さぁ! まずはお互いに拳を合わせました!(三話)
久々にちょいとだけ長めにしましたが、無茶苦茶な文章になっちまいました。
●放課後だよ!〇
そんな訳でバイトちゃんを都合良くゲッツ出来た俺は、ゲッツした子美佳ちゃんと零との三人で駅前に向かっている。
「何か、昼休みの出来事が唐突過ぎてスルーしてたけど、余り関わりが無かった人と一緒に帰ってるのって新鮮な気分がする……」
美佳ちゃんがポツリと呟く。
「ああ、そういや今日知り合ったんだっけか俺達?」
うん、普通に忘れてたな。
「うん、更に言えば霧島さんとも余り親しくは無かったし……」
「へぇ?」
「……」
美佳ちゃんの言葉を聞き、俺は零の方を見てみると、まるで他人事の様にスルーを決め込んでいる様子の零。
相変わらずと言うか、ごく一部以外に余り他人に感心が無いのがコイツだ。
「まぁ、零は取っ付き難いからね。仕方ないけど、これから俺達はダチだし別に良いんじゃね? コイツって近くで見れば結構面白いからな」
「うん!」
「……」
勝手に友達宣言をすると、嬉しそうに返事をしてくれた美佳ちゃん。
えぇ子やでぇ……。
「しかし零よ。お前はもうちょい愛想よく出来ないもんなのか?」
「……どういう意味でしょうか?」
美佳ちゃの話から察するに、コイツは色々な意味でクラスで浮いてそうな気がする。
なので、今も無表情で歩く零に聞いてみるが相変わらず二人の時以外は機械的な反応だ。
「いや、まぁ愛想振り撒け……とまでとは言わんよ、だがもうちょいこう何とかならないの? 普通にっつーか?」
別にクラスの人気者になれとは言わない……だが人並みにクラスに溶け込んで欲しいと親心的な意味で思う。
「……ご命令とあればそうさせて頂きますが、僭越ながら私個人の意見を言わせて頂くと“全く必要が無い”事ですね。私には零様に使える事が生き甲斐であり零様に使えている私こそが“本当の自分”であると思っているので」
「あ、ああそう……」
「……」
もう何回も聞いた台詞を再び……しかも駅近くの大通りど真ん中で聞く嵌めになった。
美佳ちゃんも流暢に喋る零を初めてみたのだろう、ポカーンとしてる。
「ああ、これも私個人が勝手に思っているので聞き流して貰って結構なのですが、何故私は零様と同じクラスでは無いのでしょう……あの校長に散々おどし――――交渉をした筈だったのに結果はご覧の有様……。フッ、生まれて二度目ですよ、他人を本気で“切り刻んでやりたい”と思ったのは」
「お、おいおい……」
ヤバイぞ“零ちゃんスイッチ”が……。
「お陰で“授業中”という、もっとも敵から攻撃されやすい時にお守りする事は出来ないし、零様に言い寄るゲス共の始末も出来ない……あのド畜生、私に一体何の恨みがあるのだ?」
「き、霧島さん?」
突然自分の親指の爪を噛みながら呪詛の如く呟く零を見て、顔を真っ青にする美佳ちゃん。
うん、その気持ちは凄いわかるよ。俺もこの状態の零は苦手というか精神を蝕まれてる気分になるし。
「そのお陰でついこの間なんて零様に恨みのあると思われる男子生徒が零様に襲い掛かった……まぁその時は私が近くに居て二度零様に歯向かおうとする気にさせない位なまでにズタズタにしてやったから良かったもののもし零様に何かあったら……」
「あ~! 分かった分かった!! お前の忠誠心には感服するわ、もう好きにして良いからとりあえず落ち着けっての!!」
「むがっ!?」
歩道とは言え人通りの多い道のど真ん中でヤバイ事を言ってる零の口を無理矢理塞ぐ。
世間体を気にするタイプでは無いのだが、道行く人々が俺達……具体的には俺を見てヒソヒソと余り受け入れられない話をしているのだ。
『あの女の子、一緒に居る男の子を様付けで呼んでるんだけど』
『マジ? うっわぁ……そういう趣味なのかな?』
『しかもイケメンと美少女だし……』
『ていうかあの三人全員が美少女&イケメン……』
とか。
