃー、助けて……」
「あの化け物を何とかしないと、このままでは地球は滅ぼされてしまう」
「すでに全人類の35パーセントが殺されています」
「非常事態であって、今我々がお互いいがみ合っているべきではないのです」
「そうです。私たちは協力してあの怪物から地球を守るために戦いましょう」
「まったくだ。したがってわしはここに地球防衛軍を組織し、怪物を退治することを提唱する」
「賛成です。私はスットコ王国のドッコイ国王の意見を支持します」
「私もトーヘン共和国のボーク大統領と同意見です」
「オタン帝国のコーナス総統はいかがですか?」
「わしも異議はない」
「ではデクノ連邦のボー主席の考えをお聞かせください」
「私もまったく同意見です」
「アンポ国のンタン総理は?」
「賛成です」
「ドテカ人民国のボチャ国家評議会議長は?」
「わしは絶対に反対だ。ヒョウロ国連合のクダマ将軍などと力を合わせるくらいなら死んだ方がましだ」
「それはなぜですか?」
「そいつはわしの三番目の妻を、豚以下とけなしたからだ」
「ヒョウロ国連合のクダマ将軍、今のボチャ国家評議会議長の話は本当ですか?」
「豚以下だから豚以下と言ったまでだ。あんただってこいつの女房を見ればそう思うに決まってる」
「なぜそんな悪口を言うのですか?」
「そいつが子供のころ、俺がでべそだってことを近所に言いふらしたから悪いんだ」
「事実だからでべそと言ったのだ。何が悪い」
「お二人はお互い知り合いなのですか?」
「ああ、子供のとき、隣どうしだった」
「ならば幼馴染で、力を合わせましょう」
「やなこった。絶対に断る。こいつがでべそと言いふらしたせいで、俺がどんなに辛い思いをしたことか、今こいつの顔を見て、思い出しただけで、はらわたが煮えくり返るほどの怒りを覚える」
「そんな昔のことは水に流しましょう」
「許してやってたまるか。こいつに復讐するために、俺は外国に渡り軍隊に入ってクーデターを起こし、やっと政権の座に着いたのだから。仕返しをしないでは気がすまない」
「お前だって子供のころ、わしが短足だとばかにしたろう」
「短足だから短足なのだ。お前の足は赤ん坊のオチンチンよりも短い」
「何だとこのやろー。でべそのくせに偉そうなことを言うな」
「またでべそと言いやがったな」
「言ったさ。何度でも言ってやる。このでべそでべそでべそでべそ」
「許せん、長年の恨み、この場で晴らしてやる」
「望むところだ、かかってこい」
「そいつらが協力しないのなら、わしだってスットコ王国のドッコイ国王など、本当は大嫌いなんだ、足が臭いから。誰が地球防衛軍なんかに力を貸してやるものか」
「何だと、オタン帝国のコーナス総統め。お前こそ口が臭いではないか」
「うるさい、黙れ」
「お前に命令される筋合いはない」
「私だってこんなばかなアンポ国のンタン総理など、顔を見るのも嫌いだ」
「トーヘン共和国のボーク大統領こそ能無しだ」
「やる気か」
「やってやろうじゃないか」
「このやろー」
「いい気になるなよ」
「ただじゃおかないからな」
「皆さん、やめてください。今はそんなことしている場合じゃありません」
「うるせー。自分一人だけいい子になりやがって。俺はデクノ連邦のボー主席のような奴こそ一番大嫌いなんだ」
「そうだ」
「そうだ」
「やっちまえ」
「わーっ、冷静に、暴力はやめて落ち着いて話しましょう。話せば分かる」
「問答無用」
ボカスカ……
「皆さん、ご静粛に。今回、再びお集まりいただいたのはもちろん言うまでもなく、あの怪物について話し合うためです。前回の会議はまことに残念ながら、皆さんのいがみ合いが原因で失敗に終わりました。その結果どうなったかというと、皆さんが反目し合っている間に、怪物は、なんと全人類の55パーセントを殺したのです。そしてその中には悲しむべきことに、オタン帝国のコーナス総統、アンポ国のンタン総理、そしてヒョウロ国連合のクダマ将軍も含まれています。この悲劇を、生き残った私たちは厳粛に受け止めるべきです。人類存続のため、もうこれ以上被害を大きくすべきではありません。なんとしてでも食い止めましょう」
