ゴブリンを食べましょう④
「ルチア、怪我ないか!」
入り口にある看板まで戻ってきて、他のゴブリンが追ってきていないかを確認してから、ルチアの安否を確かめる。
「はい。ジークが守ってくれたのでありません」
毅然というルチアにホッと安堵する。ゴブリンを生け捕りにした瞬間に、感知範囲外から新たなゴブリンがやってきたんだろう。今回はルチアに怪我はなかったが反省しなければな。
「やっぱり手を繋いだ方が安全でしたね」
下唇を噛んで反省していたら、ルチアの言葉で手を繋いでいたことを思い出し、慌てて手を離した。脇に抱えているゴブリンの熱が気にならなくなってくる。
「死んじゃったんですかね」
ルチアは気にする様子なく、側頭部から血を流して力無く四肢を揺らしているゴブリンの脇腹をつんつんと突いている。一人で気にしているほうが馬鹿らしくなった。
「いやまだ生きてる。目を覚ます前に縛っておこう」
屈んで背負っているバックパックから縄を取り出して、後ろ手と脚を縛っておく。手早く作業をしている背後で「塊肉調理ですね」と真面目な声の調子で聞こえてきた。ルチアの意識はもう調理へと切り替わっているようだ。塊肉じゃなくて怪肉だろ、なんて皮肉は口が裂けてもいわないでおく。
「そういえば持って帰って調理するの?」
作業を終えて立ち上がってから、本当にそういえばな質問をした。
「何いってるんですか、町に生きた魔物を持っていけるわけないでしょう」
少し強めな口調でルチアは口を尖らせる。常識を説かれたのだが、ゴブリンを食べようとしているルチアに説かれたのが解せない。
「じゃあその辺で調理するわけか」
「行きの馬車でいい調理場になりそうな場所を見つけましたので、そこへ行きましょう」
バックパックを背負い直しゴブリンを片手で持ったのを見て、ルチアはさっそく歩き出す。歩き出したところで「あっ」っと声を上げて停止した。
「どうしたんだ?」
隣に並んでから俺が尋ねると、空いている手を握ってきた。心臓が飛び跳ねた。もしかしたら俺も飛び跳ねたんじゃないかと思ったけど、地に足ついていた。ついている気がしない。
落ち着け俺、手を繋ぐなんて昔からしていたじゃないか。これはルチアを繋いでおくリードみたいなものだ。
リードに繋がれたルチアか……背徳的だな。って、いかん、何を想像しているんだ。これは普通、これは普通、友達なら誰でもやっていることだ。そう友達なら普通なんだ。
強く念じて言い聞かせる。
「これで安全です。行きましょう」
ルチアは満足気に頷いて歩き出す。動揺して青い想いを募らせているのは俺だけのようなので、念じ終えた俺は、甘んじてこの時間を享受しておく。調理場よ遠くあれ。




