ー 7 ー 実波氏の瀬衣プロデュース
早々にトラブルに見舞われつつも無事目的地である大型ショッピングモールに到着した三人は、ウィンドウショッピングを楽しむべく主に衣料品が販売されているフロアに移動した。実波は勿論のこと、悠ですら知っているような有名高級ブランドから中高生でも手が届きやすい価格の量販店まで、様々な店が並んでいる。
「わあぁ~!ねぇ、見てこれ。すっごく可愛い!似合うかなぁ?」「あ、これとか悠似合いそぉ~」「瀬衣は絶対こういうの似合うよぉ」
先程から実波が一人で盛り上がりどれが誰に似合うのかと『似合う』を連呼して店内を徘徊しているが、悠と瀬衣も細々と小物を見て楽しんでいる。
「悠、このイヤリングとか良いんじゃない?」
「んー、イヤリングとかしたことないなぁ」
「私ピアス開けたいんだよねー。あ、これ可愛い」
小さな鏡に映る自分たちに商品を合わせていると、二人を探していたらしい実波がやって来た。
「あ、見つけたぁ!」
「実波」
彼女が手に持った籠には何着もの服が入っている。それらにちらりと視線を向けた悠は、持っていた半透明のエメラルドグリーンの飾りが付いたイヤリングを商品ラックに戻すと実波に問いかけた。
「どうする?何か欲しいのあった?」
「ん~、それも良いけどぉ、これ瀬衣に着てほしいのぉ」
そう言って瀬衣に差し出したのはクリーム色のサマーニットと花柄のフレアスカート。瀬衣の、と言うより実波の好みが全開のコーディネートだ。案の定、瀬衣は乗り気でない様子だ。
「いや、実波。私にはこういうのは…」
「何でぇ?絶対似合うよぉ!着るだけ、そしたら満足するからぁ」
「やだよ」
「えぇ~?着てよぉ」
食い下がる実波に押し負けたのか、瀬衣の視線が服と実波の間を行き来する。
「………………着るだけだよ」
たっぷり十数秒間葛藤した後、瀬衣は諦めたように肩を落とした。実波は「やったぁ!」と嬉しそうに笑顔で試着室に案内する。暫くして、試着室のカーテンがしゃっと音を立てて開き、恥ずかしそうに頬を染めた瀬衣が一歩前に出た。
「……どうかな?」
袖の部分がシースルーになっているクリーム色のサマーニットに膝丈のフレアスカートを合わせた瀬衣の雰囲気は普段のカジュアルなものとは違い、恋人とのデートに向いているような感じがする。
「可愛いよぉ、瀬衣ぃ~。実波の予想通り!」
「服変えるだけで全然雰囲気違くなるね」
実波は蕩けた笑みを浮かべ、悠は感心したように呟いた。落ち着かない様子で指や足を動かしている。すると、試着室内に置かれた瀬衣の鞄の中で着信音が鳴った。スマホを取り出し画面を見た瀬衣は「……あ、隼人くんから電話だ」と微笑んだ。それを見た実波ががしっと悠に抱き着いてくる。
「悠ぁ、羨ましいよぉ~」
「よしよし。実波も彼氏に電話すれば良いのに」
「涼くんから掛けてほしいんだよぉ!」
そんな下らない(実波からすれば最重要問題の)会話を繰り広げていると、スマホを耳に当てた瀬衣が「え!?」と声を上げた。
「えぇ~?今!?ここで?」
二人で顔を見合わせ、「……どうかしたのかな?」と首を傾げる。「ちょっと待ってね、一回切るね」とスマホの向こうの彼氏に言って通話終了の赤い×印を押すと、瀬衣は無言でスマホを差し出してきた。先程までの恥じらいとはまた違った理由で、顔が赤く染まっている。
「ん?」
「……隼人くんが、『今何してるの?』って。それで友だちと買い物に来てて、試着したとこって言ったら写真見たいって……」
「じゃあ撮ってあげるよ」
瀬衣のスマホを受け取ってカメラを向ける悠だが、シャッターを押す前に瀬衣がカーテンを閉めてしまった。
「瀬衣ー?撮るんじゃないの?」
「……そうだけど、心の準備が!」
いつまでも試着室を占有する訳にもいかず困っていると、悠にしがみ付いていた実波が悠から離れ、カーテンを開けて瀬衣を無理矢理外に連れ出した。
「はい、瀬衣。そこ立って!ポーズ!」
実波監督の指示により、急遽セッティングされた『試着後すぐで恥じらう瀬衣と試着室のカーテン』の撮影会が始まった。他者への迷惑を最低限にするために数秒間に渡る連写を終えると、再びカーテンを閉めて瀬衣が着替えている間悠と実波でベストショットを選ぶ。
「え、これすっごく良くない?」「あ、でもこっちの方が良いかもぉ」「これは?」「それ良い!」
「お待たせー…何してるの?」
二人で瀬衣のスマホを覗き込んで盛り上がっている姿は衣料品店では珍しく、と言うか浮いており若干周囲の注目の的となってしまっている。ベストショットが表示された画面の下方の♡マークをタップして、おき入りに保存してから瀬衣に返す。暫しの逡巡の後、隼人にその写真を送信した。数秒後にぴこんっと着信を知らせる音が鳴る。
「わっ、もう返事来た!」
メッセージを読んだ瀬衣は、あっという間に顔どころか耳や首まで真っ赤に染め上げた。その反応から内容に大凡の予想は付いた悠と実波は穏やかに笑っている。尤も、実波は羨望と嫉妬を必死に押し殺した上での笑顔ではあるが。
手早くその場を片付け、瀬衣は足早にレジに向かった。無言で歩く瀬衣を追って悠と実波が「待って待って、どうしたの?」「もう出るのぉ?」と声を掛ける。
「……この服、買う」
「おぉ~?見るだけじゃなかったのぉ?」
心の傷よりも目の前の友人の恋模様が気になったのか、実波は瞳に悪戯っぽい光を灯らせて瀬衣の顔を覗き込む。明らかに理由を分かった上で聞いているところに実波の若干の小悪魔的要素がある。
「……隼人くんが、か…可愛いって……。だから、今度会うときこれ着る」
実波が選んだ服を胸に抱き、更に顔を赤く染める瀬衣には幸せそうな表情が浮かんでいる。しかし、籠に入れることなく全てを手で持っていた瀬衣のキャパシティーはバランスを保っていただけで限界だったようで、歩き出したことでそのバランスが崩れてしまった。
「あっ」
気付いたときには、瀬衣のスマホが陳列棚の下、手の届かない場所に滑り込んでしまった。
お読み頂きありがとうございます。
区切りの良いところまで書いたら長くなってしまいました。
瀬衣が試着する服装を考えるのが一番大変でした。私、ファッションセンスが壊滅的なので……




