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悪食聖女の食べログ譚  作者: 菅田原道則


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10/23

ゴブリンを食べましょう⑽

「お腹ポンポンです」


 帰りの馬車内でルチアはお腹をさすりながらいう。


 あれから食べられるのは残さず食べて、片付けをして、道具として使えそうな部分だけを持って帰り、あとは火に焚べた。ルチアはナップザックに骨を入れていた。記念に骨格標本を作るらしい。


 隣にいるルチアの肩が、馬車が揺れる度に当たる。最終便の馬車には誰も乗っておらず、俺とルチアだけだ。そんな満腹なルチアに訊ねたいことを思い出す。


「あのさルチア」

「なんでしょう」


 ルチアは大きな瞳を向けてくる。


「もしも俺だけが中毒症状が起こっていたらどうしたの?」


 神業はルチアが祈ったことを実現させる。それが到底不可能な事でも実現してしまう。ただ、叶う範囲のムラがある。ルチア曰く、祈りの力が足りないらしい。


 だから、神業で食べられるようにしても、もしかしたらそれは、ルチアだけが食べられるようになっただけかもしれないのだ。その場合、ルチアはどう対処するつもりだったのかを、ようやく空回りな勢いが落ち着いて、頭が回ってきたので訊ねた。


「考えてはいましたよ」


 柔らかい口調でルチアはいう。


「へぇ、どうするつもりだったの?」


 危機管理はしていたみたいだけど、その可能性はやっぱりあったのか。さて、どうする腹積りだったんだろう。


「それは……」

「それは?」


 ルチアが答えを溜めに溜める。そのせいで二人で見つめ合う奇妙な時間が生まれる。


「秘密です」


 ルチアは唇に、立てた人差し指をつけていう。がっくしと肩が落ちた。


「秘密ってなんっ!?」


 会話を続けようとしたのに、ルチアの指が俺の唇に当たった。


「秘密です」


 ルチアはいたずらな笑顔でいうのだった。そういわれてもっと興味が湧いたが、俺は訊ねることなく黙ってしまう。だが、この黙殺は心地よかった。


「また食べに行きましょうね」


 指を戻してからルチアはいつもの調子でいう。


「……考えとく」


 熱さがぶり返してきたので、涼しい外へと、そっぽを向いて呟くも、またあの笑顔で誘われたら、俺はルチアに付いていくのだろうなと、簡単な未来が想像できて笑えた。


 自虐的な白い吐息はスープの味がした。


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