ー 6 ー 待ち合わせ
週末、実波の最寄り駅にて。
私服姿の悠は改札を抜けた先の柱に寄り掛かった体勢で腕時計をちらりと見た。短針は10、長針は12に差し掛かろうとしているところだ。隣で同じように柱に体を預ける瀬衣もまた、スマホのロック画面に表示される時間を見てそっと息を吐いた。
「あぁ~、お待たせぇ~!ごめんね、遅れちゃってぇ」
そんな二人の前に現れたのが、手を振りながら走って来た実波である。薄ピンク色のリボンで髪を結った彼女の額には汗が浮かんでおり、ぱたぱたと手で扇いでいる。
「わぁお、9時59分43秒!ぎりぎりセーぇフ!」
「実波、急いで!改札通って」
足早に歩き出した悠と瀬衣の後を追って実波も走りながら鞄の中からICカードを引っ張り出し、改札の読取部分に接触させる。改札を抜けると悠が振り返ってホームの片側に停車する電車に乗り込もうとしているところだった。
「こっち、この電車!」
実波が丁度乗車したところで音楽が流れ、扉が閉まった。車内には殆ど乗客がいなかったため三人共隣同士に座ることができ、無事発車したタイミングで悠と瀬衣の溜め息が重なった。
「間に合ったぁ~」
「ほんと、危なかったね」
「ねぇ~」
意気投合する悠、瀬衣、実波の三人だが、悠と瀬衣は実波に湿った視線を投げ付ける。瀬衣に至っては「何が『ねぇ~』だ!」と実波の頬を掴んで蛸のような表情にしている。
「何よぉ、ちゃんと間に合ったんだから良いでしょぉ?」
「いや、実波。実質アウトだよ?」
悠に冷静に返された実波は「えぇ~?瀬衣ぃ~」ともう一人の友人に助けを求める。
「10時01分発のに乗るのに10時到着はアウト」
しかし、瀬衣も悠と同意見のらしく、野球の審判のように右手をぐっと握り締めた。
「違うよぉ、瀬衣。10時じゃなくて9時59分…何秒かだよぉ!」
「どっちも同じだ、この遅刻魔」
「酷ぉい~」
仲が良いのか悪いのか、いつものように言い合う瀬衣と実波を眺めながら、悠は笑みを浮かべて背凭れに凭れた。
どうしてこのような状況になったのか、時は然して遡らず、悠は十数分前の出来事を思い起こした。
・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・
自分だけ彼氏がいないと嘆く悠、彼氏の英文を自分だけでは読み解けないと落ち込む瀬衣、最近彼氏が冷たいと拗ねる実波。三者三様の恋愛苦悩を抱える三人は、その解決策の模索と息抜きという建前の下休日に出掛けることになった。因みに、悠には英和辞典という唯一無二の存在がいるが、それは彼氏や恋人という概念を超越した圧倒的包容力を持った存在であるため、彼氏が欲しいという悠の願望には干渉しないらしい。
各自の最寄り駅から同じ電車に乗り合流することになり、目的地に対して瀬衣は五駅、悠は四駅、実波は二駅前が最寄り駅となっているため、三人のトークグループに瀬衣から乗っている号車の連絡が来たのだが実波からの返信がない。一駅進み合流した悠と瀬衣は、各々の個人トークで実波にメッセージを送った。その結果、グループの方に実波から驚きの返事が届く。
『ごめん、今起きたとこ!』
「「嘘でしょ~!?」」
電車の中にも関わらず思わず大声を出してしまった。周囲の乗客に平身低頭で謝りつつ、顔を寄せて声を潜める。
「ってことは今家だよね?」
「後何分で実波んとこ?」
「えっと、もう発車してるから……後10分もない」
スマホに表示された電車の乗換アプリの時刻と腕時計を見比べ、悠が絶望の色を孕んだ声で呟いた。二人の間に沈黙が降りる。先に口を開いたのは瀬衣だった。
「……じゃあ、そこで一回降りる?」
「そうだね。発車までに実波が来なかったら一旦改札出よう」
こうしたことを経て、何とか無事に合流できた三人だった。
お読み頂きありがとうございます。
時間確認方法
悠 :腕時計派
瀬衣:スマホ派
実波:スマホ派




