63.私はひとりじゃない
瞼を開いた。いつも通りの風景──村落の入り口が視界に広がる。私のやり直しはまだ終わっていないようだ。5度目の魔王討伐の旅が始まる。
今回は死の痛みを感じる前に死んだ。恐らく憎しみによって痛覚を失念していたのだろう。
私の愛する仲間は目の前で惨殺され、アイユイユとフェリシィラも無惨に殺されてしまった。
──あ〜あ。結局私の負けじゃない。
周囲を気にすることなく、舌打ちを鳴らした。
でも、あの女を殺すことが出来たのは私としてはかなりの痛快だった。今もあの時の快感が体に染み渡っているような気がする。あの時の高揚は忘れられない。殺されたことよりも、あの女を殺せた快感が上回っていた。
──今回も絶対殺さなきゃ。
前回は八斬りのシュラクペを討伐し、運命に大きな変化をもたらした。それでも結局、全ての元凶である"伝説のパーティー"によって運命が軌道に戻され、私たちは死んだ。
黒幕や敵が明瞭化したことは前進と言えるが、どう対抗すれば良いのかという課題に関しては停滞し続けている。伝説のパーティーの能力値は未知数だ。特に銃使いのハルヴィンや星神使いのオリミユの情報が皆無で、対抗するにも無謀すぎる。
この圧倒的未知数を考えると、ハルヴィンとオリミユの情報収集をやるべきだろう。
私は真剣に思索を巡らせながら、とぼとぼと歩いてツアルトさんの家に向かった。
安全に情報を教えてくれる人物を私は知っている。だが、その人と出会うには時系列的にグレアムを仲間する以前に会わなければならない。帝国から離れれば彼に会える機会もほとんど無いだろう。
ここで問題となるのはリアトだ。リアトは私とやり直しの周期がズレている。さらに複雑なことに、リアトのやり直しは前回から停止している。
今回のリアトも3度目の魔王討伐であって、彼にとってシヴァージ王国の王都に入国する前までは繰り返しの冒険だ。同じようにやり直しをしていると勘づかれないためにも、大胆な動きができない。
──いや、もういいか。
頑固になるのも良くない。私は仲間を心配したいのであって、心配されたくはない。でも次こそは私たちの平和を勝ち取るために邁進する必要がある。
致し方ないことだが、多くを伏せてリアトに説明しよう。
──よし!
震える手を止めるため、わざと声を出した。そして、息を吐いて、扉を乱暴に開けた。
ここからまた私の魔王討伐の旅が始まる。たった4度目なのに、もう気が狂いそうだった。
「水……水くれる?」
私はいつも通り、疲弊困憊の演技を披露した。次にくる言葉は「イヴィアナ、覚えているか?」だ。この言葉を聞くとさらに孤独を実感する。
──独り……
それは私が帝国魔道士として活躍していた頃の話だと思っていた。仲間と助け合い、励まし合う冒険が続いていくはずだった。
──それを、あいつらが……
『今後はちゃんと自制してよ──』
前に聞いたグレアムの言葉を想起した。確かに彼の言うとおり、私の感情を自制出来なくなったその先は──
──さらなる破滅"だろうね。
そうなる前に、運命を打破すればいい。
息を切らす演技をして俯いていると、リアトの足が視界に入った。愛しいリアトがまた動いている。それだけで涙が出そうなくらい嬉しかった。
「また話してくれないのか?イヴィアナ」
「え……」
息も絶え絶えの演技をやめて息を飲んだ。顔を上げ、愕然とリアトを注視する。
眉根を下げたリアトが、さらさらの黒髪を些か揺らして私を優しく覗き込んだ。綺麗で大好きな髪の毛だ。
「知り合いなのかい?リアト」
半年間リアトの面倒を見たツアルトさんの声だ。
「うん、知り合いだ。イヴィアナ、覚えてるだろ?」
リアトはコップ一杯になった水を差し出した。私の英雄が黒い目を燦然と輝かせて邪気を取り除いてくれる。
何も変わらないと思っていた世界の繰り返しが変わった。ひとつの運命に歪みが生じた。
私の精神に一縷の光が差した。
私はもうひとりじゃない。
「うん……覚えてる……っ……知ってる……大好きな仲間だよ……リアト……っ」
嗚咽を漏らしながらも必死に話した。どうしてもリアトに伝えたかった。
頬から顎にかけて何かが伝う。顎から水滴が落ちた。
──あぁ、私泣いてるんだ……
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