65.2人で練る作戦
やり直しの告白を遂げ、俺とイヴィアナは破滅の運命に対抗するための作戦を練ることにした。
「前回はイヴィアナのおかげで、黒幕が判明したけど……」
前回は俺たちを散々殺してきた"八斬りのシュラクペ"を討伐し、災禍の四柱の存在を認識することが出来た。
そして、伝説のパーティーが真の黒幕であり、何らかの目的のために俺たちを殺していたことが判明した。それはマルシュが敵であることも意味している。
──あの時俺を助けてくれたのも偶然……なんだよな?
マルシュのことが分からない。俺はどうすれば良いのだろうか。傷心で無意識のうちに俯いた。
「ちょっと、しゃきっとしてよ!」イヴィアナは杖で俺の頭をコツンと突いた。「まずは伝説のパーティーをどうするかってとこだよね」
「ああそうだな……"刹那のウルリクアクア"がチート能力すぎてどうすりゃいいんだろうな。さっきは俺、知らない間に死んでたし」
これから戦線離脱しようと話していた刹那、俺は首を刺されて死んだ。前回の死は耐え兼ねる激痛だった。二度と体験したくない。
「ウルリクアクアは"時間を操る魔法"だと思う。本人がそう言ってた。時間を止めたり出来るんじゃないの?」
イヴィアナは目を手で押える。俺とグレアムの死を思い起こしてしまったのかもしれない。
「益々無理ゲーじゃん……」
この世の流れを意味する"時間"を自在に操れる魔法──勝機を見いだせない。
「でもリアトは"無効力化"で封じてたよ?」
「あっ……確かに」
"無効力化"は触れなければ発動できないという不便な白魔法。そのせいで滅多に使えなかったのだが、あの時はウルリクアクアが何も出来ず佇んでいた。つまり有効的だったのだ。
「戦闘方法としてはリアトが"無効力化"を使ってグレイとエリィが突撃するってのがいいと思うけど、他の仲間に阻まれるだろうね」
「伝説のパーティー……か」
最初こそ風采の上がらない異名のパーティーだと嘲笑っていたが、真に伝説級の魔道士が揃ったパーティーに違いないだろう。本当に太刀打ちができない。
ただ"勝てない"と諦められる状況でもない。それに、俺は伝説のパーティーについて何も知らないことに気がついた。
黒魔道士のマルシュ、白魔道士のホワステル、時間を操る魔法を使う魔族のウルリクアクア、星神使いのオリミユ、そして銃使いのハルヴィン。
知っている情報と言えば、このパーティー構成とマルシュの花死病やウルリクアクアが災禍の四柱ということくらいだ。オリミユに関しては会ったこともない。
「伝説のパーティーのみんなについて、もう少し調査するってのはどうだ?」
「それは分かってる。そうするつもりだったよ!」
「マジか……じゃあまず……どうやって──」と悩み始めた俺の言葉を言下にイヴィアナが「それなら大丈夫!」言い出した。
「当てがあるから。あの老人なら多分知ってるよ……」
イヴィアナはしりすぼみで話した。誰を思い浮かべているのだろうか。
「それよりも、だよリアト!」
「うん?」
「これからどうするかって話」
「あぁ、そうだそうだ。ごめんちょっと混乱してて……」
混乱──というより、俺の頭を悩ませる重大な問題があった。俺の1番の懸念点は、"マルシュを殺さなければならない事"だ。
私情が入っているのは自分でも良く分かっている。俺がマルシュに誑かされていても構わない、だが、俺はマルシュを殺したくない。
イヴィアナは恐らく違うだろう。マルシュを忌憚なく殺した冷徹な帝国魔道士の姿は、正視していなくとも悍ましかった。
それにこの世界の住民と俺の死生観はかなり異なっている。
俺たちのパーティーの運命を変えるには、伝説のパーティーを殺さなければならないだろう。グレアムもシェリロルもエリィもそういうはずだ。
そこまでしなくたって──と思うが、この世界の人達はそれが普通なのだ。殺さなければいつか報復される。悪の根源は断絶させなければならないという考えだろう。
「大丈夫?」とイヴィアナは俺の背中をさする。
強い義侠心を持つ勇敢なイヴィアナは別世界の人間だ。
──いや、俺が別世界の人間であって"異邦人"か。
正統なこの世界の住民を否定できる立場にいない。
──俺はで自分を曲げるべきなのか?
