ゴブリンを食べましょう⑨
「ごちそうさまでした」
二人で祈りをして同時にいう。結局食べられるのはもも肉と眼球以外だった。あとはまるで普通の料理のように美味しく食べてしまった。一番美味しかったのはスープにこっそり入れられていた舌だ。噛むと溶けた。
「美味しかったですね」
ルチアはえくぼを作っていう。
「ああ美味しかったね」
嘘偽りなく答える。ルチアは一息吐いた。
「良かったです」
ついさっきまでゴブリンを食材とみなしていなかったのに、今では食材として胃袋に収めてしまった。もしかしたら解体したときから俺は食材として認めていたのかもしれない。
ふと、疑問が湧いた。
「ねえルチア」
「何ですか?」
「どうして俺とゴブリンを食べたかったの?」
「ご飯は誰かと食べたほうが美味しいじゃないですか。だからジークと食べたかったんです」
迷いなく答えるルチア。答えになっていない気がする。ここは強気にルチアの心を見抜いておこう。
「それだけ?」
真意を問うように見つめると、ルチアは逡巡してから観念するようにいう。
「ジークは誰かとご飯を食べるのが苦手じゃないですか」
今の今まで俺がルチアの心を見透かそうとしていたからか、この心の的を得た発言に動揺してしまう。
俺は、人と食卓を囲むのが苦手だ。それは子供の頃の躾が原因なのは明らかだった。ルチアと旅をして、一緒に食事をしてようやく小慣れてきたくらいだ。自分から他人を食事に誘うこともないし、誘われたら極力断っている。今回のルチアの誘いもそういう面で断りたかったところもある。
「お節介でしょうけど、わたしはジークとまた食事がしたかったのです」
ルチアは桜色の唇を横へ伸ばす。
「なにもゴブリンじゃなくて、普通の食事で良かったんじゃない?」
「それはわたしがゴブリンを調理して食べてみたかったんです」
ルチアは唇を舐めて続ける。
「そしてジークと一緒に食べて、美味しいを共有したかったんです」
最初と同じことを言っている気がするが、繰り返すくらいルチアはどうしても俺と一緒にゴブリンを食べたかったのだ。そして先ほどの時間を共に過ごしたかったのだろう。それは自分の欲のためでもあり、俺の苦手意識を改善してくれようとしていた。俺がルチアを慮るように、ルチアもまた俺の事を慮ってくれていたのだ。
俺は言葉に迷ったが、すぐにこれだろうと適切な言葉を思いついた。
「ありがとうルチア」
朗らかにいうとルチアは目を大きくする。そして柔和に笑うのだ。
「どういたしましてジーク」
腹の中に溜まった美味い食事のおかげで、もう寒気などせずに身体が温まっていた。




