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第二王子に捨てられ、第一王子に拾われる

作者: 林檎月
掲載日:2026/01/09

 主人公――エリシアには、妹がいた。

 妹の名はリリア。可憐で、柔らかな笑みを浮かべ、誰の前でも愛らしく振る舞う少女。


 ――本性を隠す才能だけは、誰にも負けなかった。


 婚約者である第二王子。

 父も母も。

 屋敷の使用人でさえ。


 誰もがリリアの味方で、エリシアの言葉には耳を貸さなかった。


 それでも、エリシアは慣れていた。

 諦めることに。

 期待しないことに。

「理不尽」に心を削られないよう、鉄のように感情を固めることに。


 ――あの日までは。


 学園の中庭で、エリシアは偶然その光景を目にした。

 リリアが、平民出身の女子学生を取り囲み、笑いながら言葉の刃を投げつけている。


「身分をわきまえなさいよ。あら、泣くの? 気持ち悪い」


 その声は、家で聞く妹のそれとはまるで違っていた。

 ぞっとするほど、冷たく、愉悦に満ちていた。


「……やめなさい、リリア」


 エリシアが間に入ると、妹は一瞬だけ目を見開き、すぐに表情を切り替えた。


「お姉さま……? どうしてそんなに怒ってるの?」


 その日の夕刻。

 第二王子の呼び出しを受けたエリシアは、王城の応接室に立っていた。


「エリシア・アルヴェーン。君との婚約を破棄する」


 冷え切った声。

 隣で、リリアが小さく震えながら、第二王子の袖を掴んでいる。


「お姉さまが……平民の子を虐めてて……止めたら、逆上して……」


 第二王子は眉をひそめ、エリシアを睨みつけた。


「君がそんな人間だったとはな。失望した」


 ――ああ、そう。


 何を言っても、もう決まっている。

 エリシアは、静かに頭を下げた。


 婚約が破棄された翌日。

 エリシアは、家から追い出された。


「もう、お前を置いておく理由はない」


 父の言葉は、それだけだった。


 寒空の下、薄い外套一枚で、エリシアは街を彷徨った。

 行く当てはない。

 泣く気力も、怒る気力もなかった。


「……大丈夫かい?」


 声をかけられ、顔を上げる。

 そこに立っていたのは、穏やかな目をした青年だった。


 ――第一王子。


 顔を見て、ようやく理解する。

 なぜ、こんなにも落ち着いた威圧感があるのか。


「事情は聞かないよ。とりあえず、温まるといい」


 招かれた屋敷の一室。

 暖炉が炊かれ、温かいスープが差し出された。


 一口飲んだ瞬間。

 エリシアの中で、張り詰めていた何かが、音を立てて崩れた。


 ぽろぽろと、涙が落ちる。


 第一王子は何も言わず、ハンカチを差し出し、ただ待ってくれた。


「……何が、あったんだい?」


 エリシアは、これまでのすべてを語った。

 話し終えると、第一王子は険しい顔で拳を握りしめる。


「次にそいつらと会ったら、思い切り殴ってしまえ。僕が許す」


 拳を振る真似をする姿が、あまりに真剣で、滑稽で。

 エリシアは、久しぶりに小さく笑った。


 それからの日々は、穏やかだった。

 第一王子は料理を作り、甘味処に連れ出し、何も求めなかった。


「どうして……助けてくれたの?」


 ある夜、そう尋ねると、彼は微笑んだ。


「昔は僕が、助けられてばっかりだったからね」


 そして、ある日。

 夕食の買い出しの帰り道で、リリアと出会う。


 妹は、迷いなく第一王子に擦り寄った。


「王子殿下……その方、実は弟君の婚約者という立場を利用して傍若無人の限りを尽くしていたんです。平民の少女を虐めて、それを止めた私まで危害を加えようと……。言いたくはないですけど、その方と一緒にいると殿下のお立場まで危険に…」


「彼女が、そんなことをするはずないだろ」


 一閃。

 第一王子は冷たく言い放ち、エリシアにウインクをする。


 ――殴ってしまえ。


 その言葉を思い出し、エリシアは、妹の頬を思い切り殴った。


「私も昔からあなたが気に食わなかった。というか、大嫌い。意地悪くて醜い、腐り切った性根が滲み出たその不細工な面を2度と見せないで」


 吐き捨てるように言う。


「第二王子に言いつけてやる!」


 叫ぶ妹に、第一王子は静かに告げた。


「軍も司法も全て僕が掌握している。僕が黒と言えば弟も、そして君もあっという間に処刑場だ。身の程をわきまえろ」


 その夜。

 エリシアは久しぶりに、深く眠った。

 そして、夢を見る。記憶も朧げな小さかった頃の夢を。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 当時、私は両親に連れられよく王城に来ていた。大人達の会話は子供にはとても退屈で、よく城を探検したものだ。

 そしてそこで出会った。四方を本棚に囲まれた書庫で、1人静かに本を読んでいる少年に。


 その男の子は体が弱いため王城を離れることが許されないそうで、私は王城に訪れる度に街中で買った甘味やペンダントを持って行った。すごく喜んでくれて、大切にするよと言ってくれたのを覚えている。

 彼は本の話をよくしてくれたし、私は外の話をよくした。家柄と立場を何よりも重視する貴族の世界は息苦しく、彼と話す時が当時唯一の憩いの場だった。


 とある晩餐会の夜、私は他の貴族連中に彼が虐められている所を目撃し急いで割って入った。なんとか追い返し「大丈夫?」と声を掛けると、ぽろぽろと泣きながら「ありがとう」と返事をする。


 そこからしばらく、2人で庭園に座しながら星を眺めていた。

 どれくらい時間が経っていたのか。一瞬のようにも感じるし、物凄く長いように感じる。でも、不思議と悪くはなかった。


「いつか、絶対強くなる!そしたら、君を助けるよ」


 勇みながら宣言する少年を、私は微笑ましく見守る。


「……それができたら、結婚してくれる?」


 ――いいよ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目を覚まし、リビングに向かうと、第一王子が静かに本を読んでいる。

 胸元には、かつて自分が贈ったペンダント。


「おはよう、マイハニー」


「……おはよう、マイダーリン」


 苦い顔で答えると、彼は楽しそうに笑った。

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