**第6話 魔王様、照れながら大学に付いてくる**
朝ごはんを食べ終わったあと、俺は時計を見てため息をついた。
「……やべ、今日も講義あるんだった。
サボりすぎて単位ヤバいかも」
ベッドに座ってスマホをいじっていると、リリスが俺の後ろから覗き込んできた。
まだ俺のシャツを勝手に着て、裾が太ももまでしか隠れてない危ない格好だ。
「大学……? ふん、人間どもの学び舎か。面白そうだな」
「面白くねえよ。ただの退屈な講義だ。
お前はここで大人しくしてろ。壁の穴もどうにかしないと……」
「うるさい。我が付いて行ってやる」
リリスは当然のように宣言した。
「は?」
「べ、別に悠真が寂しいとか、そんなんじゃないからな!
ただ、魔王として人間界の教育制度を視察してやるだけじゃ!」
「視察って……お前、角生えてるぞ。目立つに決まってるだろ」
「ふん、そんなもの簡単じゃ」
リリスは指をパチンと鳴らした。
瞬間、頭の角が小さく縮んで、ほとんど目立たなくなる。
マントも消えて、普通の黒いブラウスとスカートに変わった。
……ただ、胸元が相変わらず危ない感じだ。
「どうだ。これで人間の女子大生に見えるだろ?」
「見えねえよ! スタイル良すぎて逆に目立つわ!」
「うるさい! これで決まりじゃ!」
結局、俺はリリスを連れて大学に向かうことになった。
講義室に入ると、周りの男子学生が一斉にリリスを見てざわつく。
「誰あれ……超美人じゃね?」
「隣の高見沢と一緒にいる……マジかよ」
俺は席に座りながら小声で言った。
「ほら、目立ってるだろ。早く帰れよ」
「ふん。我は悠真の隣に座る。……べ、別に守ってやりたいわけじゃないからな!」
リリスは俺の隣の席に堂々と座った。
講義が始まっても、リリスは退屈そうに頰杖をついている。
教授が黒板に数式を書いていると、彼女は俺の耳元で囁いた。
「この人間の魔法……つまらんな。我の方が百倍優れてるぞ」
「魔法じゃねえよ、微分積分だよ」
休み時間になると、リリスは俺の机に突っ伏してぼそっと言った。
「悠真。……人間の学び舎、意外と退屈ではないな。
お前が隣にいるから……まあ、悪くない、かも……しれない」
耳が少し赤い。
俺はダメ人間らしくスマホをいじりながら答えた。
「はあ……お前がいるせいで周りがうるせえよ。
あとで『彼女?』って聞かれたらどう説明すんだ」
「彼女でいいだろ。魔王の伴侶じゃ」
「待て待て!」
そのとき、教室の入り口から一人の小柄な女の子が入ってきた。
銀髪のツインテールに、赤いリボン。
見た目は中学生みたいだけど、目つきが妙に鋭い。
彼女はまっすぐ俺たちの席に近づいてきて、リリスを睨んだ。
「リリス姉様……! また人間界で遊んでるの?」
リリスがピクリと肩を震わせた。
「ちっ……セラか。邪魔だ、帰れ」
「帰らないよ! 姉様が毎日この人間の部屋に侵入してるって、魔界で噂になってるんだから!
私も……この人間に会ってみたかったし!」
セラと呼ばれた少女は、俺をじっと見つめてきた。
「あなたが高見沢悠真? ふーん、普通の人間ね。
姉様が夢中になるなんて、信じられない」
リリスが慌てて立ち上がる。
「うるさい! セラ、お前は関係ない!
悠真は……わ、私のものじゃ!」
セラはにやりと笑った。
「へえ。じゃあ、勝負しましょ。
どっちが悠真くんを落とせるか」
俺は頭を抱えた。
(はあ……今日も平和じゃねえ。
しかも今度は妹分まで登場かよ……大学サボって家に帰りてえ)
リリスは俺の腕をぎゅっと掴んで、ツンとした顔でセラを睨みつけた。
「悠真は私のものだぞ……絶対に渡さないからな!」
その声は、いつもの高飛車さの中に、ちょっとした焦りが混じっていた。
魔王様のツンデレ大学侵入、そしてライバル登場で、
俺のダメな日常はますますカオスになっていった。




