54.最強の白魔法使い
『贖罪を下す』
沈黙を破るように、ホワステルの神秘的なガラスの魔法の杖から光の鎌が現れる。リアトとシェリロルを目眩し、切りかかろうとしてた。
『火炎放射』
物凄い魔力が凝縮された攻撃だが、私の目で捉えられる速度ならば、"火炎放射"で全て燃やし尽くせる。
「馬鹿な話だね。アムラヴィーベ様を殺したいなんて、笑っちゃう。帝国魔道士に勝ってから言ってくれない?」
「きみみたいなお子様にあたしが手こずるはずないよ」
私の傲慢な発言に、ホワステルは淡々と返す。
"火炎放射"を何度も発射するが、一度も当たらない。私にとっての"火炎放射"は完成された完璧な魔法で、威力も速度も高性能だというのに全て避けれた。この治癒師は本当に只者じゃない。
リアトとシェリロルはマルシュと戦っている。2人の事ももちろん信頼しているが、これ以上仲間を傷つけられるのも看過できない。私は少しずつちょっかいを出しながらホワステルと対峙した。
『催眠術視』
『無効化』
隙を狙ってアイユイユは魔法を放つが、ホワステルは自身に白魔法を発動して防いだ。
「無駄だよアイユイユ」と、ホワステルは私の攻撃を避けながら言う。「使うなら"死線"にしてよ。生ぬるい魔法であたしを抑えられると思わないで。じゃないと、きみの両眼を取るよ」
『贖罪を下す』
「アイユイユ!」
攻撃に集中していたせいで、私の注意が疎かだった。アイユイユの両目はホワステルの魔法によって光の鎌が放つ光線で切られてしまった。アイユイユは苦痛の声を上げる。
「きみは魔法に頼らないでもう少し戦闘技術を磨くべきだよ、アイユイユ」
ホワステルは神秘的なガラスの杖で白髪の髪を弄りながら言う。甚だ傲慢な態度だ。
「ははっ、図星すぎてなにも言えませんね!」
「それでね、イヴィアナ。よそ見はだめだよ」
『神罰』
たしかにホワステルの言う通りだ。私は味方の負傷で酷く狼狽え、助けられなかった罪悪感と無力感に一瞬思考を支配され、大きな隙ができる。
──だってアイユイユは私の大切な友人なんだもの。気にしない方が難しい。
ホワステルの魔法を避けきれず、口から血を吐き出して木にしなだれかかった。たった一撃掠っただけでこの威力だ。
「きみを初めて見た時逸材だと思ったものだよ。だって試験を全部初級攻撃魔法の"火炎放射"で終わらせちゃうんだもん」
「私にとっては初級じゃないの」
「そうだね。だってきみは魔族をも超える魔力量をもってるから。若いのが唯一の欠点だね。あたしみたいに長生きできたら良かったけど」
次の瞬間にはホワステルの魔法でこの身は朽ちるだろう。私はまた死ぬのか。4度も機会があったというのに、私の未熟な力では何も出来なかった。
『自分の魔法への自尊心は低く、帝国魔道士であることの誇りは高くもて』
ソレーヴの警句が脳裏に過ぎる。いや、ずっと念頭に置いてきた言葉だった。私は帝国魔道士で世界でも傑出した魔道士だけれど、相性やわずかな隙を突かれれば簡単に落とされる。系統に縛られた魔道士には至当のことだ。
逆に捉えれば私だって敵わないと感じる相手を打破できる。それをわかっていながら4度も失敗している。でも、それも仕方の無いことのかもしれない。
だって私はずっと全力を出せていない。
『贖罪を下す』
ホワステルの魔法が放たれ、私を襲う光の鎌が出現した。
"火炎放射"以外を見たいのなら、濃密な魔力を込めてお望みの魔法を出してあげる。
──ホワステルには出さないけどね。
『炎獄の一撃』
ホワステルは唖然と炎を追ったが、この速度の魔法にはかなうまい。私の素早い一撃はマルシュに命中した。だが、変わらずホワステルの攻撃は目前に来ている。
特大魔法を撃った後にすぐ別の魔法は出せない。無力にも攻撃を受け入れるしかないのだ。しかし、私は何者かに押されて回避することになった。
「リアト……」
身を呈して私を救ってくれたのはリアトだった。背中にホワステルによる攻撃が掠っている。
「"|重要な時だけ時間を遅らせる《レイタルト》"が最強すぎてな!」
リアトを強く抱きしめたが、誤って負傷したところにも触れてしまった。リアトは呻き声を漏らしていた。
「ごめん」と呟いてマルシュの方を見遣った。
魔法の手応えはあったはずだ。ミレに使った時は久方ぶりのため位置が少しズレしてしまったが、今度は正確に当てられた。
ところが、マルシュは傷ひとつ負わず生存していた。常人では避けられない速度と火力の魔法をどうやって──愕然と周囲を確認すると、いつの間にかクリファイドが参入していた。
──なるほど、クリファイドがマルシュを庇い、私の攻撃を受け止めたのか。
私の攻撃を受けても相変わらず無傷だ。
クリファイドは所々切創があり、激戦であったことが伺える。
──いや、何故彼がここにいる?エリィとグレアムはどうした?まさか……
「何をしているのリフ!」
マルシュはクリファイドに向かって叱責する。
「バカ言うな!!死にそうだっただろ!」
「バカはこっちのセリフよ!あなたが死んだらどうするの!!」
「いつまで子供扱いする気だよ!」
悪党2人は戦場で愉快に口喧嘩していた。騒々しい。お前たちの茶番がこの世で1番つまらない。
──私はいち早くマルシュを殺したいというのに、邪魔しやがって……
「下がってなさい、リフ。あとは"私たち"に任せて」
『漆黒剣』
マルシュが漆黒の剣を顕現させた刹那、グレアムの斧剣が彼女の首を狙って眼前に現れた。その斧剣はクリファイドの大剣が堰き止められ、マルシュにはあと1歩届かなかった。
グレアムの服は八つ裂きにされ、全身から流血していて満身創痍だった。自身の血を迸りながらクリファイドに斬り掛かる。
──良かった……
私はグレアムがまだ生きていたことに酷く安堵した。
戦士の間合いに魔道士が入れば命はない。マルシュは魔道士のなかでも戦士に近い存在ではあるが、やはり戦士の圧迫感や速度についていけないだろう。
その瞬間──好機を伺っていたであろうエリィの妖刀が、マルシュを庇ったクリファイドを斬り裂いた。
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