『一人は知らないけどあの二人ってTRYカフェの店員さんじゃね?』
『あの店員が美形で揃ってるって有名な?』
『そうそう、噂によれば厨房にいる人達も美形だとか……』
等……店の店員という事までバレてしまう始末。 流石に『あの喫茶店の店員は、同店員に自分を様付けで呼ばせる事を強要する』とか噂が立ったらヤバイ。
確実に売上がプラスになる事では無いばかりかマイナスになる可能性の方が高い。
だから未だに一人自分の世界に入った零を無理矢理引っ張りながらその場をさっさと後にするのだった。
★
「はぁ、何で仕事前なのにこんな疲れなきゃならんのだ……」
「申し訳ございません……。零様の事となると周りが見えなくなってしまいまして」
「いや、もう良い。お前がそんなのだっつーのは今に始まった事じゃねぇし」
早足であの大通りから逃げ出して暫くした後に、正気に戻った零が謝るが、それを気にするなと返しておく。
マジな話、コイツがああなるのは今に始まった事では無い。
いや勿論最初の方はあんなのは無かったのだが、半年位してから今のような出来事がちょくちょく起きるようになったんだ。
ホント……それさえなければ完璧な女なんだがな。
「……」
「二人って、一体どんな関係なの?」
失態をやらかしたのが恥ずかしいのか、やたらショボーンとしている零をそれとなくフォローしていると、今までその様子を眺めていた美佳ちゃんが質問をする。
「あー…………いや、話せば中々に長くなっちまうし上手く表現出来ないんだが、まぁ一言で言えば……」
「主とその使いの者です」
「え゛?」
「そうそうコイツは使いの――――――おい……」
「零様は私の主……そして私は零様の身の回りのお世話をさせて頂くメイドみたいなものです」
テメッこの馬鹿ッ! 何を無茶苦茶な事言ってやがる。
いや半分は当たってるけど……。
「へ、へぇ~? そ、そうなんだ……」
ああ……言わんこっちゃねぇ、美佳ちゃんがドン引き顔してる。
周囲に知れ渡るほどの金持ち君とかならいざ知らず、見た目通りの普通の人間である俺が、『メイド雇ってます(キリリッ!)』とか言ったら(言ったのは零だけど)そんなリアクションになるのは当たり前だ。
「違っ――いや半分はそうだけど……。ええっとね、コイツの言ってる事の半分は間違ってるから訂正さして貰うが……」
この後店に到着するまでの間、美佳ちゃんに誤解をされない様に丁寧に説明をしたのは言うまでも無かった。
★★
「着いた……何故か妙に道のりが長かった気がしたけどとにかく着いた」
学校から駅近くの商店街までの距離はそんなに無い、寧ろ近いとさえ言えるのに何故か時間が掛かった。
その理由は勿論、美佳ちゃんに誤解をされないように一から説明していたからだ。
「零様が小山様にしつこくご説明されていたからでは?」
「黙れ、そもそもお前が適当な事を吐かしたのが原因だろが」
そんな俺の苦労も知らず、原因である当の本人は涼しい顔をしなから相変わらずな事を言う。
「は? 私は嘘を言った覚えは無いつもりですが?」
「……。俺は今までお前を下に見たつもりは無い。最初に言った筈だ、俺とお前が立派に独り立ちするまで、二人で助け合いながら生活をするってな」
店には入らずに店の真ん前で再三言って来た事を再び言うと、みるみる内に零の表情が曇る。
「……」
「……。不満そうなツラだな?」
意味も分からず捨てられちった犬みたいな目をする零だが、俺は敢えて何も見なかった事にしながら聞く。
これまでもだったが、何故か零が見せるこの“寂しそうな目”を見ると許してしまう気がある。
本人は無自覚でやってるのだろうが、俺としては必要の無い罪悪感が半端無いのだ。
「……」
チッ、相変わらず訳分からない女だ……。
何で俺にそんな目を向けてきやがるんだよ。
「あの……入らないのかな?」
零の目から無意識に目を背けたら、それまで俺達のやり取りを見ていた美佳ちゃんが遠慮しがちな声を出す。
