68.大聖堂への侵入
──まじか、まじか、正気か!?
──なぜ反逆者のイヴィアナが帝国魔道士とかいう選りすぐりの魔道士とあって無事だと思うんだ?!
頭の収集がつかないまま急降下していく。混乱と急下降の肝冷えで意識を失いそうだった。
──しかも"命の制定者"ってなんなんだ!?"命"を制定できる魔道士って本当に人間って言えるのかよ?そんな得体の知れない魔道士と逢瀬していいのか?!
こんな独白をしても無意味で、俺はイヴィアナに連れていかれるだけだった。
雲を抜けると、眼下には壮麗な大聖堂があった。どうやらこの神聖な領域に侵入するらしく、夜間警備隊にバレないよう上階の窓から入った。
「なぁ、イヴィアナ……ホントに大丈夫なのか?帝国魔道士ってイヴィアナぐらい強い奴らだろ?そんなやつに会うなんてイヴィアナが心配なんだけど……」
大聖堂内に入ってから心臓が早鐘を打って仕方ない。俺は震える指でイヴィアナの背中を叩いた。
イヴィアナは俺を半目で凝視してから溜息を吐く。
「私じゃなくて自分が心配の間違いじゃないの?」
「え、えぇ?!そんなことはないようなあるような……」
──見抜かれてた……
いや、これは当然の焦燥だろう。帝国魔道士は一国をも滅ぼす力があるというのに、なんの覚悟もなく体面するのは緊張する。
「私より強いって言うより、理不尽な魔法かな。でも平気、私達同僚だから」
──いやイヴィアナは反逆者にされてるんじゃなかったっけ?同僚とか関係なくないか?
そんなツッコミが出そうになったが、引っ込めておいた。
「帝国魔道士って世界中で恐れられてるらしいけど、私たちだってただの人間で魔道士なんだから、弱点くらいあるよ」
──帝国魔道士は世界中から恐れられてるのか……
さらに恐怖を煽る言い方に情けなく身震いしてしまった。イヴィアナが小さく吹き出す音が聞こえる。
この大聖堂は帝国でも随意一の大聖堂なのか、天井は宮殿さながらに高く、ステンドグラスはゴシック様式の壮麗なデザインだった。
内部には当然、警備隊が巡回していた。 俺とイヴィアナは虎視眈々と機会を待ち、忍び足で大聖堂を移動する。
「礼拝堂にいけば多分会えると思う」
イヴィアナはそう囁く。
礼拝堂に侵入するための扉はどれも警備が厳重だった。恐らくここは歴史的にも世界的にも相当有名な大聖堂だ。
俺の"入れ替われ"を使って礼拝堂内の物体と入れ替わって移動をした。この魔法は目視で捉えられなくても魔力で入れ替わる対象を掴めれば発動できる便利な特質を持っている。
礼拝堂は薄暗く閑散としていた。特徴的なステンドグラスは大聖堂の中で見たデザインの中でも1番壮大で美麗だった。ステンドグラスが巨大な1枚の絵画のようだ。人間?──に見える人外が描かれ、月光に照らされる。後光が刺しているように見えた。
──まさかこの絵のやつが神か?
この暗さでも分かる豪華絢爛とした装飾は建築に多大な費用と時間が費やされたことが伺える。ゴシック様式さながらの華美さだ。
そして不思議なことに、外にはあれだけ巡回していた警備隊が礼拝堂には一人たりともいなかった。
何度も見回すが誰もいない。イヴィアナは「おかしいな」と漏らしていた。
壮麗な礼拝堂の中、俺とイヴィアナ2人の足音だけが音を鳴らす。反響する音が不気味だった。
「で、なんで礼拝堂?」
"多分会えると思う"なんて曖昧な言葉を受け入れてしまったが、あまりにも大雑把すぎる。今更ながら疑問を口にした。
「ここがカソリゾイの寝室だから」とイヴィアナは即答する。
「へ、へえ……?」
──寝室?ここが?意味がわからない。
「理由は知らないけど、単に"主"への信仰心が強いだけなんじゃないかな?」
──それって、普通に不敬なんじゃないか?ここの宗教はそれが普通なのか?
「リアト、ごめんだけど、魔法弱めてくれない?魔力抑えるやつ」
イヴィアナは人差し指で俺のほっぺを突っつく。
「なんでだ?見つかっちゃうんじゃ?」
「魔法が完全に見えなかったから、そもそも来てることすら知らせられないでしょ?」
「ああ、確かに」
イヴィアナの額に杖をそっと当てる。詠唱する必要は無い。本当に"なんとなく"の魔力の流れで魔法の効力を弱める。イヴィアナは元の魔力量が人間を超えた爆発的な容量のおかげで調整に5分もかかってしまった。この魔力で外の警備隊に露見されてしまうのならば、大人しく逃げよう。
「ありがとう」
イヴィアナは無邪気に笑いかけてくれる。俺はこの笑顔が大好きだった。
「ま、座ってよっか」
イヴィアナは祭壇後ろに厳かに構える"主"の石像に祈りを捧げた。あの彫刻も魔法で作っているようだ。神にふさわしい神聖な魔力が漂っている。
彼女は祈りを捧げた後、呑気に身廊に着席した。
俺は吸われるほど肝が据わっていない。微かに体を揺らしながら壮麗な建築を眺めた。
「ほう、勇者とは」
やにわに耳元で聞こえた囁き声に大声で叫びそうになったが、手で必死押え込んだ。
──この声はイヴィアナじゃない……誰だ!?
心臓に少し痛みを感じるくらいに心拍数が高まっている。驚愕のせいで、顎も手も何もかもが震える。魔力の気配も何も無く唐突に、耳元で第三者の声が聞こえたら誰でも生肝が冷えるだろう。
──いや、待て。俺はこの時点でまだ旅を出発して間もないから、勇者と呼ばれていない。
──なぜ俺が近い未来勇者とよばれることをしっているんだ?
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