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77.今後の計画


「うん。そうだよ、それだ。ウルリクアクアは"世界ごと時間を戻せない"」


 俺の呟きに続いて、イヴィアナが補足してくれた。


 ウルリクアクアは実態のあるもの――一部の時間を戻せるが、世界全体の時間は戻せない。


 ――なぜだ?

 

 400年前、人族を災禍に陥れた魔族のウルリクアクアが"世界ごと時間を巻き戻せない"なんてことがあるのだろうか。


 時間魔法と400年前以上付き合っているのならば、その程度難なく操ることができないのだろうか。

 

 時間を止めることが出来て、時間を戻せないのは違和感を抱かざるを得ない。


 俺が顎に手を当てて無言で熟考していると、イヴィアナは困り顔で顔を覗かせてきた。「なんだよ?」と言うと、「考えてるなって思っただけ」と笑ってそっぽをむいた。


「だから、このやり直しの原因は時間の支配だけど、ウルリクアクアじゃないのかもしれない。今はなんも分からないけどね!」イヴィアナは頬杖をついて、頬を膨らませる。「当て、ねぇ〜……いるけど私反逆者だし、ひとまずやめた方がいいかな」


「え、また当てが帝国魔道士なのか?」

「そうだよ。"夢寐の行人ソレーヴ"。ソレーヴならなんでも知ってると思うけど、帝国第一の人だから難しいだろうね」


 ――博識な人……思いつかないな。


「分かるところから進めていこ。伝説のパーティーとかね?」


 イヴィアナは東雲色のツインテールをくるくる弄りながら、俺に微笑みかけた。


「確かにそうだな……星神使いのオリミユは100年生きてる聖女だったか?意味わからないな」


 ――伝説のパーティーは功績だけじゃなく、生い立ちまでも"伝説"なんじゃないか?

 

「ほんとね?」とイヴィアナは不機嫌そうに零す。「銃使いのハルヴィンはメアール家の人間だし」

「メアール家ってそんなにやばいのか?」

「当たり前でしょ!カソリゾイの話でも聞いたよね?メアール家は公国持ちの一流貴族なんだから」


 ――公国持ち?!


「帝国の貴族なのに、他に国持ってるってことか?」


 イヴィアナは「そう」と言って頷く。そんな、中世ヨーロッパのアンジュー家さながらの貴族がこの世界にもいるとは思わなかった。


「オリミユのことは、放って置けばいいんじゃない?」


 "なんでだ?"――と考えもなしに言おうとしたところ、留まった。そういえば、前回オリミユは俺たちの前に現れなかった。


 ――それに……


「ホワステルが言ってたやつか?」

「そう。私がマルシュを殺したあと、ホワステルはあまりにも焦って色々口にしてた。その中で"ミユのこともまだどうなるか分からないのに"って言ってたよね?ミユはオリミユだろうし、ホワステルの言い方なら動けない状態には陥ってるはず」

「つまり、そのまま歩めば、確実に1人減る……」


 それにしても、カソリゾイがあれほどオリミユの能力を畏敬していたと言うのに、呆気なく戦闘不能になることがあるのだろうか。


 ――まあ勝手に居なくなるんならいっか。


 難しく考えすぎると頭がパンクしてしまう。


「じゃあ、ハルヴィンの方だな。メアール公爵家のことは本当に他に何も知らないのか?」


 イヴィアナは視線を外して頬をかきながら「んん〜」と唸っていた。


 ――この様子じゃ本当に知らないな。


「メアール家は2000年の歴史を誇るヘズ帝国の上流貴族で2000年前の建国当初から帝国を支えた名誉ある公爵家」と、イヴィアナが単調な声で説明し始めた。


 メアール公爵家について話せる情報がないから、無理に引き延ばそうと仔細に語っている。


「皇族と婚約していたりもするから、帝国内では肩書きは貴族だけど実際はみんな皇族だと思ってる。北西部にあるタラシア公国っていう帝国の属国の君主もしてる」


 ――"タラシア公国"?メアール公国ではないのか?


