捌いたと同時に霧島選手の右ストレートが霧生選手の顎に直撃! (六話)
上手く行かない……けど出す。
何と無くだが分かった事が一つだけある。
俺はやっぱり零とは釣り合える気がしねぇという事だ、理由? そんなもん決まってらぁ。
まずは零の見た目。
ハッキリ言おう、もしこの世の中に神とやら居るならば、アイツはまさに選ばれた人間なのか? ていう感想を口からポロリと出してしまう。
だって、それまで色恋沙汰なんざ興味も無かった中学時の俺が、初めて会った時にガチでドキドキしちまった具合に無茶苦茶美人なのだアイツは。自分で言うの何なのだが、確かに俺はそこら辺の男よりかは勝てる自信はあるよ? でもアイツを前にしたらそんな自信なんぞ紙屑同然も良いところだ。
そして第二に……これが重要なんだが、俺は今まで零に一度たりとも喧嘩で勝てた事が無いんだ。
いや、喧嘩なんてたった一回しか無いんだが、その時から俺は“コイツには勝て無い”と悟ってしまった位に零は強すぎた。
見た目は華奢な癖して、腕力は男である俺以上にあるし、当時負け無しを誇っていた俺を傷一つ無く下した喧嘩の技術も俺の想像を遥かに越えた次元にまで到達している。
つまるところ……俺がアイツに勝る所なんて何一つ無い。
そんな情けない男である俺がアイツにガチ告りしてみろ。
『零様もご冗談が言えるようになられたのですね? フフッ!』
って半笑いな顔されて終わるのがオチに決まってる。
はぁ……泣きたくなって来たぜ。
start
首に甚大なダメージを負った状態で目が覚める俺であるが、調度その直ぐ後に叔母さんと馬鹿が来てくれた。
何の経緯か把握しかねるが、零が俺に飛び掛かっていた様子を見ていた叔母さんが、妙にニヤつきながら俺を見てくるのが限りなくうっとーしかったりしたが、首周りが痛くて反論すら出来ない俺は叔父さんから貰ったバン〇リンと湿布を塗ったり貼ったりするしかなかった。
それしか痛みを和らげる手段が無かったのだ。
「いつつつ……」
「も、申し訳ありませんでした零様……うう」
痛みでのたうちまわっていた俺を見て、半泣きになりながら首に湿布を貼っているのは零。
「ああ、もう30回はその言葉を聞いたからもういいって――う゛っ!?」
「も、もももも申し訳ございません!」
調度零が触れた部分が痛みの中心核だったらしく、思わず変な声を出してしまうと、普段見れないようなテンパった口調と表情でまた謝り出す。
が、俺としてはこんな顔をする零を見た事が無かったし、何よりちょっぴり可愛いく見えてしまうのでついつい許したりしてしまう。
可愛いは正義……まさにそれである。
「れーくんも大変だったみたいだね?」
「いやでも良いんじゃ無いの? れーくんの叫び声が聞こえたから何事だと思ったけど、見た時は随分と幸せそうな光景だったし……男からの視点ではね」
と、叔父さんと叔母さんである霧生一哉と優夫妻がニマニマニヨニヨしながら治療を受けている俺を見る。
『これのどこがじゃ!!』と言ってやりたかったが、確かに起きた時はそれなりに嬉しかったのも事実だった……主に男視点で。
「そーだそーだ! ったく……店に来て早々他人のラブコメを見せ付けられた彼女無しのオレ気持ちも分かって貰いたいもんだっての」
俺達から少し離れたテーブルに座りながらそう言っているのは、この店の古参の店員であり厨房担当の男、向島真。
一言で言うなら只の馬鹿である。
「黙れ真、ぶち殺すぞ」
何時でも何処でもフザケタ口調を崩さないこの馬鹿を睨みながら言ってやるも、言われた本人は全く気にしてない様子。
寧ろニヤついたツラをしていやがる。
「ハンッ! それだけ威勢が良いなら心配いらねぇな零よ? まっ、零ちゃんの胸に埋もれて死ねるなら本望じゃ無いの? お前からしたらさ?」
「……」
それを言われたら確かにと納得してしまう。
うん……零は容姿も去ることながら、体型もヤヴァイのだ。勿論良い意味で。
そんな奴にモーニングコールホールドされて嫌な男は居ない……まぁ時と場所にもよるけど、今回の場合は結構嬉しかったりする。
すんげー柔らかかったし。
「あ~あ、オレも零ちゃんみたいな彼女が欲しいよな~!」
「大丈夫だよ、真君なら良い子が見付かるよ!」
「そうよ! カッコイイんだもの!」
「オーナー……店長……」
叔父さんと叔母さんと馬鹿により三文芝居が始まる中、それまで黙りこくっていた新人の美佳ちゃんが口を開く。
「何だか、想像以上に面白い人達の集まりだね」
うん、あの三人と俺を一緒にしないで欲しいんだけど。
ちなみに美佳ちゃんだが、どうやら俺が首の治療を受けている最中に叔父さんを介して叔母さんと真に話を付けていたらしく、普通に二人と話している。
「それは否定しないが――あつっ!? 零! そこ痛いからゆっくり抑えてくれ!」
「は、はい!」
「やっぱり面白いや……此処の人達って」
そんな美佳ちゃんの呟きも、痛みに堪えている俺には聞こえず、三文芝居をしていた三人にも聞こえ無かったのだった。
ちなみに、再来週のイベントについてはまた後日話し合う事になったのは余り関係の無い話だ。
終了
~オマケ~
帰り道
「あの馬鹿……美佳ちゃんと家が近いと分かった瞬間に目の色変えながら一緒に帰ってったが、大丈夫なのだろうか」
「向島様は時折理解しがたい行動をしますからね……。私でも分かりかねません」
「だろうな、何せ馬鹿だもん。成績は俺以上なのに、天才と馬鹿は何とやらを体現したような奴だし――いつつつ……」
「まだ痛むのですか?」
「あ? まぁな」
「も、申し訳ございません……」
「いやもう80回は聞いたから別にいいっての……」
「ですが私が零様にあのような事をしなければ――」
「へっ、代わりにお前の胸を堪能出来たからな。寧ろ首の痛み程度で済むなら全然だな」
「……」
「おいおい、なに赤くなってんだよ? 分かっててやったんじゃねーのか?」
「い、いえ……あの時はそのような考えは……」
「あ、そーなの? ふ~ん? 確かに首は今でも痛かったけど俺は結構嬉しかったりしたぜ? 何か知らんがスンゲェ良い匂いしたし~!」
「……。…………。それ以上は止めてください零様……。恥ずかしくて死んでしまいたくなります……」
「んだよ、普段から無表情顔しといてこういう事には弱いんだな? 可愛いとこあんじゃん?」
「……」
(うっ、顔真っ赤にしながらまるで捨てられた犬みたいな目をしながら俺を見てくる…………やべぇ、無茶苦茶カワイイんだけど)
終わり
馬鹿=例のチャラ男ですが、単なる使いまわしです。