スライムの可能性を探しましょう①
鳥の囀りと瞼の裏からも感じる光に、身体が朝だと反応し、覚醒した。瞼を緩慢に開けると、いつもと見え方の違う自宅の天井だった。
俺はダイニングの長椅子の上で寝転がっていた。なんでここで寝ているんだっけ、と思いつつ身体を起こす。背中、いや身体が痛い。筋肉痛と硬い場所で寝た痛みが混じり合っている。
凝り固まった身体を伸ばすと程よい気持ちよさがした。
大きく息をついて、ダイニングの奥にある自分の寝床を見ると、誰かが寝ていた。それが男だと理解した時、寝ぼけた頭が更に覚醒し、昨夜の事を思い出した。
昨夜、教会からの帰り道で聖職者の行き倒れと遭遇したのだ。そのまま放置して関わり合いにならないでおこうとの選択肢を選びそうになったが、男の手から落ちた三角十字を見て、ルチアの顔が浮かんだ。
おかげで、男を背負って帰路からして一番近い自宅まで連れ帰ってしまった。ルチアの教会に知らない男を連れ込むのは気が気じゃないし、町まで男を背負って行く体力が、昨日は残っていなかったせいで、自宅に知らない男を入れるのは防犯的に躊躇したが、心のルチアが怒った顔をしていたので、必然的にそうなった。
自分の寝床に寝かせてから、疲れた身体を無理やり動かしつつ、食事や着替えやらと介抱してやって、自分はこの長椅子で夜を明かしたんだった。
のそのそと長椅子から降りて自室へと入り、寝床で寝ている男の元へと移動する。
男は反対側の窓からの朝日を受けていても眠ったままだった。あれから男は目を一度も覚まさなかった。ただ、眠りながらも粥を食べたり、水を飲んだりはするので、生きてはいる。
男の見た目は、細長く整った鼻に、血色の良くなった唇は薄く伸びているように見える。端正な顔に物優しさが宿った顔だ。年齢は若そうだ。同年代とは思えないが、三十代にも見えなかった。着替えせた時の肌は綺麗なものだった。そこからは肌を綺麗にできる環境に身を置けて、傷なんて受けてこなかった人生を垣間見れた。
寝床の隣にある旅用の床几の上には、畳んだ男の衣服と、衣服の上に三角十字架が置いてある。見慣れた神父服で、持ち物は三角十字架だけだった。一体この男はどうして行き倒れになったのか。なーんて、一切興味がない。
俺がルチアに誇れる俺でありたいだけで、この男が何者だろうと興味はない。害をもたらすなら、それ相応の始末をつけるだけだ。
寝息をたてている男を一瞥して踵を返し、再びダイニングに移動する。
朝ごはんを作ろう。パンが余っていたはずだ。
軽快に食料棚を開けると、身体が固まった。
「げっ」
身体が固まった原因である、食料棚の中をうねうねと動く粘体を見て頬を引き攣らせてしまう。
青色のスライムが食料棚の食料を取り込んでいた。朝食に食べる分のパンも、男に作る粥の材料の麦も、青い身体の中に取り込んでいる。
すぐさま逃がさないように食料棚を閉じ、急足でダイニングに置いてある短刀を手に取って、食料棚の前まで戻り再び開ける。
ダン! と短刀を真上からスライムに突き刺す。衝撃が伝わったが、手応えはない。しかし、感触を裏切るように、うねうねと波打っていた粘体が一度大きくビクついてから、食料棚の床へと溶けるように形を失っていく。
スライムが動きを止めて、ただの粘着質な液体になったのを見届けて、ため息を大きくついた。
「最悪だ」
頭を抱えて叫びたいが、それをする気も起きない。スライム避けは徹底していたのに、どうして家の中にスライムが入ってきているんだ。
ヤツらはありとあらゆる食材を身体に入れて、消化するという行為しかしない非生産的な魔物。どこにでもいて、人間の天敵。だから人はスライムを徹底して生活圏から排除する。のにも関わらず、どうして俺の家にいるんだ。昨日までいなかったのに。
「昨日まで?」
俺はハッとして自室を見やる。そして、もしかしての可能性を確かめるために、また自室へと入って、男の神父服を両手に持って広げる。
「うわ、あった」
神父服の内側の腰回りに、スライムの痕跡が残っていた。どうやら見逃していたようだ。
肩を落として力無く神父服を畳んで元の位置に戻す。元凶の男が幸せそうに笑っているのを見て、行き場のない怒りの矛先として鼻を摘んでやった。苦しそうな顔で呻いたので、これくらいで勘弁してやった。