 恐らく、メアールという名義は便宜上使えないのだろう。


「一家は強力な魔力を持って生まれ、みんな海洋魔法っていうちょっと珍しい魔法が遺伝してる。今の当主はオルケアノス。ちょっと前まで帝国魔道士候補って言われてたけど、前の当主が突然死してから急に後継者になったから大変みたい」

「うん……なるほどな。それでハルヴィンみたいなやつはいたのか覚えてる?」


 イヴィアナは俺の問いに返答せず、口をすぼめ始めた。正直俺は「貴族の癖になんで覚えてないんだよ!」と突っ込みたいところなのだが、彼女の様子を見ると言えそうにない。


「怒んないから、な?」


 イヴィアナは溜息を吐くと、尻目に俺を捉えた。かと思えば、「ふん」と言ってそっぽを向く。今度は不機嫌そうだった。


「ハルヴィンに会って気づいてないってことは分かるでしょ?知らないの!オルケアノスとはそこそこ話したことはあるけど、メアール家になんて興味なかったもん。何人兄弟かも知らない」


 怒涛の告白に俺は少し肩を浮かせた。イヴィアナはそっぽをむいている。

 

「えーほんとになにもわかんないんじゃん」と、思わずこぼしてしまった。


「有り得ないみたいに思わないでよね?!確かに私は社交界嫌いだし興味無いけど、メアール家は滅多に顔出さないの。オルケアノス以外なら、私より年上の令嬢はいた。それ以外は分からない」

「でもあれ、ハルヴィンが魔力欠如ならメアール家で酷遇されて、隠匿されてたってことはあるんじゃないか?」


 ハルヴィンが主人公の物語なら、よくある展開だ。

 

「それはない」


 イヴィアナは逡巡する間もなく即答した。思わず「え」と唖然の声が出る。


「メアール家に限ってそれはない。あの高貴な血筋に魔力欠如なんて有り得ない」


 ――そういう事か。


 酷遇云々の話ではなく、魔力欠如という大前提がまず崩れると言いたいようだ。

 

「じゃあ、グレアムは……?グレアムもちゃんとした貴族で魔力欠如でしょ?」

「グレイは遠い子孫に欠如者がいたから、隔世遺伝だよ。わかる。ハルヴィンもそれかもしれないって少し前なら私も思ってたけど、前回戦った時にハルヴィンから魔力を感じたの」


 イヴィアナは目を細めて語る。頭の中で場面を思い起こしているようだった。

 

「ほんとか?!で、でもそれって一体どういうことなんだ……?」


 ハルヴィンが魔力欠如者ではなく、普通に魔力を持ち魔法の使える魔道士だとしたら――みんなが彼のことを魔力欠如者と勘違いしていたのはなぜなのだろうか。


「私の推測だと、ハルヴィンは魔法を使える。ただ、自身に巡る魔力の操作が馬鹿みたいにに上手いんだと思う」

「つまり、ハルヴィンは魔力をゼロに見せかけれるってことか?」


 イヴィアナはぎこちなく頷いた。


 なんの能力も使わず体に宿る魔力をゼロに見せかけることは不可能だ。それでもイヴィアナは魔法も使わずに魔力制限出来ていると推察しているようだ。


「それに多分海洋魔法じゃない。そんな気がする」

「え、それはもう更によく分からなくなるんだけど」


「ううむ」とイヴィアナは唸る。「リアト、ハルヴィンについてもう少し調査する?」

「そうした方が良さそうだな。ん――まさかまた当てがあるのか?」


 イヴィアナは俺の顔を覗き込んで「ふふん」と得意気に笑う。


 今度は別の帝国魔道士――それこそ"不敵の覇者ヴォニ・ウールリュペス"に会うと言い出したら俺は大混乱だ。嫌な予測ばかりで自然と顔を歪ませていた。


 俺の歪んだ顔をみたイヴィアナは「もう!」と言って地団駄を踏んだ。


「そんな顔しないでよリアト!……グレイだよ当てって言うのは。グレアム・クリーエ!」


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