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ー 9 ー 道案内

色々あって危うくバレるところだったが、何とかその場を切り抜けた悠は服一式を購入した瀬衣、瀬衣の役に立てたことで嬉しそうな実波と共に店外の休憩スペースに常設されたソファに座って話し合っていた。主に、この後の予定についてだ。


「もうすぐ12時だしどっかでお昼食べる?」


「良いねー。フードコートとかで良いかな?」


瀬衣の提案に悠が同意する。そんな二人を傍らに、実波はスマホを開き何やら調べていた。画面をひたすらスクロールしている。


「実波は?」


「ちょっと待ってねぇ、……っと、あったぁ!これ、このカフェ行かない?」


そこには落ち着いた外観のお洒落なカフェが写っていた。しかも、流行にそれ程敏感でない悠も知っている人気店である。


「それ、結構人気なとこじゃない?」


「そうなのぉ~行ってみたかったんだよねぇ。丁度近くに来てるしぃ、折角なら行ってみたくない~?」


実波はサイトに貼られているリンクをタップし、そのカフェが運営している公式サイトを表示させた。店内の写真が複数アングルで表示され、それ以外にも美味しそうなオムライスやケーキ類の写真が投稿されている。


「わ、美味しそ~」


思わず感想が口から出てしまい、口内に唾液が溢れてくる。この状況において、脳の客観的な部分で(わぁ、パブロフの犬だー)などと考える程度には先程の焦りによる脳の麻痺から回復していない悠は、瀬衣にも「ねぇ?」と同意を求める。因みに、パブロフの犬ではなく、正確には古典的条件付けによる条件反射である。


「でも、沢山並んでるんじゃない?」


「……あ、そっかぁ」


瀬衣の返答に納得しつつもどこか寂しげな実波。悠自身も食べてみたいと思っているためか、その表情に共感してしまう。


「まぁ、すぐ近くだし行くだけ行ってみる?」


「……そうだね。駄目だったら戻ってくれば良っか」


「やったぁ!ありがとぉ~!」


そうして、三人でショッピングモールの外に出たとき、二重の自動ドアになっている入口に置かれた地図と睨み合っている外国人らしき男女二人組が目に入った。何となく足を止めてさり気なく聞いていると、英語で言い合っている声が届いた。


「Yo, where's this at?

(おい、これどこにあるんだ?)」


「I dunno, dude. My Japanese is trash, too.

(分かんないわよ、私だって日本語苦手なんだから)」


「Ugh, I'm starving. Let's just grab a bite anywhere, I don't even care.

(あー腹減った。もうどこでも良いからてきとーに何か食おうぜ)」


「Hold on!I wanna eat this, we came all this way.

(ちょっと待ってよ、折角来たんだからこれ食べたいわ)」


「Seriously?If we're gonna eat, get some Japanese food. You came all the way to Japan just to eat omelet rice?

(……ったく、どうせなら和食にしろよな。わざわざ日本に来て食うのがオムライスか?)」


一般的な高校一年生の英語能力、即ち文法通りの綺麗な英文の読解と多少のリスニング能力しか持ち合わせていない瀬衣と実波は、早口で交わされる会話を処理できない。そこで二人が頼るのは当然、悠である。


「ね、悠。何て?」


小声で尋ねてくる瀬衣に悠も小声で返す。


「んっとね、何か飲食店かな?探してるけど見当たらないらしいよ」


「となれば悠さんが取る行動は(ただ)一ぉつ!ですよねぇ?」


実波が示す先には外国人の二人がいる。意図を理解した悠は『良いの?着くの遅くなっちゃうよ?』という視線を瀬衣と実波に向けた。二人から了承と取れる首肯を得ると、悠は地図の前で若干険悪になりつつある男女二人に「Excuse me.」と声を掛けた。


「I seemed like you were in some trouble.

(何かお困りのように見えたのですが……)」


「Yeah!We wanna go to this cafe, but have no idea where it is.

(そうなのよ!このカフェに行きたいのにどこにあるか分からなくて)」


そう言って女性が差し出したのは、先程実波が見せてくれたのと同じ写真が写ったパンフレットだった。


「Oh, we're actually heading there right now!Would you like to come with us?

(え、私たちも今からここ行くんです!良かったら一緒に行きませんか?)」


驚いたように顔を見合わせた二人はすぐに笑顔を浮かべ、「Thanks a lot, that would be a great help. (ありがとう、助かる)」と言って悠の手を握った。


瀬衣と実波に事情を説明し、五人で目的のカフェに徒歩で向かう。混んでいると思ったが土日にも関わらずそれなりに空いており、人気ナンバーワンのオムライスは話題になるのが当然だと思うくらい絶品だった。


帰り際、二人の外国人は悠たちのテーブルにやって来て再度お礼を述べた。そして、男性が悠の肩に手を置いて笑い掛けた。


「Your English is really good. You sound just like a native speaker.

(君、英語上手だね。ネイティブ並みだよ)」


「……Thanks.

(……ありがとうございます)」


言いたいことは沢山あっただろうに、悠の口から出たのは簡潔な一単語だけだった。それは、悠にとって最も価値を成す言葉だった。


(やっぱり、人生で一番大事なのは英単語なんだ!)


これにより、英単語への信仰心をより一層強めた悠だった。

お読み頂きありがとうございます。


パブロフの犬のくだりは悠が、と言うより私が書きながら思ったことです。

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