「大丈夫」と言って自分の頭を叩いた。
何もかもを望まずに、まずは目先の大切な人の命を救うべきだろう。
「仲間集めのとこはなんも出来ないし、基本はいつも通りで、マリオネとアイユイユが八斬りのシュラクペに襲撃される前に助けるってのはどう?もっと時間を短くすることなら出来るはずだよな?」
「うーん。大方却下」
イヴィアナは顎に手を添えて淡々と俺の提案を否定した。俺は思わず「え?!なんでだよ!」と反射的に声が出る。
「時間を短くするのは賛成。正直偶然会えなければ無理やり会えばいいしね?でもマリオネとアイユイユを事前に助けるのはダメ」
「はぁ??」
──一体何を言ってるんだイヴィアナは──?
「前回はギリギリ過ぎたかもどけど、あれが完璧の邂逅だったと思わない?──よく考えてリアト。私たちが早くメリペール遺跡に到着して、アイユイユとマリオネに早く王都に帰るよう促したとして、それが成功しても何も良くないよ?」
イヴィアナは東雲色のツインテールの片方を掴みながら話した。邪魔なのだろうか。
「なんでだ?」
アイユイユとマリオネがそもそも命の危機に瀕することがなくなるから、最適の作戦だと思っていた。
「2人が無事に王都に帰還出来たとして、シュラクペはどうするの?殺せてないまま。ってことは私たちが知らない別の場面でマリオネとアイユイユは襲撃される」イヴィアナは人差し指を立てて話し続けた。「前回より早く着いてシュラクペを待ち伏せするのもダメ。シュラクペは魔力まで隠密できる老練の魔道士だから、あの2人を護衛する私たちに気付いたらそれもまた襲撃を断念するはず。となると、前回のあの頃合いが1番いいんだよ」
「そうか……デタラメに助けるんじゃない。俺らが運命を変えてしまう責任を持たなくちゃならない」
たった1回深呼吸をする。それだけで小さな運命が変わり始めるほど、運命は繊細なのだ。
「それに、八斬りのシュラクペは何度殺したっていい」
イヴィアナを一瞥すると、悍ましい形相で虚空を眺めていた。翡翠の瞳から溢れ出る憎悪の色がここら一体を呑み込んでしまいそうだった。鬼気迫る威圧感で俺は無意識に固唾を飲んだ。
「イヴィアナ?」
落ち着かせようと思ったが、恐ろしさで触れることが出来ず、彼女の名前を呼ぶことにした。
「なに?」と俺を見遣るイヴィアナはいつもの可憐な女の子だった。
「グレアムとシェリロル、エリィには絶対に会う。それは変わらないんだけど、さ……ニルトア湖畔のこと……」
俺は顔を俯かせながら瞳だけイヴィアナに向けて動かす。彼女は少し口を開けて憮然としていた。その後、俺と同じように俯き出して重たい沈黙が開幕した。
指揮者シェフドルから始まり、クリファイド、伝説のパーティーとニルトア湖畔に続々と敵が集結しだした。
彼らはなぜ来れたのだろうか──この疑問が戦闘中永遠と頭の中を巡っていた。
魔王領は魔力の発生が不安定で、元から魔力で生命体を探知するのは不可能。加えてニルトア湖から爆発的に溢れ出る魔力で、生命体の魔力はさらに雲隠れする。
そしてこの隠密作戦は俺たちのパーティーだけで決めた作戦だった。
──そんな俺たちの居場所をなぜ瞬時に特定できたのか?
何度考え直そうとしても、帰ってくるのはひとつの答えだけだった。
「俺たちの中に裏切り者がいる」
お読み頂きありがとうございます。感想やリアクション、評価いただけるととても励みになりますꕤ︎︎




