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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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3/23

ゴブリンを食べましょう③

 

 ギルドから受けた討伐調査内容は廃鉱山を棲家にしているゴブリンの調査である。討伐となるとゴブリンの性質上二人じゃ無謀だ。


 ゴブリンは個体で活動することは少なく、軍で活動している。なので一匹見つけたら近くに何十匹もいると警戒しなければならない。


 知能は低能であるが、軍で襲われたら物量の差で敗退することになる。細心の注意をしながら探すのが重要だ。


 今回は棲家になっている可能性が高い鉱山内部に入らず、沢山開いた鉱山入口へと繋がる、壁に挟まれて凹の字になった狭い通路を散策していく。


「そういえばジークはアレルギーはありませんよね?」


 なのにも関わらずルチアは間の抜けた質問してくる。


「ないよ。好き嫌いもない」


 細い通路になっているので視界が悪く、突然襲われたら致命的な一撃を入れられる可能性だってあるのに呑気なものだ。


「いい子いい子ですね」


 動く物、気配のする方に神経をすり減らしている最中に子供をあやす様に褒められた。俺のことを子供だと思っているのだとすればそれは脈がなーーいかんいかん考えないようにしよう。


「ジーク、あれ」


 ルチアによって俺の袖が引っ張られたのは、俺が要らぬ感情を払拭するのと同時だった。


 左後ろにいるルチアの白く細い指が、通路を抜けた正面の、広まった場所にいる一体のくすんだ緑色の物体を指している。目で追って物体を確認する。ゴブリンだ。


 ゴブリンを認識した時、俺とルチアのゴクリと唾を飲む喉の音が生々しく聞こえた。


 ゴブリンはこちらに気づく事なく、俺たちに背中を向けていた。一匹だけだ。おそらくだが廃坑の外を警邏している奴で、少人数行動しているとみた。


 ゴブリンから極力見えないように身を屈め、壁に張り付き、息を殺しながら近づいていく。ルチアも真似をしてついてくる。


 広くなっている部分の手前までくると、やはりゴブリンは一匹だけだった。しっかりと感知できる周りの気配を再三確認したので間違いない。


 俺は頭を切り落とす為にゆっくりと剣を抜く腕に力を入れる。


「待ってください」


 その行動はルチアの手が重ねられて止まった。


「どうしたの?」


 ゴブリンから目を離さずに問う。


「生け捕りにできますか?」


 耳元で囁かれた。ルチアなりの配慮だろうが背筋がゾクゾクして全身がこそばゆかった。


「出来ないこともないけど」


 至って普通を取り繕って言葉を返す。


「でしたら生け捕りでお願いします」


 期待が込められた声が返ってきた。ゴブリンを生け捕りなんてしたことないけど、期待に応えなければいけないな。その為に存在しているんだし。俺は顎を上下させると、ルチアの手が離れた。


 俺はより屈んで、剣の柄を持っていた手でその場に落ちていた小石を拾い、ゴブリンの奥に落ちるように投げた。


 小石は弧を描いてゴブリンの頭上を通り抜け、狙い通りゴブリンよりも奥へ落ちて、コンと乾いた音を鳴らした。ゴブリンが音に気を取られて振り向く瞬間に、力を入れていた脚を解き放つ。


 ゴブリンが俺の接近に気がつく前に頸椎へと剣の柄を当てる。「ギッ」と呻き声をあげて意識を飛ばした。極力音を立てない為に地面へと倒れる前に受け止める。物凄く緊張したけど生け捕り成功だ。


 狩猟の成果を持ってルチアへと振り返る。ルチアは嬉しそうに音を鳴らさずに手を叩いていた。可愛いらしいなと癒された直後、俺の目線はルチアの左後ろにある細い通路の壁の上へと注視される。


 そこにはルチアへと今にでも襲い掛かろうとしているゴブリンがいた。喉が締まり、身体が冷たくなった。


 冷たくなった身体に濃厚な血を通わせて、俺はまた足に力を入れて駆け抜ける。ルチアの手前で飛び上がると、ゴブリンも飛び降りて襲いかかるところだった。

 

 持っているゴブリンを全力で横へと振り抜いて、ゴブリンとゴブリンの側頭部が直撃する。飛び降りたゴブリンは通路の壁に激突して、嫌な音と共に頭部から紫色の血を飛散させた。


 着地して、ルチアの亜麻色の髪が靡くのが終わる前に、ルチアの手を握って廃鉱山の入り口まで一目散に走り出した。


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