「あっと、そうだったな。零よ、この話はまた今度だ。今はバイトの時間だからな」
「……はい」
テンションの低い声で返事をした零の声を聞いた俺はそのまま裏口にある従業員用の出入口を美佳ちゃんに案内しつつ中に入る。
「うぃ~っす!」
「おはようございます」
裏口からの扉は厨房直結なのだが、入ってみると厨房の電気が点いていない。
「あれ? 今日って休みだっけか?」
薄暗い厨房を進んで行くとホールにも人が居ない。
それに疑問を感じた俺が零に聞く。
「いいえ、今日は木曜日ですから定休日ではありません」
「だよなぁ。おーい、叔父さ~んもしくは叔母さ~ん!!」
裏口が開いてる時点で誰かは居るだろうと思い、取り敢えずオーナーである叔父と叔母を呼ぶ。
するとホールの、俺達からは死角になっている場所から人影が現れた。
「ん~? れーくんかい?」
眠そうな声と共にコチラを見る男。
どうやらソファーで寝ていたらしく、欠伸をしながら何ともタルそうな声を出している。
「『れーくんかい?』じゃねぇよ。何だよこりゃ? 今日は定休日じゃ無い筈だぞ」
「ああ、今日は皆でイベントを考えるからって母さんが休みにしたんだよ」
定休日でも無いのに店を閉めてる理由を聞くと、首を左右に振って関節を鳴らしながら立ち上がる。
この男こそ“TRYカフェ”のオーナー兼俺の叔父である霧生一哉である。
苗字から分かると思うが、叔父さんは今頃どっかでくたばってるであろう俺の親父の兄である。
親父とは似ても似つかない位に“お人よし”な性格をしている。
「ちなみにだけど、イベントやるって事だから業者さんに頼んで店内を掃除してもらう予定だから日曜日までは臨時休業って事にしたんだ」
「ふ~ん? だから表から見ても電気が点いて無かったんだな、納得」
「おはようございます霧生オーナー」
一人納得している横で零が頭を下げながら叔父さんに挨拶をしている。
ふむ、そうなると美佳ちゃんが此処に来た意味が無いんだが。
「おはよう零ちゃん……ん? れーくんの横に居る子は?」
眠そうにしながらポリポリと頭を掻きながら厨房に入ろうとした叔父さんだが、どうやらやっと美佳ちゃんの存在に気が付いてくれたらしい。
「こ、こんにちは」
「えっと、この子はちょっとあってスカウトしたバイ――」
「あれ? キミって小山さんの娘さん?」
「へ?」
「……。最後まで言わせろや」
天然故なのか、たまに人の話を聞かない叔父さん。
今回も俺が話をしようとしてる途中で乱入された。
「えっと、私を知ってるんですか?」
「うん、キミもたまに店に来て貰ってるから覚えてるけど、キミのご両親には結構来て貰っててね、特にお父さんとは仲良くさせて貰ってるよ」
「そうだったんですか……」
へぇ? 美佳ちゃんの父ちゃんと仲良しだったとはね、世の中狭いもんだなと、少し離れた席に座って零が入れてくれた紅茶を飲みながら思う。
「それで、今日はどうしたのかな? 見ての通り今日は店を閉めているから余り小洒落た物は出せ無いけど、コーヒーや紅茶くらいなら……」
「ああ、違うぞ叔父さん。美佳ちゃんは別に客として来た訳じゃ無いんだ」
「え、どういう事?」
キョトンとする叔父さん。
まぁバイト云々な話は結構前の話だから忘れてるのだろうと思い、そのまま説明する事にした。
~微・幸運男が説明中~
「へ~? れーくんに誘われてウチの店でアルバイトしたいと」
「はい!」
フムフム言ってる叔父さんに割と元気の良い声で返事をした美佳ちゃん。
「まぁ、結構無茶苦茶な誘い方だったけどね」
今して思えばだけど。
等と思っていると、叔父さんは腕を組みながら考えるそぶりを見せる。
「う~ん、僕としては小山さんの娘さんだし喜んで採用したいんだけど……」
「あん? 何かあんのか?」
まさか親御さんの了承無しで直接来たのはマズイとかか?
それ言われたら弱いんだが……。
「いや、小山さんってメイド服とか着れるのかなぁ……と」
そっちかよ!
