**第11話 魔王城到着、照れながら家族総出の歓迎(?)**
黒い渦に吸い込まれた瞬間、世界が一変した。
足元がふわっと浮いて、すぐに固い石の床に着地する。
視界が開けると、そこは広大な大広間。
天井は遥か高く、赤黒い結晶が無数に輝くシャンデリア。
壁には炎のような魔力が揺らめき、床には豪華な絨毯が敷かれている。
魔王城――だ。
リリスが俺の手を強く握ったまま、母上の後ろを歩く。
「父上……本当に怒ってるかな……」
セラは俺のもう片方の手を握りながら、小声で囁く。
「大丈夫だよ、悠真くん。お父様、怖いけど……本当は優しいんだから」
母上は優雅に振り返って微笑む。
「ふふ、心配しなくてもいいわよ。
父上はただ、娘たちの『お相手』を確かめたいだけだから」
俺はダメ人間全開で周りを見回した。
「……はあ。マジで魔王城に来ちゃった。
家賃とか大学とか、もうどうでもよくなりそう……」
広間の奥、玉座のような高い椅子に、黒い鎧をまとった巨漢の男が座っていた。
角はリリスより大きく曲がり、瞳は燃えるような赤。
威圧感が半端ない。魔王本人だ。
「来たか、リリス、セラ……そして、人間」
魔王の声が広間に響く。
俺は思わず後ずさりそうになったが、リリスが俺を前に押し出す。
「父上! これは……その、魔王候補としての……!」
魔王はゆっくり立ち上がり、俺に近づいてくる。
一歩ごとに床が震える。
「お前が高見沢悠真か。
娘たちを惑わせ、毎日壁を破らせ、魔王の娘二人を同時に相手にしているとは……」
俺はヘタレ声で答えた。
「……す、すみません。全部向こうから来てて……俺は何もしてないんです……」
魔王は俺の顔をじっと見つめて、突然笑った。
「ははは! 面白い人間だな。
怯えながらも、娘たちを守ろうとする目をしている」
リリスが顔を赤くして叫ぶ。
「父上! 悠真をからかわないで!
……べ、別に私が守りたいとか、そんなんじゃないからな!」
セラが俺の腕に抱きつく。
「お父様、悠真くんは私たちの大事な人なんだよ!
いじめないで!」
母上がくすくす笑いながら、魔王の隣に立つ。
「あなたも少しは優しくしてあげなさい。
娘たちがこんなに本気な相手なんて、初めてなんだから」
魔王は腕を組んで、俺に視線を戻した。
「ふむ……ならば、試させてもらおうか。
お前が本当に娘たちに相応しいかどうか」
「試す……?」
魔王が指を鳴らすと、広間の中央に魔法陣が浮かび上がった。
「簡単な試練だ。
娘たち三人(母上も含めてな)と、順番に『親密な時間』を過ごしてみせろ。
魔力の相性を測る儀式じゃ。
耐えられたら……お前を正式に認めてやる」
リリスが即座に真っ赤になる。
「なっ、何を言ってるんですか父上!
そんな……親密な……!」
セラも頰を赤らめて、でも少しワクワクした顔。
「えー、でも面白そう!
悠真くん、私からでいい?」
母上は妖艶に微笑んで、
「ふふ、私が最後でいいわ。
人間の体が持つかどうか……楽しみね」
俺は頭を抱えた。
「……はあ。今日も平和じゃねえ。
今度は魔王一家全員と『親密な時間』って……
俺の心臓、絶対持たねえよ……」
魔王は玉座に戻り、腕を組んで宣言した。
「始めろ。
まずはリリスからだ。
娘よ、恥ずかしがるな。魔王の娘なら堂々とせい」
リリスは俺の手を強く握り、顔を真っ赤にしながら魔法陣へ向かう。
「悠真……覚悟しなさい。
べ、別に楽しみにしてるわけじゃないからな!
ただ……父上の前で、ちゃんと魔力共有するだけじゃ……!」
魔法陣が光り始め、
微かに甘い魔力が俺とリリスを包む。
リリスの体が近づき、耳元で囁く。
「……悠真。私の……全部、感じて」
柔らかい感触と熱い息が、俺の体を震わせる。
セラと母上が後ろで待機し、魔王が見守る中――
魔王一家総出の「親密儀式」が、始まろうとしていた。
俺のダメ人間人生は、
完全に魔界の渦に飲み込まれていく。




