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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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ゴブリンを食べましょう⑤

 

 ルチアが選んだ調理場はシュルツトウヒの木立の中にあった。冬があけようとしているのにも関わらず枝葉を落とさずに力強く立っている。


 そんなシュルツトウヒの木立の奥には薄緑色の泉があり、ここを訪れた誰かがそうしたのか、泉と木立の間に木の板が埋められていて、その近くに腰掛けれるくらいの高さのトウヒの幹が二つと、それと向かい合うように丸太椅子が置かれていた。向かい合う椅子の中心には焚き木をした跡が残っている。もしかしたらここは炭坑夫の憩いの場だったのかも知れない。


「よくこんなところを見つけれたね」


 俺の祈りは通じず、ここまでは廃鉱山から歩いて三分程度で到着した。


「周りの景色を見るのが好きですから、たまたま目に入ったんです」


 ルチアは周りを見渡しながら白い息を吐いた。


「本、読んでなかった?」

「到着前は読み返しでしたので、周りの景色を楽しんでいましたよ」


 閉まって見ればいいのにと思うも、ルチアにはルチアなりの楽しみ方があるんだろう。変なところで拘り強いし。


 ふと、俺が本を覗き見た時は読み返した時だったのだろうかと気になったが尋ねることはなかった。


「では調理場と器具の準備をしましょう」


 ルチアは手を離してナップザックにログクリスタル棒を突っ込んでから落ちている枝を拾いだす。


 俺もゴブリンを持ちながら泉の周りにある石を集め出す。お互いになにもいわずに行動を始めたのは息が合っているとかじゃなくて、一緒に旅した経験が染み付いているだけだ。ルチアが火種を集める役で、俺が調理場を作る役。なぜか自然とそうなった。


 石を集め終わって組んでいると、小さな胸に枝や皮を抱えたルチアが戻ってきた。


「ジークはゴブリンの骨格を知っていますか?」


 ルチアは木の板の上に枝を置いて、屈み、組んでいる調理場の中に適当な枝を入れながら尋ねてきた。


「見たままじゃないの?」


 骨格は猿と変わらないんじゃないだろうか。どこを斬れば命を絶てるとの物騒なことしか考えておらず、生物学的な観点から魔物を切ったことはないので、上手く切れるか切れないかしか頭にない。要は手応えという経験だけしか知識としてないのだ。


「実はわたしも知らないんです」

「多分殆どの人が知らないよ」

「魔物図鑑には生態や特徴は書いてありましたが、骨格までは描いていませんでした。もしかしたらわたし達が初めて骨格を残す人間になるかもしれませんね」


 ルチアの目の奥に僅かな好奇心の光が宿っている。


「そこまで気にしていたら食べられなくない?」

「骨まで食べるんですか? 確かに骨太にはなれそうですが噛み砕けるでしょうか」


 ルチアは思案顔で顎をさする。


「食べないってば。牛や豚も骨は食べないし、骨格標本も作る前提で調理しないでしょ」


 家畜を捌いて、それを全て骨格標本にするのはあるかもしれないけど、ここで否定しておかないとルチアならやりかねない。


 ルチアは顎を摩っていた手を丸めて左上に目線を移動させる。間を空けてから俺へと視線を戻し「それもそうですね。美味しく食べることに集中しましょう」と納得して顔を上下させた。


「それがいいよ。よし、完成だ」


 調理台に調理場も完成したので、硬くなった腰を伸ばす。


「では解体はジークにお願いしてもよろしいですか?」


 ルチアが火種に火をつけて、ある程度安定した火になってから火照った頬でいった。作業場も調理場も出来上がったことで遂にゴブリンを調理する段階にきてしまった。流されやすい性格のせいで、あれよあれよのうちに事が進んでいる。


「嫌ですか?」


 俺が瞬きをするだけだったので、ルチアは眉を顰めて確認してきた。


「嫌じゃなくて意外だなって」


 俺は慌てて誤魔化すように話題をふる。


「というと?」

「姿焼きにでもするんじゃないかと思ってたから」


 実際、丸焼きにして食べるとかいいだすんじゃないかと覚悟していたので若干の拍子抜け感は否めない。


「塩で頂くだけじゃ味気ないかなと、あとは色んな部位を食べ比べられた方が美味しさも上がりそうじゃないですか」

「……そうだね」


 引き攣った頬でいった。ゴブリンの各部位の食べ比べについて同意を求められても困る。


「まあ別に解体するくらいならいいけど、上手くできる自信はないよ」


 ルチアに魔物を捌くなんて血生臭い作業をやらせたくないので、解体する場合は、俺が解体するのを自分の中で織り込み済みだった。ただ牛、豚、羊、山羊、鶏などは解体した経験があるけど、ゴブリンはない。


「大丈夫です。ジークならできますよ」


 両拳を胸の前で上下させて励ましてくれた。根拠のない励ましだ。でもルチアがいうとできる気がするのは、彼女が聖女だからだろうか。


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