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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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23/23

スライムの可能性を探りましょう③


「……行き倒れの人間を拾ったんだよ」

「はえ? 行き倒れ?」


 観念して伏目で渋々いうと、ハンノの間抜けな声が返ってきた。


「えーっと、それが女性で私に勘違いされるのが困るから家に上げたくないんです?」

「いや、男」

「禁断の恋ってやつですか」


 ハンノがしたり顔で頷くので、頬が吊り上がった。


「違うよ馬鹿。ここら辺で見たこともない男なんだ。一応助けたけど、もしも害悪な人物だったらハンノに危険が及ぶかもしれないだろ」


 実際神父服を着て、三角十字架を持っているから聖職者だと断定するのは危険な思考だ。


「え、私の心配してくれていたんですか」


 ハンノは小首を傾げる。


 それに、聖職者だと伝えて家に上げた場合、同じ聖職者であるハンノが先入観から仲間意識を持ち、危機感を薄れさせたら危険である。そうなれば。


「……ハンノが傷付いたらルチアが悲しむだろ」


 あんまりいいたくない事実をため息混じりに告げると、ハンノはきょとんとしていた。きょとんとした表情から徐々に口元が上へと上がっていく。うわー、本当に嫌いな顔だ。


「いっやー、口と態度で私を倦厭しているのに、私の心配してくれてたんですか? 嬉しいなー。あー、分かっていますよ、分かっています。ルチア様のためですよね。ジーク様はルチア様の笑顔を守り通すために、私の心配をしてくださったのですよね。分かっていますとも」

 

 皆まで言うな、と右の掌を突き出して揺らし、ここぞとばかりに満面の笑みで大きく頷くハンノを、本当に突き返したくなってきた。こうやって絶対にからかってくるからいいたくなかったんだ。


 うんともすんともいえない俺は、ハンノに引き攣った笑顔で答えてやった。そんな対応でもハンノは喜んでいた。何が嬉しいのやら。


「それで、結局お前の用事はなんなんだよ」

「あー忘れてました」

「お前な……」

「冗談ですよ」


 とぼけていうハンノに辟易すると、ハンノは舌を出した。千切ってやろうか。


「まあ、とりあえずは中にルチア様はいないって分かったので、目的は達成されましたよ」


 おどけた口調でいうが、ハンノの顔は笑顔が消えた真面目な顔だ。そんな顔に翳りがさしていた。


「ルチアは昨日教会で別れてから会ってないからな。ルチアが、どうかしたのか?」


 平坂な口調で訊ねると、ハンノは視線を宙に何度か泳がせた。ルチアに何かあったのだろうか。それともハンノの思わせぶりな態度なだけなのだろうか。俺が答えを待っていると、ハンノは目を合わせてから口を開いた。


「ルチア様が家出したんです」

「家出ぇ!」


 俺の裏返った声が山の中を駆け巡って、鳥達が羽ばたいた。


「朝起きたら、これが私の部屋の前に置いてありました」


 ハンノは懐から四つ折りにされた一枚の紙を取り出し、俺の前で開いた。


『探さないでください』


 その一文と、右下にぐにゃぐにゃの波線で出来た楕円形の何かが描かれていた。確かにこれは家出する人間が残す文言だ。


「悪戯……ではないよな」

「悪戯する理由がありませんよね」

「だよな、ハンノじゃあるまいし」

「私じゃあるまいしって、どういうことですか? 私、ジーク様にこーんな悪戯や、あーん。な悪戯はしたことありませんよ」


 ハンノは少しだけイタズラっぽく笑っていう。そういうところだよ、馬鹿。



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