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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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キノコを捕まえに行きますよ④


「ジーク、見てください、セイヨウフキがありますよ」


 ウキウキをはらませた声で、ルチアは足元にあるセイヨウフキへと屈んで観察を始める。


「目的、忘れてないよね?」

「もちろん、忘れていませんよ」


 セイヨウフキだと確認して、薬になる葉を摘んでいるルチアは、俺の質問に振り向かず答えた。


 辺りに魔物や獣の強い気配はしないが、警戒を怠らずにぐるりと見回す。方向感覚を狂わせるように乱雑に生えた木々に挟まれた森だ。頭上を覆い尽くすアーチ状の枝葉の隙間から木漏れ日が漏れていて、春の風が吹くと、嘲笑う音をたてて、新緑の匂いを感じさせた。


「キノコを捕まえに行きますよ」


 ルチアの宣言を思い出す。


「キノコを?」

「捕まえに行く?」


 ハンノの疑問に、息があったように俺が続ける。


「そうです。キノコを捕まえに行くんです」


 胸を張って格好をつけたルチアの目は、好奇心で爛々と輝いていた。長年の付き合いで態度と表情を見るだけで分かる。これは決定事項だ。


「い、いやルチア様、まだやることは沢山ありますよね?」


 外出させたくないハンノは落ち着けと一歩前にでる。大司教が近々やってくるのだ、やることは山積みなのだろう。


「急ぎでやることは片付けました。それに、これもその一つです。遊びに行く訳ではありませんよ」

「キノコを捕まえに行くことがですか?」


 ハンノの問いにルチアは顎を引く。こうなったルチアは何を言おうが無意味だ。やるといったらやる。もしも都合が悪ければ、それまでに都合をつけるか、とってつけたそれらしい言い訳で、否が応でも実行に移す。


 それにハンノは、まだ言葉の不気味さに気が付いていない。これはゴブリンを一緒に食べに行った俺だけが違和感を持てる事柄なんだろう。


「ねえルチア、キノコを捕まえに行くってどういうこと?」


 違和感を解消するために、今度は俺が質問をした。


「どういうこととは?」


 質問の意味が分からず、ルチアは眉をひそめた。


「いやキノコを採りに行くなら意味がわかるんだけど、捕まえるだと、それじゃあまるでキノコが生き物みたいでしょ」


 違和感に近づく質問をすると、隣にいるハンノが、確かに、と呟いた。


「私の考えは何でもお見通しのようですね。流石ジークです。そうです。生きたキノコを捕まえに行くんですよ」


 ルチアの表情が明るくなって宣言する。嫌な予感がすぐ後ろまでやってきている。これを口にしたら肩を叩かれるんだけど、黙っていることはできなかった。


「それって、魔物だよね」


 ピルドの森で棲息している菌類の魔物は一体だけだ。その名もツァィトキノコ。見た目はモリーユ(アミガサダケ)なのだが、全長は約三十センチ以上あり、菌糸でできた脚が生えている。魔力、音、空気、何に反応しているかは解明されていないが、約十メートル程で動くモノを感知する。感知すると、何かに激突するまで真っ直ぐ突進してくる魔物だ。回避さえできれば、子供でも討伐できるくらい弱い魔物としても有名である。


 そう、魔物だ。それを捕まえに行くと宣言している。しかも俺を連れて。一週間程前のゴブリンの肉団子スープの味がぐつぐつと蘇ってくる。


 もちろんツァィトキノコは食べられない。


「魔物ですが、どうかしましたか?」


 あっけからんというルチアに絶句してしまう。


「き、危険ですよ、ルチア様! お怪我でもなされたら大変です!」


 魔物を脅威と思ってもいないルチアに、俺とは違う危機感を覚えたハンノは、声を大にして計画を止めにかかった。いや、もしかしたら大司教と会うのに、怪我をされて礼拝が頓挫されたら困るからかもしれない。


「大丈夫ですよ、その為にジークと一緒に行くんですから。私は足元に気をつけて、前を見て歩くだけですよ。ねっ」


 微笑んだルチアに水を向けられて、弱点にクリティカルヒットした俺は、おずおずと頷いてしまう。


 ハンノがじっとりとした視線で俺を見ている。


「ま、任せて、俺がルチアを守って、無事帰ってくるからさ」


 このままでは一人でピルドの森へと行ってしまうので、同行することに決めた。ハンノは大きくため息をついた。


「……分かりました。ジーク様とご一緒でしたら、大事になることはありませんね」


 逡巡してから、ハンノは仕方なくを大いに含めていった。普段はからかってくる癖に、魔物討伐面においては信頼されているので、ハンノには悪いが俺が付いて行くといえば折れると分かっていた。


「ただし、日が落ちる前には戻ってきてくださいね! ルチア様がいないと、私がお咎め受けるんですから」


 口を尖らせたハンノは、少しだけ怒りがこもった口調でいう。


「ありがとうございます。ご迷惑かけますね、ハンノ」

「もう慣れましたよ」


 肩をすくめるハンノ。わかる。ルチアと共に生活しようとするなら、振り回されるのに慣れるしかないよな。でも別に振り回されても悪い気がしない。それはルチアの人徳だ。


「ご迷惑ついでですが、教会は礼拝者のために開放中でして、現在教会には鍵をかけていません。リュグナーお爺様が礼拝中ですので、ハンノが戻ってくる間、お留守番を頼み、引き受けてもらいました。なので、買い出しが終わり次第、戻ってあげてください。あと、婦人会の方から臨時の炊き出しをご依頼されましたので、仕込みを終えておいたので、婦人会の方々と共に炊き出しの主導をお願いしますね」


 ぺこりと頭を下げているルチアに、ハンノの顔は、困っているのか笑っているのか、なんともいえない顔に歪む。


「ルチア様ってお人は……」


 ハンノは肩を落として、眉間を指で摘んだ。御愁傷様といってやりたい。


「よろしくお願いしますね、ハンノ。では、行ってきますね」


 それ以上追求がないのを了承ととって、ルチアは踵を返す。


 ルチアとハンノが、俺に魔物討伐への信頼をおいているように、ハンノも教会の窓口役としてルチアに全面的に信頼されている。ルチアの信頼って大きくて重いんだよな。慣れていない並の人間じゃ潰れてしまう。でもハンノはその信頼に応える力があると、俺も知っている。口ではいわないが、ルチアに好意的な者同士、俺もハンノを信頼している。それにこいつは、こうして頼られることを満更ではないと思っている。


 だから、せめてもの労いのために、落ち込んだふりをしている肩を軽く叩いてやった。


「……お気をつけて」


 殆ど地面を見ながら、力無く手を振ったハンノを尻目に、俺はルチアの後を追った。去り際にハンノの口元が吊り上がっていたのを見逃さなかった。



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