まずはお互いに……いや! 霧生選手が霧島選手にジャブで牽制を仕掛けたっ!!(四話)
何か真面目になる主人公だったり……まぁ直ぐにドーン! な事になりますが……(予告)
メイド服っつーのは元々19世紀辺りの英国人さんが貴族の身の回りの世話をする為に着ていたとされる立派な仕事着である。
一般的には黒か紺色のワンピースに白いフリルの付いたエプロン……そしてあのカチューシャみたいなアレだ。
此処まで言えば分かるだろうが、当時は決して下心があって着させていた訳では無い。
主と使いを見分ける為に存在したのだ。
だから、猫耳だとか犬耳だとかウサ耳……はバニーガールかもしれんが、あんな誰が考えたか分からないようなコスプレなぞでは無い。
だから……。
『ご主人にゃんにゃん♪』
とか吐かしてみろ、一発で首にされるか眉間に鉛弾をプレゼントされるから“ガチでメイドを目指している子”は注意されよ。
start
散々叔父さんに茶化された俺は、半分怒りながらもメイド服を着て来た零に出して貰った紅茶をガボガボ飲んでいた。
全く、叔父さんも良い加減その手のネタで俺を茶化すのは止めて貰いたいもんだ。
あれだけ最初に誤解が無いようにとド丁寧な説明をしたっつーのに叔父さんと叔母さんはまるで聞いちゃいなく、寧ろ……。
『一哉……れーくんがもうお嫁さんを……』
『うん……流石の僕もビックリだよ優ちゃん……。こりゃ5年以内に孫の顔が見れるかもしれない』
って大ハシャギした揚句聞きやしなかった。
勿論その後も誤解を解く為に散々二人に説明をしたが、結果はご覧の通りの効果無しだ。
「どお? これがメイド服だよ美佳ちゃん」
「へぇ……。今までは遠巻きに見てたから認識出来なかったですけど、こうして近くで見ると色々と装備が多そうな服装ですね?」
「いえ小山様……。着ている服自体はこのワンピースだけで後はこのエプロンと頭にあるカチューシャだけです」
「ふ~ん? ……って霧島さん、その小山様ってのは止めてくれないかな? 美佳で良いよ」
「いえ、これは私のクセみたいなものですのでお気になさらず……」
「う~ん、でも様付けは……」
「……では小山さんで宜しいですか?」
「まだ堅いけど、うん、それで良いよ」
「……。ありがとうございます」
この店の制服であるメイド服を着た零と何やら談笑している美佳ちゃんと叔父さんを少し離れた席で紅茶を飲みながら見る。
霧島零……か。
最初名前を聞いてどういう漢字か教えて貰った時は何かのギャグかと思ったっけか。
まさかの“生”と“島”の一文字違い、名前の漢字すら読み方は違えど同じだもんな。
もし俺がアイツと結婚して零が霧生の姓になったら……霧生零……うむ、語呂は悪く無いな、漢字は全く一緒になっちゃうけど。
「で、美佳ちゃんはこの服着れそうかな?」
「はい、霧島さんに着方を教えて貰えればイケそうです。別にメイド服を着る事に抵抗はありませんので」
「そうかい!? ありがとう!」
「ありがとうございます小山さん」
「……」
……。って、馬鹿か俺は。
何をトチ狂った事を……俺が零とだなんてそれこそ有り得ない話だってのは俺が一番良く知ってるだろうが。
確かに零は嫌いじゃ無い寧ろ好きだ。でなければ誰が嫌いな奴を家に置いておく……変わった女であり物好きな所に惹かれたから今まで一緒にやってきたんだ。
だが恋愛……異性の話となると話は違う。
いや、異性としても俺はもしかしたら零が好きなのかもしれない……。
だけど俺は零にその事を伝える気は全く無い。
俺はこの一年という短い間だったが、零に何もしてやれていない……寧ろ逆に胸やけがする程に零には色々貰ったし、表では無表情で無愛想だが俺にだけは時折見せてくれる本当の顔。
うん……口では『俺を主呼ばわりするなら他の所に行ってやれ』とは言ってるが、多分実際にそれをされたら本気で泣くと思うな。
「零様……?」
「……え?」
気が付けば、叔父さんと美佳ちゃん……そして零が俺の顔を覗くようにして見ていた。
「えっと、何?」
「いや、さっきから霧島さんの方を見てボーッとしてたからさ」
「え?」
どうやら俺は無意識の内に零を見ていたらしく、美佳ちゃんがそれを教えてくれた。
「はっは~ん? もしかしてメイド服姿の零ちゃんを見て惚れ直しちゃった? 全く、れーくんも青春してるねぇ」
そして叔父さんはやっぱり叔父さんであった。
「……」
だが、俺は何時も通りの威勢の良さで言い返す事は無かった。
決して叔父さんが今言った事が図星では無いの確かだ。
言い返せ無かった理由は、その隣で心配そうに俺を見てくれる零がいたからだ。
此処で何時もの通りギャースカ騒ぐ気にならなかったのもあったが、俺の余計な一言で零が傷付くのを何と無く……ほんの少しだけ恐れたからだ。
「いや、うん……その通りかもね」
「いやぁ、オジサンもあの頃に戻り――――えっ?」
だから――少しだけ、今だけ正直になってみようと思い静かに呟いてみると、聞こえていたらしく何時に無い位のマヌケなツラを見せる叔父さん。美佳ちゃんも同様だ。
「……零様?」
そして零も少し驚いたのか、無意識に見えるその目が僅かに開いている。
……いや、ちょっと耳が赤い所を見ると俺の言った意味が理解出来ちゃったみたい。
いや……マズッたな、目線だけで会話が成立する程仲が昇華するっつーのも考えもんだな。
「れ、れーくん?」
「ん?」
「ご、ゴメン。ちょっと悪ふざけが過ぎたよ……」
そう言って頭を下げる叔父さん。
はは、別に叔父さんのせいじゃ無いのに謝るなよ。
「叔父さんのせいじゃ無いよ、ちょっと眠いだけだ……」
本当は眠くなんか無い。 只素直になりすぎたく無い故の嘘だ。
今此処で本音をぶちまけたら零が消えちまいそうな気がするからな。
ああ、何て我が儘な餓鬼なんだろうか……普段は俺をご主人様扱いするなとか言って邪険にしてたのに……居なくなって欲しく無いなんて思うなんて……ホントに餓鬼だな……。
「零……」
「……。はい」
「叔母さんとアイツが来たら起こしてくれ。悪いが俺はそれまで寝る事にするから」
「……。は」
そう言って俺は皆から更に離れた席のソファーに横になる。
眠る気が無かったが、何故か顔が熱いし身体が思った通りに動いてくれないから寝る事に。
横では心配そうに俺を見る零。
フッ、ホントに良い女だよお前は……俺がどう頑張ってもお前とは釣り合わ無い位にな……。
そう思いつつ、只何と無く零の頭を二、三回ポンポンと叩きながら目を閉じるのだった。つーか、叔母さんは買い物に出てるって話だからアレにしても、あの馬鹿野郎は何時になったら来るんだ?
後半へ続く
主人公は零が好きというスタンスですが、零は果たして主人公をどう思っているか? ……微妙にベクトルが違う“好き”なパターンかもしれません。