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ー 2 ー 大事なのは英単語

悠が周囲と違っていたのは生まれついて両親から受け継いだ陰陽力を持っていたこと、そして言葉を覚えるのが早かったことである。年齢の割に語彙が豊富だった。転機が訪れたのは恐らく幼稚園に通っていた五歳頃。迎えに来る親同士の会話を聞き、幼稚園児ながらに考えたことを要約すると、こういうことだ。


『状況が安定しない今の世の中、大事なのはグローバルな力なんじゃない?』


言葉を早くに覚えたとは言え、記憶力や思考力は一般的だ。天才や秀才のようにはいかない。ならば悠がやるべきは唯一つ。


英単語の習得である。



・・・❇︎・・・❇︎・・・❇︎・・・



齢五歳にして大学入試を控える受験生も全部は覚えられる訳がない、延いてはネイティブですら知らない単語があるのではないかというような英和辞典を入手し、毎日只ひたすらに読み込むことを繰り返した。最初の内はそもそも和訳が読めず両手に辞書という状態だったが、次第に漢字も読めるようになり語彙力も付いてきたことで読むスピードが上がった。一周目は二年以上掛かったが二周目は一年弱、三周目は約半年と分かりやすく成長が感じられた。十歳になる頃には読むだけでなく暗記にも意識を向け、本格的に単語を身に付け始めた。十五歳の秋には英和辞典を十周以上周回し、高校入試の英文の易しさに衝撃を受けるという事態に陥った。高校に入学して数ヶ月経った現在では、英和辞典は最早悠の愛読書と化していた。


そんな愛する英和辞典漬けの生活を送る悠の天敵は、両親が熱心に勧めてくる陰陽術の訓練である。隙あらば練習に誘う彼らは陰陽力を持つ者たちの復活を本気で信じており、そのときに備えて悠にも様々な術を習得させようとする。


「違う、そこはもっと繊細に」


「もう少し柔らかく力を込めるの」


揃って悠に助言する。ここで手を抜くと余計に練習時間が延びるため、言われたことを真面目に実践する。が、悠は内心面倒だと、早く終わらせたいと思っていた。


(マジックにも使えなさそうなこんな力を極めてどうするの?絶対英単やった方が役に立つよ)


「そうだ。上手いぞ、悠」


「将来が楽しみだわぁ」


(いや、これのどこをどうやって将来に役立てるの??)


文句を心の中だけに留めつつ言われた通りに何度か陣を作ると、その日の練習は終了となった。部屋に戻ると数時間前と同じように英和辞典がベッドの上に置いてある。そこに盛大に飛び込むと悠は辞書を両腕で優しく包み込んだ。


「ただいま、私の愛しの英和辞典♡」


使い道の分からない陰陽力を馬鹿にできない程度には、悠の英単語愛も大概だった。

お読み頂きありがとうございます。


英単、大事ですよね。受験期に苦労した覚えがあります。

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