ー 8 ー 意地 vs 陰陽力
床と棚の狭い隙間に入ってしまった瀬衣のスマホ。背面に隼人とのツーショットが入れられたそれを瀬衣は先週の報告以来毎日嬉しそうに眺めており、実際必死に腕を伸ばして取ろうとしている。瀬衣にとっては、スマホ以上の付加価値があるのだ。棚を動かすことができれば良いのだが、多くの服が掛かっているそれを三人だけの力で動かすことは不可能に等しい。何か細い棒状のものがあれば良いのだが、衣料品店にあるものの中で唯一当てはまるハンガーを床を掃くように使う訳にもいかない。
「ど…どうしよう?取れなくなっちゃった……」
その場に立ち尽くす瀬衣を見て、悠も隙間に手を突っ込んでみるが瀬衣同様に届かない。陳列棚を動かそうと試みるが、結果は予想通りびくともしなかった。どうしようもないと瀬衣と実波が諦めモードに突入しかけているとき、悠はその顔に不満そうな表情を浮かべて内心思考をフル回転させていた。
(陰陽力使えばちょっとだけ浮かせてすぐ取れるけど…でも使わないと取れないとは限らないし。いや、でも瀬衣が悲しんでるのは嫌だし……。店員さん呼んでーってなるとまた時間掛かるしなぁ)
そこまで考えると、諦めたように小さく呟いた。
「はぁ~仕方ない。こんな力、しょっちゅう使う訳じゃないし」
そして、床と棚の間の暗い隙間にそっと手を翳し、瀬衣のスマホを優しく包むように力を放出した。床にも棚の底にも当たらないように注意しつつ、そのまま手前に引き寄せるよう念じてゆっくり移動させる。手が届くところまで移動させると、そこで静かに降ろした。後は隙間に手を入れてスマホを回収するだけだ。静電気によって画面に付着した埃を払うと、実波にどうしようかとおろおろと相談している瀬衣に渡した。
「はい、瀬衣。取れたよ」
「えっ!?どうやって…ううん、ありがとう。ほんとに。ありがとね、悠!」
「どーいたしまして」
瀬衣に笑顔が戻ったようで何よりだ。気になる点はあるようだが、それを吞み込んでお礼の言葉を述べる。が、実波は好奇心を抑え切れなかったようで悠に詰め寄る。
「ねぇ、どうやって取ったのぉ?実波も試したけど全然届かなかったよぉ?」
「た…たまたまだよ。隙間に腕が良い感じに入って。ほら、知恵の輪みたいな感じ」
何とか誤魔化そうと早口でまくし立てるが実波に納得した様子はなく、悠は実波の性格と手に持っているもう一式の服の用途を理解した上での強行突破に出ることにする。
「ほらほら、瀬衣はそれ買うんでしょ?レジ行ってきたら?」
急に話題を変えた悠を怪しむ暇もなく、瀬衣と実波の脳が通常状態の活動を開始する。
「そうだね!すぐ買ってくるからちょっと待ってて」
「あ、ねぇ悠のもあるよぉ。実波プロデュースのトータルコーディネート!」
「行ってらっしゃーい。……あと、実波、私はいいよ。着ていくとこも見せる人もいないし」
家以外で陰陽力を使ったことはなかったため、当然二人の前で使うのも初めてだったが、上手く躱せたようでそれ以上深く追及されることはなかった。一安心だとほっと息を吐き額の汗を拭う悠だった。
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実波セレクトの悠の服も、瀬衣のものと同じようなガーリーな感じです。