「そうだ、そのとおりだ。我々はお互い協力してあの怪物をやっつけねばならん」
「賛成。地球防衛軍を作ろう」
「スットコ王国のドッコイ国王を支持するぞ」
「支持します」
「支持します」
「では誰が地球防衛軍の最高司令官になる?」
「それはもちろん、言い出したこのわし、スットコ王国のドッコイじゃ」
「言い出したのがそんなに偉いのか」
「わしだって同じことを言おうと思っていた。考えついたのは、このドテカ人民国のボチャの方が早いぞ」
「これは、早い遅いの問題ではありませんな」
「では、どういう問題なのだ?」
「強いか弱いかです。最も軍事力の強大な国の指導者が最高司令官になるべきです。したがってその任に就くのは、世界最強の国家デクノ連邦の主席であるこの私、ボーを置いて他にいますまい」
「いや、最高司令官にふさわしいのは国の強弱ではありません。このように難しい任務を果たすには明晰な頭脳が必要です。したがって最も頭の良いこのトーヘン共和国のボークが最適です」
「いや、必要なのは大胆不敵な決断力だ。したがって最も勇気のあるこのわしドテカ人民国のボチャしかおらん」
「いや勇気ならわしの方が上じゃ。何しろ勇猛果敢なスットコ王国の国王なのだからな」
「いや、この私だ」
「俺だ」
「誰がお前みたいな能無しにやらせるか」
「黙れ、臆病者のくせに」
「何だと」
「やるか」
「やってやろうじゃないか」
「誰が一番強いか実力で証明してやる。思い知れ」
「もちろんこのわしに決まっている」
「このやろー」
「かかってこい」
「やめなさい、皆さん冷静に」
「うるさい、お前は引っ込んでいろ」
「わーっ」
ボカスカ……
「皆さん、ご静粛に。今回再再度お集まりいただいたのは他でもなく、あの怪物について話し合うためです。前回、前々回の会議はまことに遺憾ながら皆さんのいがみ合いが原因で失敗に終わりました。その結果どうなったかお分かりですか。皆さんが反目し合っている間に、あの怪物は全人類の80パーセントを殺してしまったのです。そして悲しむべきことにその中にはスットコ王国のドッコイ国王、デクノ連邦のボー主席も含まれています。これは忌々しき事態でこのままでは人類の絶滅は時間の問題です。死にたくなければ、もういがみ合いはやめて一致団結しましょう。あの怪物をやっつけるしかないのです。生き延びるために」
「賛成」
「賛成」
「地球防衛軍を作ろう」
「そうしよう」
「もう誰が最高司令官でもかまわない」
「かまわない」
「死にたくなかったら」
「死にたくなかったら」
「手を結ぼう」
「手を結ぼう」
「生き延びるために」
「生き延びるために」
「地球防衛軍最高司令長官、究極の最終兵器がついに完成しました。これならばどんな怪物でもいちころです」
「それはでかした。ではさっそくあの怪物をやっつけよう」
「了解」
「発射準備」
「発射準備完了、10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、発射」
「当たれ、当たれ」
「命中です」
「やった、これでとうとうあの怪物をやっつけた。わしらは助かる。地球は救われたのだ」
「スキャナーで結果を確認中……いえ、だめです。ピンピンしています。ダメージはほとんどありません」
「ばかな。どんな怪物でもいちころの最終兵器ではなかったのか?」
「そのはずだったのですが……」
「モニターで映してみろ」
「了解、モニターで怪物を拡大します」
「何度見てもおぞましい顔だ。どうしたら退治できる?」
「分かりません」
「真剣に考えろ。退治できなければ我々が殺されるんだぞ。そして地球はあの化け物に破壊されてしまう」
「あっ」
「どうした?」
「あれを見てください」
「何だ?」
「レーダーが新たに飛行物体をとらえました」
「モニターで映せ」
「了解、モニターで拡大します」
「わっ、そっくりな怪物ではないか。二匹目だ。しかもよりでっかい」
