74.メアール公爵家
哀愁漂うカソリゾイを気にもせず、イヴィアナは「よし」と意気込んでいた。
「カソリゾイ、いい話をありがと!参考になった。いこっかリアト」俺の手をひこうとイヴィアナは手を伸ばしたが、「あっ」と口に出してカソリゾイを引き止めた。
「もう1個だけ!あんた、深海みたいな目をした家系って知ってる?」
深海みたいな目とは、伝説のパーティーの銃使いハルヴィンの事を言っているようだ。
ただ"家系"とは?──瞳の遺伝からヘズ帝国の有力貴族の血筋である可能性があるのだろうか。
「深い紺碧の瞳に、月光が刺したような水面の色を持つ血族は居るだろう?橄欖の髪色を持つ、高貴な血統」
「そうそれ!それだよ!……なんだっけ」
ハルヴィンの名を出していないのに、カソリゾイは彼の容姿を命中させている。カソリゾイは伝説のパーティーについて、オリミユとホワステルしか知らないはずだ。ハルヴィンは本当にこの国の貴族だというのか?それにしても、貴族が夜間警備隊という野蛮な職務を選ぶのだろうか。
イヴィアナは「うぅ〜〜」と全力の唸り声を上げて必死に答えを記憶から引きずり出そうとしていた。
──いや……カソリゾイは答えを知っているなら言ってやればいいのに。
「海洋魔法を使う、碧海の一族──」
「メアール……メアール公爵家だ」
カソリゾイに続いて、口を丸く開けたイヴィアナが繋いだ。
「公爵?公爵ってめっちゃ貴族じゃない?」
ハルヴィンがその一族ならば──俺はそう思考しながら発言したせいで、語彙力の欠けらも無い言葉になってしまった。
「イヴィアナの家って……な、なんだっけ?」
「私の家は伯爵家だから、メアール公爵家の方が圧倒的に上の地位だよ。だからなんだって感じだけど。私は帝国魔道士だし」
と言いながらも、イヴィアナには焦燥感が漂っていた。なぜ帝国の公爵家の貴族が冒険者として活躍した、伝説のパーティーだったのか。
──いや、その前に公爵家がなぜ単なる夜間警備隊に留まっているんだ!
「それだけではない」カソリゾイは溜息を吐いて辟易しながら続けた。貴族の話は嫌いなのだろうか。
「メアール公爵家は数百年続く由緒ある家系だから、皇族との関係も根強い。この国でも最高位の大貴族だろうね」
「え、え?」
唖然と驚愕が混ざって、不意に声が出ていた。
──皇族との関係があるって、まさか伝説のパーティー自体が皇帝の思惑なのか?
──この世界を本当の意味で征服するための企みのひとつ……?
独白の中、ひとりでに首を振った。
そんなわけが無い。もしヘズ帝国の皇帝が指導していれば、魔族が賛同するはずがないだろう。
「メアール公爵家に魔力欠如がいるわけないよね……」
イヴィアナは貧乏揺すりをしながらひとりごちたを零す。
「魔力欠如……メアール公爵家の高貴な血統においてそれはない。あの家は清純な血を遵守しているから、不貞もない」
カソリゾイは祭壇に寄りかかって腕を組みながら言う。不可抗力で欠伸をしていた。
運命魔法を使い、厳然とした雰囲気を漂わせる彼からは近寄り難さを感じていたが、時折人間らしい言動をしてくれる。
「そうだよね、私もそう思う。今のメアール家の長男って新しい帝国魔道士候補でもあるオルケアノスだっけ?」
「え、?てっきりイヴィアナは社交界のこと熟知してんのかと思った」
俺の勝手な想像では、貴族は頻繁に社交パーティーに参加し皮肉を言い合っていた。
「顔は覚えてるけど、名前長くて覚えてられないの」
イヴィアナが頬を膨らませていると、カソリゾイも「同感だよ」と微笑して言った。
「たしか、一家全員が海洋生物の名前に因んでいるんじゃなかったかな?予も記憶にない」カソリゾイはくすんだ桃髪を弄りながら話す。「だが、そこまで案ずる必要も無い。オルケアノスの実力は若には及ばないだろう」
運命をも操るカソリゾイでさえ賛嘆するほど、イヴィアナには魔道士として才能も実力もあるようだ。やはりカソリゾイか語るイヴィアナと俺の見ているイヴィアナには齟齬がある。
「当然でしょ」
イヴィアナは冷淡に、そして不敵に言い放った。自信家で高飛車なところは確かにイヴィアナだが、カソリゾイを前にした彼女には傲慢さも入っているように感じた。
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