70.運命を操る魔法
イヴィアナは足を組んで背もたれに寄りかかった。「はあ」と鬱陶しそうに嘆息を吐く。
「……わかった。全部が終わったら帰ってきたげる。それでもダメ?」
──そんなこと……
そう思って俺はイヴィアナを引き留めようとしたが、目配せで止められた。恐らく話を進めるために適当に交わした口約束程度だと思うが、ほんの少しの寂しさを感じた。 俺は事が収束した後もパーティーのみんなとこの広い世界の冒険を続けたい。
「仕方ない。陛下は仮借にあたるだろう。して、何を聞きたいのかな?」
「伝説のパーティーについて」
イヴィアナはすぐに質問した。カソリゾイと対話しているイヴィアナは淡々としていて、少し威圧的で感情を抑えて話している。
「伝説のパーティー?」カソリゾイは祭壇手前の段差に長い足を曲げて腰掛け、中空を見つめた。「なぜ予にそれを聞くのかな?予はそれに博識ではないよ」
「え……」と思わず声が漏れた。
瞬時に空虚な瞳が俺を一瞥したせいで、肩を浮かせてしまった。カソリゾイという未知の生物に対しての接し方が分からず戸惑ってしまう。飄々としていて人柄が掴みにくい。
「嘘言わないでよ。ホワステル様の事くらいはわかるよね?少なくとも私より長い付き合いなんだから!」
イヴィアナは予想外の返答に焦りを隠しきれずにいた。俺は宛があると自信満々に言っていたイヴィアナを思い返した。
「遺憾ながら、ホワステルのことも若以上に知ることは無い。伝説のパーティーの一員と、攻撃魔法を得手とする変わった白魔道士ということだけだ」
「はあ?あんた老人のくせに!」
イヴィアナが人生の先輩の眼前であけすけに言葉を言うので、俺はびくびくしていた。やはりいつもよりも威圧的な気がする。
「そもそも伝説のパーティーは数年前に台頭したのだよ?老人も何も関係ない」
カソリゾイのあっけらかんとした顔を見るに、本当に伝説のパーティーについて不知なのだろうか。対策を練るために伝説のパーティーメンバーの特質を熟知する作戦が、既に崩れかけていた。
「伝説のパーティーが全員人間なわけないでしょ?そう思わない?だから長生きのカソリゾイなら人外の何かを知ってるかなって思ったの」
イヴィアナは"刹那のウルリクアクア"以外にも魔族の存在を疑っているのだろうか?あるいは、人間でありながら長寿の類の人外も有り得る話だ。そういう荒唐無稽な推理を確定させようとしているのか。
カソリゾイは「ふむ」と言って何かを迷っていた。
「じゃあソレーヴを呼んでくれる?さすがに宮殿は入れないから」
──ソレーヴ?初めて聞いた名前だ。別の帝国魔道士か?
「それは断る。面倒だよ」
「はあー?じゃ教えてってば」
半目で頬を膨らませるイヴィアナを見遣ると、カソリゾイは口を隠してお淑やかに笑い出した。
「気が短いのも、そう感情を表に出すのも若さを感じて良いな」
「私はもう16なんだけど!」といってイヴィアナは両足で地面を叩く。その様子は背伸びをしている子供さながら。
「そうかそうか」と宥めるカソリゾイは老人そのものだ。「それでイヴィアナ、若らは死の運命を変える為、伝説のパーティーについて知りたいのかな?」
──カソリゾイは俺たちの未来を──運命を知っている?
──いや、そんな訳がない。
カソリゾイは探りを入れているだけだ。俺は無反応を貫いた。なにか話せば、些細な揺らぎで考えが露呈する。
「そうだよ。私は仲間を助けたい」
「ちょ!イヴィアナ!」
肯定すれば俺たちの狙いまで露呈してしまう。
──何を言っているんだイヴィアナは!
「無駄だから、リアト」イヴィアナは俺の鼻を人差し指で押した。「カソリゾイは本当にその"運命"を見ている。それがカソリゾイの魔法──運命を操る魔法の真骨頂だからね」
──運命を操る魔法?なんだそのめちゃくちゃな魔法は?!
どんな暗澹とした未来、はたまた光り輝く未来でも命の制定者の前には無意味で、彼の思い描く運命が訪れるということだ。
ふと思った。
──なら、俺たちの死の運命もこの命の制定者に変えてもらえば解決じゃないか?
だが、そう簡単に行かないのがこの世界だ。第1にカソリゾイがそこまで協力してくれる理由が何も無い。
「ねえ、カソリゾイ。あんたが見てきた運命に私たちが生きた運命はあった?」
イヴィアナはカソリゾイと視線を合わせずに話していた。どこか答えがわかっているかのようだ。
予想通り、カソリゾイは無言で首を横に振った。
俺たちはカソリゾイの渡る運命の中で一度も生存していなかった。それは俺たちの死が不可避なことを意味した。
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