空の上から真実を暴露する
私の人生は、とても幸せなものだった。
カトリーナという名前をもらい、仲の良い家族のもとに生まれ、何不自由なく過ごすことができた。
恋愛結婚だった両親を見て育ったから、私も恋愛結婚をしたいと思うようになった。
貴族の学園に入学し、そこでかけがえのない友人たちに出会うことができた。
その学園で、私の運命に出会うことができた。
当時臨時教員として来ていた、シュノール侯爵家のヨハン様。
授業でわからなかったことを質問に行くと、とても優しく教えてくれた。
そうして交流していくうち、彼のことを好きになった。
彼はとても女性に人気だ。
私が選ばれるはずがないと、そう思っていた。
だから彼から、婚約を申し込まれた時は、信じられないくらい嬉しかった。
後から聞いた話だと、彼は私に一目惚れだったらしい。
順調に婚約期間を過ごし、私の学園卒業と共に結婚した。
結婚生活は、とても幸せだった。
長男のジョエルと、次男のハインツを産んで、幸せな家庭を築くことができた。
けれど最後の時は、唐突にやって来た。
3人目の子は難産で、医師から母子共に危ういと言われた。
出産中だったので、意識は朦朧としていたが、その言葉はやけにはっきり聞こえた。
出産に危険はつきもの。
いつも、万が一の覚悟はしていた。
家族には、常に愛情を伝えていた。
3人目の子の名前も伝えてある。
だから……
「例え、私が死んだとしても、子どもを何よりも優先して。愛しい我が子なの。守りたいのよ。あなた、子どもたちをお願いね。」
夫と医師にそう伝えた。
その返事は聞こえなかったけど、きっと大丈夫だと信じている。
頼りになる夫だから、きっと大丈夫。
赤子の泣き声を最後に、私の意識は閉ざされた。
私が死んでから7年もの時が過ぎた。
私は空の上で、私の愛しい家族を見守っていた。
初めの5年は、ふわふわとした意識の中で漂っていただけだった。
けれどある時、天使たちの噂話を耳にして、覚醒した。
シュノール侯爵家が、幼い子どもを虐げていると言う。
シュノール侯爵家は、私の大切な家族がいる家。
その名を聞いて、意識がはっきりした。
同時に、自分がカトリーナであることを思い出すと、自分の身体が形作られた。
ただあくまで、形ができただけなので、魂だけであることに変わりはない。
私は天使に無理を言って、現世が見える泉の場所を教えてもらった。
そこで見たシュノール侯爵家は、私の想像とは全く違っていた。
夫は屋敷を空けることが多く、ジョエルは感情を凍らせ、ハインツはいつも人の顔色を覗っていた。
3人目の子は女の子、ならば名はエストレラのはず。
エストレラは、家族に振り向いてもらおうと、必死になっていた。
みんなはそんなエストレラを、疎んでいた。
衝撃的だった。
あんなにも仲が良かった家族がバラバラになり、みんながエストレラを疎んでいるなんて。
けれど私はもう死んでいるから、何もできない。
悔しくて、悲しかった。
それから2年。
愛した家族は何も変わらなかった。
いえ、むしろ悪化していた。
また今も、エストレラを蔑ろにしている。
もう、我慢の限界だった。
だからは私は、心の限り叫んだ。
「ヨハン様、失望しました!私が死んだのは私の意思です。子どもを望んだのは、私とあなたでしょう!エストレラに当たらないで!あんなに私が愛しんでいたこと、忘れたのですか!?守ってくださいって言いましたよね!?」
『……!!』
あら?
ヨハン様の顔色が悪くなったわ。
みんながキョロキョロしているけど、もしかして聞こえたのかしら?
だったら……
「ヨハン様!新しい女にうつつを抜かすのは結構ですが、やることやってからにしなさい!娘一人愛せないあなたが、新しい女を、連れ子を、領民を愛せるはずないでしょう!自覚なさい!父親として、いえ、人として、子どもを蔑ろにするなんて、最っ低!」
『す、すまない!』
ジョエルもハインツも震えているわ。
でもあなたたちにも言いたいことがあるのよ。
「ジョエル!ハインツ!下の子を守ってって、可愛がってねって言ったわよね!何をしているの!そんな薄情な息子に育てた覚えはないわ!人の気持ちを考えなさいと言ったでしょう!自分がされたら、どう思うの!?」
『ご、ごめんなさい、母上!』
『自分だったら、嫌です……ごめんなさい。』
一斉に謝り出した家族に、エストレラはキョトンとしている。
可愛いわ……
「エストレラ。誰が何と言おうと、母はあなたを愛しています。あなたを産むために、守るために命をかけたこと、後悔していないわ。そこの馬鹿3人は、放っておきなさい。あなたは母に愛されて生まれた子なんだから。自信を持って。いつまでも、母はあなたの味方よ。」
『お、お母様ぁ……』
ああ、あの子の涙を拭えないことが悔しい。
どうか忘れないで、あなたは愛されているんだってこと。
どうか前を向いて、笑顔で生きてちょうだいね、愛しい子。
その後、現世に影響を与えてしまった私は、天使に回収されて、二度と現世を見ることができなくなった。
だから、シュノール侯爵家がどうなったかは、神のみぞ知る。




