ー 4 ー 母と娘と孫娘
放課後の教室にて。
スマホを弄っていた瀬衣が呟きを溢した。
「あ、隼人くん何か投稿してる」
それに一早く反応したのは実波だ。組んだ足に肘を乗せて頬杖を突き睨みを利かせる実波はどこか借金取りのような雰囲気を醸し出している。
「ちょーっと待って!瀬衣さんよ、彼氏がいるのに他の男のSNSですかぁ?」
「違うよ、隼人くんが私の彼氏なの」
僅かに頬を染める瀬衣は、まさに恋する乙女だ。
「言い訳は見苦しいよぉ、瀬衣」
しかし、実波は認めない。瀬衣は「本当だって!」と主張するが実波は悠の後ろに隠れてしまった。流石に瀬衣が可哀想になり、悠は「何で実波はそう瀬衣に突っ掛かるのさ?」と尋ねる。机には相変わらずジーニくんが鎮座している。
『隼人』というのはイケメンのみが所持する名前。即ち!個人が占有して良い存在ではないのです!」
「……で、本音は?」
「涼くんが最近冷たいんだよぉ!寂しいぃ~瀬衣ばっかりずるいよぉ~」
実波が中学二年の終わりから付き合っている同い年の涼介は現在悠たちとは別の高校に通っており、時間の取れる休日しか会えないことを以前から実波は嘆いていた。因みに、瀬衣の彼氏も他校生らしい。
建前をあっさり見破った悠の再質問に、対する実波もあっさり本心を曝け出した。「だからって瀬衣に当たるのは違うでしょ」と窘めていると、朝から実波にやられっぱなしの瀬衣がここぞとばかりに反撃に出る。小悪魔的な笑みを浮かべて悠の背後に視線を向けた。
「高校行って他に好きな人でもできたんじゃない?」
「何でそんなこと言うのぉ!お母さんは瀬衣ちゃんをそんな風に育てた覚えはありません!」
「実波は私のお母さんじゃないし、あと、『ちゃん』って言わないでよ!」
「そんなこと言ってぇ、愛しの隼人くんには何て呼ばれてるのぉ?」
「……」
「うっ」と言葉に詰まった瀬衣は実波から目を逸らす。一方の実波は新しい玩具を見つけた子どものようにきらりと瞳を輝かせた。
「え?え?まさかの?ねぇ、瀬衣ぃ。何て呼ばれてるのぉ?」
「…………『瀬衣ちゃん』」
「きゃあーー!!」
実波は語尾に『♡』が十個程付きそうな勢いで悲鳴を上げ、先程まで両者の間に流れていた険悪な雰囲気は一気に霧散した。
「ちょっと実波、声大きいよ」
「ごめんね、お母さん」と後ろから抱き着く実波に悠が「私には子どもも孫もいません」と返すと、今度は瀬衣が「悠!」と声を荒げた。
「私は実波の子どもじゃないし!」
「ほらぁ、我らがお母さま公認だよぉ?瀬衣ちゃん」
「実波ぃ……」
折角和らいだ空気の雲行きが再び怪しくなってくる。瀬衣がじとっとした視線で実波を睨むと、流石に申し訳なく感じたのか素直に謝罪の言葉を口にした。
「ごめんってぇ。何で嫌なのぉ?」
「別に大した理由じゃないけど……」
躱す様に返事をする瀬衣に実波は「知りたい!親友でしょぉ?」と何故か悠の首に腕を回して食い下がる。三人の関係を知らない人からするととても親友同士とは思えない会話だが、これが通常営業である。
「昔から、嫌いな人に『瀬衣ちゃん』って呼ばれてて、何か嫌だから」
嫌なら無理に言わなくても良いと言おうとした悠だったが、その前に瀬衣が答えた。表情を見るに、本当に大した理由ではないようだ。
「その人、実波に似てたんだよね」
「……ねぇ、悠ぁ。実波って実は瀬衣に嫌われてたりするのかなぁ?」
お読み頂きありがとうございます。
書いていて思ったのですが、悠の主人公枠が瀬衣と実波に乗っ取られている気がします。




