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ー 5 ー 翻訳のすゝめ

涙目の実波を慰めつつ、しかし自業自得であることは否めないため瀬衣を責めることもできないまま悠は愛読書である英和辞典を読んでいた。背後から覆い被さるようにして、実波が悠の視界を遮ってくる。


「ねぇ、悠ぁ~」


「んー?」


視線を他所に向けることなく、ぺらりと通常よりも遥かに薄いページを捲る。


「何かアドバイスとかないのぉ?瀬衣が冷たいよぉ~」


「You asked for it.」


「何それぇ?」


「『自業自得』」


「……悠ぁ~」


悠の辛辣な言葉に実波は嘆いているが、瀬衣はしてやったりと満足気だ。実波の様子からは本気で落ち込んでいるのか、はたまた若干の演技が入っているのかは分からないが、瀬衣もやりすぎたと思ったようで悠を挟むようにして実波の両肩に手を置いた。


「しっかり反省したかね?実波さんよ」


「したよぉ。もう二度と呼ばないからぁ、『瀬衣ちゃん』ってぇ。ねぇ、瀬衣ちゃん」


「反省してないじゃないかー!」


悠の周囲だけ空気の寒暖の変動が激しい。正面には瀬衣がくっついているため、英和辞典も机に広げることができず胸に抱える状態になっている。


「ねぇ、私サンドイッチになってるんだけど」


その不満の声に答える者はいなかった。



・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・



「そうだ、悠。これ訳してくれない?」


漸く軽い人間プレスから解放された悠に、瀬衣が自身のスマホの画面を示しながらそう言った。そこには百語程度の英文が表示されていた。


「良いけど、何これ?」


「さっき隼人くんが投稿したやつ。昔外国に住んでたみたいで、たまに英語で投稿するんだって」


「ふーん。良いなぁ、外国。私も行ってみたい」


「あれ、悠行ったことないんだっけ?」


「そーなんだよ。我が家の謎の方針により、ね」


陰陽力はそれが生まれた日本で最も効果が発揮され、内包する力も強まるという一応理屈は通っているもののその真偽の程は不明となっている主張により、国外逃亡を禁じられている悠である。


(物をちょっと浮かせる程度の力を強めてどうするって言うんだか)


思考を明後日の方に飛ばしていると、瀬衣の言葉で現実に引き戻された。


「それでね、隼人くんが何て書いたのか知りたくて」


「ん、分かった。けど、自分で訳しながらの方が英語力上がるんじゃ…あー、これ結構スラング多いね」


「そーなの!ちょっと読んでみたんだけど、単語は簡単なのに意味が全っ然分かんなくて」


スマホを覗き込んで見ると、確かに中学校で習うような基本的な単語が多く使われているが独特な言い回しが多く、英和辞典を十周以上している悠ですら最近知ったというものもある。


「スラング難しいよね。あ、これ口頭で良い?それともテキストにして送ろうか?」


「送ってもらえると嬉しい!けど、大丈夫?」


「平気平気。実波に手伝ってもらうから」


すると、突然名前を出された実波は「え、実波ぃ?」と驚きの表情を浮かべて自分を指差した。椅子に座ってスマホを見ながら時間を潰していた彼女は「どういうことぉ?」と状況が掴めていない。因みに、瀬衣もよく分かっていない。


「私が訳すから実波は文章打ってって」


「えぇ、それ大変そ~」


「そこはほら、瀬衣への贖罪の気持ちを持って」


そう言われてしまうと実波に拒否はできない。トーク画面を開き、渋々文字を打ち込むことに専念した。そして十数分後、無事に瀬衣のスマホへの送信が完了したところで実波が声を上げた。


「あぁ~!音声認識でやればもっと早く終わったのにぃ!」

お読み頂きありがとうございます。


翻訳はプロレベルでも100語当たり20~30分掛かるらしいですが、悠の場合は内容が分かれば良いというスタンスで訳しているため10分程度で訳せています。

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