**第3話 魔王様、照れながら一緒に風呂に入りたがる**
「はあ……今日の講義、マジで寝てたわ。課題も溜まってるし、金もないし、最悪……」
俺、高見沢悠真は部屋のドアを閉めるなり、シャツを脱ぎ捨ててベッドに倒れ込んだ。
典型的なダメ大学生。やる気ゼロ、将来の夢ゼロ、ただ生きてるだけ。
すると、いつものタイミングで――
ドゴォォォン!!
壁が盛大に崩れ、粉塵が舞う中、リリスが黒マントを翻して堂々と侵入してきた。
「ふん。今日も遅かったな、悠真。……べ、別に心配なんかしてないからな! ただ、魔王としてお前の生活を監視してるだけじゃ!」
リリスは腕を組んで偉そうに立っている。でも、チラチラと俺の裸の上半身に視線を這わせているのがバレバレだ。
「監視って……お前、毎日壁ぶち破ってる時点でストーカーだろ。
しかも大家にバレたら俺、退去確定なんだよ。マジでやめてくれ」
「うるさい。我が魔王の侵入を止めるなど、許さん。……それより」
リリスは急に目を逸らして、頰を赤く染めた。
「べ、別に我が興味あるわけじゃないけど……お前、汗臭いぞ。風呂に入ったらどうだ?」
「今から入るつもりだったよ。一人でな」
「一人で……?」
リリスの耳がピクッと動き、顔がさらに赤くなる。
「ふ、ふん! 魔王である我が、人間界の風呂文化を研究するためだ!
だから……一緒に浸かってもいいぞ! べ、別に悠真と入りたいとか、そんなんじゃないからな!」
「はあ!? 一緒にって……お前、急に何言い出すんだよ!」
俺が慌てて起き上がるより早く、リリスは浴室に向かって歩き出した。
「おい、待てって! 勝手に入るな!」
「うるさい! 早く来い! 我が待たされるなど、魔王の沽券に関わる!」
リリスは浴室のドアを開けると、マントをするりと脱ぎ捨てた。
黒いドレスが床に落ち、黒レースのブラとショーツだけの姿が露わになる。
完璧すぎるスタイルに、俺は思わずごくりと喉を鳴らした。
「……っ! 見るな、ばか!」
リリスは両手で胸を隠しながら、ツンとした顔で俺を睨む。
「見てるだろ! この変態! ……まあ、魔王の体を見られるのは光栄だと思うがな!」
「見てねえよ! ……いや、見てるけど、仕方ねえだろ!」
俺がタオルを腰に巻いている間に、リリスはすでに湯船にお湯を溜め始めていた。
「早く脱げ。魔力共有の効率を上げるため、一緒に入るぞ。
べ、別にくっつきたいわけじゃないからな!」
「効率とか言ってるけど、お前完全に照れてるだろ……」
「うるさいうるさい! 早く入れ!」
仕方なく俺も浴室に入った。
狭い浴室に、リリスがすでに湯に浸かっている。湯気が立ち上る中、真紅の瞳が俺を捉える。
「ふん……意外と貧相な体だな。もっと鍛えろ、魔王の伴侶なら」
「うるせえ。俺は普通の人間だよ」
俺は湯船の端に座ろうとしたが、リリスがすぐに俺の隣にぴったり寄ってきた。
「離れるな。……魔力の流れが悪くなるからじゃ! べ、別に悠真の体温が気持ちいいとか、そんなんじゃないぞ!」
彼女の肩が俺の肩に触れ、柔らかい感触が湯の中で伝わってくる。
俺の心臓がバクバク鳴り、ダメ人間脳がフル回転する。
(やべえ……魔王様の胸が当たってる……これ夢じゃね?)
リリスは湯に浸かりながら、ぼそっと小さな声で呟いた。
「……意外と、心地よいな。悠真と一緒だと……まあ、悪くない、かも……しれない」
最後の言葉はほとんど聞き取れないくらい小さかった。でも、耳が真っ赤なのははっきりわかった。
俺は湯の中で天井を仰ぎ、ため息をついた。
「はあ……風呂代がもったいねえ。
しかも、今日も壁の修理代考えたら泣きそう」
そのとき、壁の穴の向こうから、また微かな物音が聞こえた。
ガタン……コンコン。
リリスがピクリと反応する。
「ちっ……またあの小娘か。悠真、我がここにいることは絶対に言うなよ?」
「だから誰なんだよ、その小娘……」
「我のライバルみたいなものじゃ。今日は我が独占するんだからな!」
リリスは湯の中で俺の腕に自分の腕を絡め、ぎゅっとくっついてきた。
「わ、私のものだぞ……悠真は」
声が少し震えていて、ツンとした態度とは裏腹に、甘えた響きが混じっていた。




