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72."やり直し"の原因


 カソリゾイは「ふむ……」と言って話を続けた。


「彼女はめぐみを司る"至恵(しけい)の精霊イフォーツ"という精霊と契約していた。どのような経緯があったかは知らないが、その至恵の精霊(イフォーツ)は生命力の全ての恵みを──()()()()を彼女に与え、消失した」


 オリミユは魔族ではなく人族で、精霊による特別な恩恵で100年以上も生きながらえているということだ。


 この話は信用できる話か分からない。ただ、精霊が自身の命を顧みずに契約者を救うのか、という疑問と、そんな危急な状況下に置かれる聖女オリミユの壮絶な過去に顔を歪めた。


「彼女は()に愛される聖女だ。契約者を失った彼女には星神が吸い寄せられるように目をつけたのだろう。同時多発的に契約を立て続けに行ったそうで、九つの星神せいしんが彼の者を加護している」

「九つの星神……?冗談だよね?そんな偉業が……キャメリチスだってそんな多くないはずだよ!」


 イヴィアナは焦燥の声音で叫んだ。


 星神という存在がどれほど神秘的なのか、契約の稀有さとその衝撃は異邦人の俺には理解に苦しかった。


 この世界の一部を司る精霊と、別の惑星(せかい)の創世神である星神の格差はその肩書きだけでも顕著だが、オリミユが九つの星神の契約者ならば、そこまで難しいことでは無いと思うのは必然だろう。


 といっても、普段関知できない神の意識が一部でも加護してくれるのならば、この世界の魔族や人族などのどんな生命体よりも強大な力を持つ可能性もあるように思える。


「でも星神使いも本質は精霊使いと同じ。魔力が切れたら意味ないなら、やっぱりここもリアトの魔法の出番だね!」

「え?俺?!」


 イヴィアナは俺の腕に飛びかかる。甘えた様子ではない。焦りを隠そうとしているのだ。


「無意味だろうね?はオリミユと契約している星神の一部を知っている。ホワステルに教わっただけだが」

「私が負けるって言うの?カソリゾイ」


 同僚と談話しているイヴィアナは俺の知っている天真爛漫な子ではなく、淡白で自尊心の高い貴族だった。


「そうかもしれないかな。予が知っているのは牛飼い星(アルクトゥールス)だけだが、は"運命の神力"を持つと言っていた。詳細は知らないが運命なんてロクなものじゃないし、予よりも甚大な力を有しているのは確かだ」


 カソリゾイはくすんだ桃髪を耳にかけた。

 

「え、あんたより?星神だって意識の一部でしょ。しかも契約者の魔力量以上に力は出せない。それでもっていうの?」


 イヴィアナは狼狽しながら問いかけていた。彼女の手は俺の腕からするすると抜けていく。


「魔力の()()()()()も恐らく他の星神の神力に依っているだろう。だが、この予を遥かに超えた運命の使い手がいるのは確かだよ。ふむ、それでもいいのかな?」

「じゃあ、そのアルクなんたらっていう星神にあんたは負けるの?」


 イヴィアナは階段に座るカソリゾイの目前に堂々と立って腰に手を当てる。それから東雲色のツインテールを払った。よく見たら、2人ともピンク髪という共通点がある。今更どうでも良いことに気がついた。

 

「いいや、そうは言っていない。なぜなら運命とはロクなものではないからな」


 カソリゾイは得意げにせせら笑う。敵わないと言いながら負けるとは限らないと発言できる悠然とした態度は、帝国魔道士であることを俺に意識させた。

 

「その言葉を待ってた」


 同じようにせせら笑うイヴィアナは、カソリゾイの顎を人差し指でくいと上げた。


 俺が引き攣った顔で2人見ていると、イヴィアナは俺を尻目に一瞥して、小気味よく笑った。


「あとはね。時空について聞きたいの。あんたがいくつの時空──運命を越えてきたか分からないけど、その中で時間が巻き戻ることってある?」


 と言ってイヴィアナはカソリゾイの隣に座った。巨躯のカソリゾイの隣に華奢で小さいイヴィアナが座ると、巨人と小人の会話に見える。

 

「ほう、やっと予の本業ではないか」


「ど、どういうことだ?」俺は情けない声を出してイヴィアナに助けを求めた。


「カソリゾイは無限に広がる運命を移り歩いて生きている。だから何度も同じ軌跡を歩んでるの。同じ運命でも些細な差異は生じるだろうけど……」

「俺たちと同じ?」


 "やり直しの正体が判明する"とイヴィアナは言っていた。それは、カソリゾイが似た能力を使っているからなのか。

 

「うん、もしかしたらそうかもって。ね、カソリゾイ。私達もなぜか同じことを繰り返してるんだけど、心当たりある?」


「それは、同じ時空の話かな?」


 カソリゾイは厳かに一考した後、表情を変えずに話し始めた。()()──時空を越えることが日常茶飯事の彼にとっては驚嘆するにも値しない話題なのだろうか。


「それが分からないから聞いてるのに」とイヴィアナがぶすくれて呟く。

「ならば、此方こちらが前回同様の言行をしても何か変わったことは起きたかな?」


 イヴィアナはきょとんとした顔で俺を見つめた。前回と同じように行動した時は、前回同様に進んで特に変化はなかったと思う。

 

 俺とイヴィアナは同時に「ない」と答えた。


「それなら予の知る範疇ではないな。確かに運命──時空を越えた時、"時間"は巻き戻る。しかしながらそれを巻き戻ると表現することが出来るかは疑問だろう。予は時空を越えているんだ。その世界はもう"別世界"で、元いた世界ではない。新しい世界での運命が始まる。それを巻き戻ると表現するのは正しくない」


 カソリゾイは自慢気にくすんだ桃色の長髪を払った。彼はいつも楽しそうに話をしてくれる。


なんじらは時空を飛んでいない。同じ時空内にいて若らの世界で生きている。それで時間が巻き戻るというのなら、それは"運命"の領域ではなく"時間"の支配だろうな」


「時間……」と、異口同音に発した。イヴィアナも俺と同じことを考えているようだ。


 "時間"と言えば災禍の四柱の執達吏(ディアルキャル)の"刹那のウルリクアクア"に違いないが、向こうから俺たちを排除しているのに、巻き戻す意味はあるのだろうか。

 

 今はカソリゾイがいる。この件については、後でイヴィアナと推察を進めよう。彼女も流石にこの話題は隠匿するだろう。


「ありがとうカソリゾイ。あんたじゃどうもできなかったのは残念だけど、原因が判明したのは助かった」


 イヴィアナはとぼとぼと俺の隣に戻った。俺と同様、混乱しているのだろう。

 

「ふむ、それ──」


 カソリゾイの声を遮って礼拝堂の外から複数の足音と声がした。3人が同時に礼拝堂の扉を一瞥して沈黙する。

 

 ──まさか俺たちの侵入が露呈したか?いや……


 俺とイヴィアナは大聖堂の外部から礼拝堂まで、隠密しながら侵入に成功した。少し騒ぎすぎたのだろうか。


 ──一体誰が来たんだ?

 

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