**第10話 魔界からの使者、照れながら乱入してくる**
深夜、ようやく三人でベッドに沈み込んだ頃だった。
俺のスマホが突然鳴った。
着信音は魔界っぽい不気味なオルゴール調。
……って、俺そんな着信音設定した覚えねえぞ。
画面を見ると、表示は「魔界王宮執務室」。
リリスが即座に飛び起きて、俺のスマホを奪い取った。
「っ!? これは……父上の!」
セラも目を丸くして起き上がる。
「え、お父様から!? やばい、姉様の居場所バレてる……」
電話に出ると、低く威厳のある声が響いた。
「リリス。……そしてセラもか。
お前たち、何を人間界でやっている」
リリスが慌ててスピーカーをオフにしようとするが、遅かった。
「父上! これは……その、魔王候補としての修行で……!」
「言い訳はよい。
今すぐ王宮に戻れ。……いや、待て。
そこの人間も一緒に連れて来い」
俺は布団の中で固まった。
「……は? 俺?」
声がスピーカー越しに俺に直接向かう。
「高見沢悠真。お前が娘たちを惑わせている人間だな。
魔王の娘を二人も相手にしているとは、なかなか度胸がある。
今すぐ魔界に来い。話がある」
電話が切れた。
部屋に沈黙が落ちる。
リリスが顔を真っ赤にして俺の胸を軽く叩く。
「ば、ばか! お前のせいで父上にバレた!
……べ、別に私のせいじゃないからな!」
セラが俺の腕にしがみついてくる。
「悠真くん、どうしよう……魔界に行っちゃうの?
私たち三人で?」
俺は天井を仰いでため息をついた。
「……はあ。今日も平和じゃねえ。
魔界って……マジで行くのかよ。
パスポートとかいる? いや、いらねえか……」
リリスが俺のシャツをぎゅっと掴む。
「行くしかない。父上は本気だ。
……でも、悠真を一人で行かせるわけにはいかないからな!
私もセラも……一緒に連れてく」
セラが頷く。
「うん! 悠真くんを守るよ。
魔界の人はみんな怖いけど、私たちがいれば大丈夫!」
その瞬間、部屋の壁の穴(今や三つ目)が光り始めた。
黒い渦のようなポータルが開き、中から黒いローブを着た長身の女性が現れた。
銀髪をポニーテールにまとめ、赤い瞳。
リリスとセラに似てるけど、もっと大人びてて、胸元が深く開いたドレスが妖艶だ。
「ふふ……お待たせ、リリス、セラ。
そして……あなたが高見沢悠真くんね」
彼女は優雅に微笑みながら、俺のベッドに近づいてくる。
リリスが即座に俺を庇うように前に出る。
「母上!? なんで母上が……!」
母上……つまり魔王の妻か。
彼女はリリスの頭を軽く撫でて、俺に視線を移した。
「娘たちが毎日人間の部屋に侵入してるって聞いてね。
父上は怒ってるけど、私はちょっと興味があるの。
どんな人間が娘たちを夢中にさせるのか……って」
彼女はベッドの端に腰を下ろし、俺の顎を指で軽く持ち上げる。
柔らかい指先。甘い香り。
至近距離で覗き込まれると、心臓が跳ねる。
「ふふ、可愛い顔してるわね。
リリスとセラが取り合いしてるのもわかる気がする」
リリスが慌てて母上の手を払う。
「母上! 悠真に触らないで!
……べ、別に嫉妬してるわけじゃないけど……!」
セラも負けじと俺の腕を抱きしめる。
「お母様も悠真くんに興味あるの?
でも悠真くんは私たちのなんだから!」
母上はくすくす笑って、俺の耳元で囁く。
「二人とも可愛いわね。
でも……悠真くん、私とも少し遊んでみない?
魔王の妻の味……悪くないと思うけど?」
彼女の指が俺の首筋をなぞる。
微かに魔力が流れてきて、体が熱くなる。
俺はヘタレ全開で目を逸らした。
「……あの、俺はただの大学生で……
魔王一家に囲まれるとか、寿命縮みそうなんですけど……」
母上は微笑んだまま立ち上がる。
「ふふ、冗談よ。……半分はね。
さあ、魔界に来なさい。
父上も待ってるわ。
三人……いや、四人でゆっくりお話ししましょう」
ポータルがさらに広がり、吸い込まれそうな黒い渦が部屋を覆う。
リリスが俺の手を強く握る。
「悠真……怖がらなくていいからな。
私が……守ってやる」
セラも反対側の手を握る。
「うん! 私も一緒にいるよ!」
母上は優雅にポータルへ歩き出しながら、振り返って言った。
「それじゃあ、行きましょうか。
人間界のボロアパートより、魔王城のベッドのほうが……ずっと広いわよ?」
俺は二人に手を引かれながら、ため息をついた。
「……はあ。今日も平和じゃねえ。
今度は魔王一家全員に囲まれるのかよ……」
魔界への扉が開き、
ツンデレ魔王様と妹分、そして妖艶な母上の争奪戦(?)が、
新ステージへと移ろうとしていた。