「大きさをスキャンします……全長4000メートル、パワー4倍」
「何? 4000メートル? パワ4倍? あいつら仲間か?」
「おそらく」
「一匹でさえ勝てないのに、さらにでかくて強いのが来たら、もうおしまいだ。おお神よ、我ら人類とこの地球を救いたまえ」
「でかい方が小さい方に何か言ってます」
「タカシ」
「あっ、お母さん」
「何しているんです? こんな遅い時間まで。もうとっくに夕食の時間ですよ。早く帰ってこなくてはだめでしょう」
「ごめんなさい、お母さん。でも、害虫退治をしていたんだ」
「害虫退治? どういうことなの?」
「ぼく銀河を飛んでいたら、とっても青く澄んできれいな星を見つけたの」
「ああ、この星ね」
「うん、きれいでしょう。お母さんもそう思わない?」
「思うわ。真っ青でとってもきれいね。タカシはこのきれいな星に見とれていたの?」
「うん、きれいだからずっと見ていたんだ。ところがそうしたら、地上にちっこい虫がうじゃうじゃいて、お互い殺しあって血を流したり死体をさらしたりして、このきれいな星を汚して台無しにしようとしているんだ」
「それはひどい虫ね」
「そうでしょう、だからぼく、このきれいな星を守りたくて、それでその害虫どもをやっつけていたんだ。数が多くて大変だけどもうだいぶ退治できたよ」
「それはすごく偉いわね。立派なことをしたわ。でももう遅いから今日は帰りましょう、お父さんも待っているわ」
「ごめんなさい。遅くまで待たせてしまって」
「帰ったらお父さんに謝るのよ」
「はい、お母さん」
「害虫退治の残りは、また明日にしなさい」
「分かった。じゃあまだ少し残っているけど、続きは明日にするよ」
「きれいなものを守ろうとする気持ちがあって、タカシは心の優しい子ね」
「ありがとう」
「ちゃんとした理由があるのだから、お父さんも許してくれるはずよ。ほめてもらえるかもしれないわね」
「うれしいな」
「それにしても、こんなにきれいな星は広い銀河にもめったにないというのに、そのせっかくのきれいさをお互い殺し合って汚して台無しにしようとするなんて、まったくひどい虫もいたものね。よく見るとちっぽけでなんて醜い生き物なんでしょう。自分たちが取るに足らない存在だということもわきまえず、思い上がるなんて、身の程知らずもいいところだわ。いなくなった方が宇宙のためね」
「見てください、怪物たちが何か言いながら帰って行きます」
「逃げ出すのか?」
「そのようです」
「やった、我々の力に怖気づいて、しっぽを巻いて退散するんだ」
「やりましたね」
「人類の勝利だ」
「わしの力を思い知ったか、あの怪物め」
「お前の力じゃない、トーヘン共和国のボーク大統領。そうではなく、このわしドテカ人民国のボチャ国家評議会議長様の力だ。したがってこれからはこのわしが地球を支配する」
「何を言ってる、この私、ウスノ共同体のロマー委員長の力だ。地球は私のものだ」
「何だ、お前は? いつ現れた?」
「最初からずっといたさ」
「一言もしゃべっておらんかったじゃないか」
「そんなことは関係ない」
「黙れ、引っ込んでいろ」
「何だと」
「やる気か?」
「やってやろうじゃないか、この臆病者め」
「お前こそ能無しのくせに、でかい口をきくな」
「このやろー」
「許せん」
「ただじゃおかねえぞ」
「もともとお前なんか大嫌いだったのだ」
「それはこっちのせりふだ」
「あの怪物がじゃまさえしなければ、もっと早くにお前なんかやっつけていたところだ」
ボカスカ……
「ママー」
幼い子供が母を呼ぶ。
「どうしたの?」
掃除の手を休め、母親が尋ねる。
「きてみてー、大変だよ」
「どこ?」
「こっち」
「どうしたの?」
「このきれいな青い花に、虫がいっぱいたかって、花を汚く汚している」
「あらまあ本当。醜い害虫がたくさんたかっているわね。このままでは、花がだめになってしまう」
「かわいそう」
「タカシは心の優しい子だものね。殺虫剤をかけて、害虫をみんな退治してやりましょう」
「うん。ぼく、このきれいな青い花を守ってやるんだ」
「偉いわ」