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71.百年前の聖女


「伝説のパーティーか……そうだな。なんじは鋭い」といってカソリゾイは微笑を浮かべる。「はるか昔に1人会ったことがある」


 "はるか昔"──そう言うならば、彼は本当に老人のようだ。人間だとしても何らかの能力で不老不死になっているのだろう。


 カソリゾイは黒蝶真珠さながらの耳飾りを外して手のひらに乗せた。真珠の周りには黒い宝石で装飾されている。先刻までの超然とした雰囲気とは裏腹に、嬉々とした子供さながらに見える。

 

 黒蝶真珠は月光の反射で種々の色に変化した。黒色がベースの真珠だが、角度によって様々な色な浮かぶ幻想的で不気味な宝石だ。反射的にもう片方の耳飾りを探したが、見つからなかった。どうやら片耳だけの耳飾りのようだ。


 ──いや……カソリゾイが耳飾りを撫で思い耽っている様相から、何か彼の記憶に残る人物の形見か?


「彼女と出会ったのは100年ほどの前の帝国だよ。当時()は帝国魔道士ではなく平凡な流浪人だった」

 

「100年前!?」と、俺は声に出さざるを得なかった。


 ──淡々と100年前と言われて驚嘆しない人は居るか?


 この世界の人族の寿命はせいぜい60歳ほどのはずで、100年以上生きているカソリゾイは人族の域を超えている。そして、彼が出会った伝説のパーティーも然りだ。


 カソリゾイは俺を見遣って不敵な笑みを浮かべた後、話を戻した。


「たまたま通った広場の噴水の前で、少女は大衆に幸福の笑顔を贈っていた。昼下がりの広場にいた大衆は少女を囲んで、またその笑顔を受け取っていた。そんな異質な光景に私も興味が湧いたものだよ」


 カソリゾイは瞼を閉じて幸せそうに語る。俺とイヴィアナは口を挟まずに傾聴した。


「その少女は澄んだ快晴のような、清らかな透水のような──曰く言い難い美しい髪をして、この黒蝶真珠の瞳を燦然と輝かせていた」


 カソリゾイは黒蝶真珠に囚われたように釘付けになった。愛しさを孕んだ視線は逃すまいと黒蝶真珠を凝視する。

 

の視線は彼女に囚われた。聞くところによると、彼女は帝国で名うての"精霊使い"で人々に幸福を撒ける精霊の加護を受ける()()という。そんな神聖な聖女と予が話せるはずもなく、目に焼きつけることしか出来なかった。だが、その日の夜、偶然聖女と再会した。あれは運命的だったな……」


 顔を紅潮させるカソリゾイに初めて人間味を感じた。彼のような超然的な人間でもそのような感情はあるのだ。きっと俺は、カソリゾイを勘違いしている。

 

「そして聖女と1曲踊ったんだ。その夜以降、聖女は忽然と姿を消した。あの夜の出来事は今も一言一句忘れていない。だが、それを思い返すことでしか、彼女と話せなかった。本当に()()()()空虚だった」


 ──一言一句忘れていないって、そんなにか……?


 カソリゾイはかなりその少女に執着しているようだ。立ち直れているようなら良かったが、今も尚恍惚と語れるほどの少女を失って、よく立ち直れたものだ。

 

「その聖女が伝説のパーティーの誰だって言うの?」


 イヴィアナは怪訝そうに呟いた。イヴィアナの呟きにカソリゾイは目を向ける。先刻までの恍惚とした表情から打って変わり、憮然としたように「はあ……」と嘆息を吐いた。

 

「伝説のパーティーだと知ったのは最近で、ホワステルから聞いたのだよ。が帝国魔道士になった経緯を聞いてきたのでこの与太話をしたら、ホワステルが仲間のことだと食いついてきてな」

 

「その聖女の名前は"星神使い"の()()()()?」冷淡な声でイヴィアナが言い、足を組みかえた。「話回りくどい。あんたはそんな不必要な話をぺらぺらと喋る人じゃないでしょ?」


 ──どういうことだ?


 ただカソリゾイは、はるか昔に喪失した人の話に浸っていたのかと思っていたが、違うのだろうか。


 ──何か別の意図があったのか?


「ふん、若者は気が短いな」

「ただ()()()()のことを知ってるって情報を教えてくれればいいのに、なんでそんな回りくどく?残念だけど、あんたがどう誘導しようと、()()()()よ」


 カソリゾイの回想話から得られる含意がんいを全て読み取れた訳ではないが、彼はイヴィアナが伝説のパーティーを抹殺するのを阻止しようとしたのだろうか。

 

 はたまた、オリミユに対して抱く特別な感情が引き止めたのだろうか。


 ──だとしたらなぜ自分がオリミユについての情報を持っていると零した?


 カソリゾイの言動には数多の矛盾が見られる。益々彼への不可解さが募った。彼は俺たちを助けたいのか、オリミユを助けたいのか、どちらだろうか。


「彼の者を倒すことは不可能だろう」


 カソリゾイは無感情に言った。

 

「え?どういうこと?」


 イヴィアナは驚愕のあまり思わず立ち上がる。

 

 倒すのが()()()なら、俺たちは伝説のパーティーに向かい打てない。絶望が押し寄せて心拍音が上がる。次の言葉を聞くのが怖かった。


が"精霊使い"と言ったことは記憶にあるかな?」

「そういえば、オリミユって"星神(せいしん)使い"だったはず……」


 イヴィアナの発言で俺も気付かされた。確かにオリミユが星神使いだということは、マルシュの口からイヴィアナが聞き出していたはずだ。


「逸話には精霊使いと記述されているのに、よく知っているな」

「どうでもいいでしょ、そんなこと!」


 ──精霊使い?カソリゾイの間違いではないのか?

 

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