「何だそりゃ? 俺はてっきり『親御さんの了承無しでアルバイトするのは駄目だよ』とか大人な意見を言うのかと思ったんだけど」
「いや、確かに親御さんの了承無しではアルバイトさせられないよ。でも小山さんのご両親からは『人手不足なら是非ウチの娘を!』って言ってたから多分そこら辺の事は心配いらないと思う。まぁ後で確認の電話をさせて貰うけど」
何だと? て事はもう難関の八割はクリアしてるって事なのか? なんというイージゲーム。
「そ、そんな事言ってたんですかウチの両親は……」
叔父さんから聞かされた事実に、ちょっとだけ呆れた様子の美佳ちゃん。
まぁ、本人の知らない所でそんな話になってたらそうはなるわな。
「で、後は美佳ちゃんがウチで働きたいみたいな事を言ってくれたら万事解決な訳なんだけど……さっきも言ったけど、メイド服とか着れるかな?」
「メイド服、ですか……」
叔父さんの質問に少し戸惑っている様子である美佳ちゃん。
まぁしょうがない、制服がメイド服だなんてどっかのオタクの聖地ならいざ知らず、オタクの聖地から離れた全く関係無い場所で着れとか言われたら戸惑うに決まってる。
それもこれも……。
「……」
「何でしょうか?」
「いや……何でも無い」
この元・メイドのせいなのだ。
コイツが何時でも何処でも、それこそ人通りの多い商店街だろうが、タイムセールで主婦がごった返しているスーパーの中であろうが何処か二人で遊びに行く時だろうがメイド服を着る零のせいだ。
初めてコイツをバイトに入れた時にメイド服姿でやって来たもんだから、叔母さんと叔父さんが悪乗りしちまい、メイド服姿のまま仕事をさせたのが全ての始まり……今では口コミだけで広まったとは思え無い位に周りに浸透してしまった。
つーか、この間なんて何かの雑誌の1ページを飾ってたしな、コイツの写真で。
「零……紅茶もう一杯くれ」
「畏まりました零様」
だが、そのお陰で売上が以前の倍以上になったんだから文句は言えない。 ある意味ではコイツにも足を向けて寝られないのだから。
「ちなみにメイド服というのはどういうものなんでしょうか? 漫画とかでは見た事がありますが、実物は見た事が……」
零が紅茶のお代わりを入れる為に厨房に入った所で美佳ちゃんが質問をする。
「ああ、それなら零が……零!」
「は」
厨房に向かって零の名前を呼ぶと、いつの間にか俺の横に現れる。
この高速移動とも言える動作の正体は未だに不明である。
「美佳ちゃんがマジなメイド服を見たいんだと、だからお前……ちょいと着て貰って良いか?」
「はっ!」
そう言うとまたもや原理不明の高速移動を使って消えた。
「凄い……霧島さんが消えたのもだけど、ホントに霧生くんの言う事を聞くんだね」
俺と零のやり取りを見ていた美佳ちゃんか驚き半分な声を出す。
「だよねぇ、れーくんったらいつの間にかお嫁さん貰ってるんだもん、ビックリだよ」
驚いている美佳ちゃんの横で叔父さんが余計な事を言う。
「えっ!? まさかとは思ってましたけど、やっぱり霧生くんと霧島さんって……」
「うん、初めて零ちゃんを連れて来た時にれーくんったら『コイツは俺の嫁だっ!!』って言ったんだよ? あれには驚いたもんだよ」
「言ってねーし! 嘘教えんな!」
「えぇ~? でも周りから見たら完璧に夫婦の領域に入ってると思うんだけどなぁ。普通、何も無い男女が夫婦でも難しいとされてる“視線だけでの会話”は成立しないと思うよ?」
「視線だけって……凄い」
「馬鹿言ってんじゃねぇぞオイ! あれは何と無く出来ちまっただけなんだよ!!」
「い~やいや、何と無くで出来る芸当じゃ無いと思うんだけどね~?」
「ぐっ……!」
何を言い返しても茶化すような口調を崩さない叔父さんに段々と押されて行く。
「18になったら結婚するんでしょ? 式場とか今からでもチェックしといたら? 後ベビー用ひ――」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!! 聞こえない聞こえな~い!!」
この後、零が来るまで叔父さんに茶化されるのであった。
続く
叔父さんは口調の通り余り歳は食ってません。