ゴブリンを食べましょう⑽
「お腹ポンポンです」
帰りの馬車内でルチアはお腹をさすりながらいう。
あれから食べられるのは残さず食べて、片付けをして、道具として使えそうな部分だけを持って帰り、あとは火に焚べた。ルチアはナップザックに骨を入れていた。記念に骨格標本を作るらしい。
隣にいるルチアの肩が、馬車が揺れる度に当たる。最終便の馬車には誰も乗っておらず、俺とルチアだけだ。そんな満腹なルチアに訊ねたいことを思い出す。
「あのさルチア」
「なんでしょう」
ルチアは大きな瞳を向けてくる。
「もしも俺だけが中毒症状が起こっていたらどうしたの?」
神業はルチアが祈ったことを実現させる。それが到底不可能な事でも実現してしまう。ただ、叶う範囲のムラがある。ルチア曰く、祈りの力が足りないらしい。
だから、神業で食べられるようにしても、もしかしたらそれは、ルチアだけが食べられるようになっただけかもしれないのだ。その場合、ルチアはどう対処するつもりだったのかを、ようやく空回りな勢いが落ち着いて、頭が回ってきたので訊ねた。
「考えてはいましたよ」
柔らかい口調でルチアはいう。
「へぇ、どうするつもりだったの?」
危機管理はしていたみたいだけど、その可能性はやっぱりあったのか。さて、どうする腹積りだったんだろう。
「それは……」
「それは?」
ルチアが答えを溜めに溜める。そのせいで二人で見つめ合う奇妙な時間が生まれる。
「秘密です」
ルチアは唇に、立てた人差し指をつけていう。がっくしと肩が落ちた。
「秘密ってなんっ!?」
会話を続けようとしたのに、ルチアの指が俺の唇に当たった。
「秘密です」
ルチアはいたずらな笑顔でいうのだった。そういわれてもっと興味が湧いたが、俺は訊ねることなく黙ってしまう。だが、この黙殺は心地よかった。
「また食べに行きましょうね」
指を戻してからルチアはいつもの調子でいう。
「……考えとく」
熱さがぶり返してきたので、涼しい外へと、そっぽを向いて呟くも、またあの笑顔で誘われたら、俺はルチアに付いていくのだろうなと、簡単な未来が想像できて笑えた。
自虐的な白い吐息はスープの味がした。




