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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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スライムの可能性を探しましょう②


「さて、どうするかな」


 このままでは腹が減って男へと更に八つ当たりしかねない。しかし、買い出しに行こうにも、知らない男を一人残して町へと降るにも気がきでならない。


 何か盗られて困るものなどあまり無いが、思い出の品を盗られた場合、殺意を抑えられない気がする。


「早く起きてくれよ」


 懇願するように男に言葉を投げかける。


 コンコン。投げかけた後に扉が軽快にノックされる音が、玄関の方から聞こえた。朝から誰だろう。そう思っても俺の家に訪問する人物は片手の指で数えられるだけだ。


 自室を出て、ダイニングを超え、玄関まできて、玄関扉に声をかける。


「はい」

 

 声に反応して玄関扉の奥にいる人間の動く気配がした。


「ジーク様、私です。ハンノです」


 俺の眉間に皺が寄るのがはっきりと分かった。なんで朝っぱらからハンノと顔を合わせなきゃいけないんだよ。と、扉を開けるのを躊躇したが、最終的に半分だけ開けて、そこから顔を覗かせた。

 

 扉の奥にはハンノがいた。ショートカットの綺麗な赤毛を持った、ルチアの教会に属している修道女で、俺をとことんからかってくる奴。今日はまだニヤニヤ顔ではなく、頬を紅潮させて、深く息をしていた。


「おはようございますジーク様」

「ああ、うんおはよう」


 ハンノに朝の挨拶をされるのが違和感極まりない。


「どうしたんだ、こんな朝から、しかも態々ここまで来てさ」

 

 ハンノの額からはさっき拭いたであろう汗がまた吹き出していた。


「大事な用もなきゃこんな山中になんか来ませんよ」

 

 ハンノは口を尖らせて自宅の周りを見回す。俺も視線を追う。木々を開墾して作られた畑に、苦労して作った用水路、害あるものが侵入した時の為の警報装置。俺がここに住まうために作った努力の結晶達だ。


 町とルチアの教会の間にある小高い山、その山の正道から外れた、あまり整備されていない急勾配な山道を登ってくると開けた場所に出る。そこが俺の自宅がある場所だ。


 周りに民家などなく、一番近い民家は麓の炭焼きの家という人里離れた家。


「ご苦労様なことだな」

 

 朝早くからそんな山道を登ってきたハンノに皮肉入りの労いの言葉をかけてやる。


「いや、本当に、そう思うなら水の一つでも欲しいですね」

 

 ハンノは芝居がかったように肩を落としていう。家に上げろということだな。


 ハンノを家に上げてやってもいいが、スライムは出るわ、今は変な男を介抱している最中だし、これ以上面倒ごとを増やしたくなかった。なので、悪いがさっさと帰ってもらおう。


「生憎ハンノにあげる、水はない。帰りな」

「鬼なんですか?意地悪しないでくださいよ」

 

 首を横に振って事実を告げると、ハンナは抗議してくる。まあ体力使ってここまで来ているのだ、そうなるよな。


 水を出さない理由でも説明してやるか。


「意地悪で言ってるんじゃない。家にスライムが侵入してたんだよ」

「はあっ! ギルドに通報しなきゃじゃないですか!」


 ハンノは目を見開いて叫んだ。


「待て待て待て、落ち着け。討伐もしたし、水への汚染はないし、増殖もしてない。けど、万が一があるからね」

 

 俺は扉から片手だけを出して落ち着けと嗜めるも、ハンノは眉をあげたまま動じない。


「いや、通報しますよ。義務ですもの」

 

 そう冷静にハンノに突き放された。


 スライムが出たらギルドに通報する義務が市民にはある。理由としては生活水に感染し、繁殖する恐れがあるからだ。


 この近辺のスライムは俺が駆逐したから心配はないのだが、今回は外から来たことで通報しないといけない。後々、地獄のスライム大捜索が行われることだろう。


「分かったよ」

「あら、珍しく物分かりの良いジーク様だこと」

 

 ハンノは口に手を当てて目を丸くさせる。朝ごはんを食べていないのでかなり苛ついた。


「通報ついでに、買い出し頼まれてくれないか」

「何も分かってないですね! 嫌ですよ、自分で行ってくださいよ。荷物持ちながら、またここまで登ってくるとか、修業じゃないですか」


 家に上げたくない一心で頼むと、ハンノは明らかに面倒くさそうに首を振って拒否した。もうひと押しでもしてみよう。折れてくれるかもしれない。


「そう言わずにさ、頼むよ」

 

 ありもしない期待をしながらも、もう一度頼むと、急にハンノの目が細くなった。


「誰か中にいるんですか?」

 

 その的確な一言に脈が早くなる。


「え? なんで?」

「否定しないんですね」

「いない。誰もいない」


 小刻みに首を振ると、ハンノの目がさらに細くなる。


「ジーク様、私、ジーク様がルチア様をよーく見ているように、私もジーク様をよーく見ているんですよ」

「ど、どういう意味?」


 意味が分からなかった。俺のことが好きだからよく見ているとかか? だとしたら丁寧に断ろう。


「どういう意味だと思います? 因みに恋愛的な意味合いでは全くないです」


 阿呆な考えは簡単に打ち砕かれた。ハンノに恋愛的好かれていなくて良かったはずなのに、なんでちょっと心が痛いんだろう。


 痛みは気のせいだと忘れておく。


 冗談はさておき、俺がルチアの表情で意図や意思を汲み取れたりするように、ハンノも俺の反応で意思や意図を汲み取れるといっているんだろう。


 つまり、お前の嘘などお見通しだぞ。ってことだ。やっぱりこいつが苦手だ。


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