50.騎士と戦士
私たち勇者パーティーを反逆者呼ばわりするクリファイド。彼の赤い瞳には明らかに嘲笑が浮かんでいた。
私たちの誰かが裏切り、ニルトア湖畔の作戦を敵側に漏洩していた。それに絶望する私を見て、そんなに愉しいのだろうか。
仲間に──私の愛する仲間に裏切られた。騙された。欺かれた。
──私の愛は拒否されたの?
大太刀を構えて、眉を釣り上げるエリィ。前髪が長くて鬱陶しそうなのに、実力はお墨付きだ。気怠げにしているけど、割と頼りになる。
口に手を当て、不安そうにクリファイドを見遣るシェリロル。可愛くふわふわした薄青色の髪。熊の耳さながらに作るお団子はいつも自分でセットしている。
表情固く、瞬きせずにクリファイドを睨むグレアム。幼い頃からいつも隣にいる人。私のことをいつも見てくれる。
反逆者と言われる状況を把握できずき、眉を顰めるリアト。死生観も何もかもが私とは違う英雄。さらさらな黒髪。小さい耳たぶ。リアトのことを時々可愛いところがある。
仲間が愛しい。疑心の目を向ける暇があれば、愛慕の視線を送ってやりたい。
──それなのに、裏切り者が……いるなんて……
「何を言ってる?敵は君たちだ、反逆者ども。アイユイユ、フェリシィラ、このパーティーは魔王を討伐する気なんてない。俺たちを魔王領で殺そうとしてる」
クリファイドの言葉に、アイユイユとフェリシィラは目を合わせる。
2人ともシヴァージ王国の宮廷魔導師だ。私情で私たちにつくことはできないだろう。
「デタラメを言うな!俺らがお前たちを殺すなんて、そんな事するわけないだろ?!」
リアトは声を荒らげる。
「じゃあリアト、君がエラファ稠林で魔法を使ったのはなんでか説明できんのか?俺たちを殺すために毒霧を撒いたんだろうが」
クリファイドの無感情な面持ちに諦めを抱かざるを得ない。彼は最初から敵だったのだ。
「違う!それは……別の作戦があったんだ。ほら!俺らは魔族を倒した。ただ今は別の事情で様子を見てるだけだ。分かってくれクリファイド!」
リアトは杖で指揮者シェフドルの死体を指す。クリファイドは眼を向けたが、闘争心の宿る瞳が変わることはなかった。
「言い訳はいらない。アイユイユ、フェリシィラ、いいな?このパーティーは抹殺する」
クリファイドは大剣をリアトに向けて敵愾心を強めた。
指揮者シェフドルの魔法で操られた時と類似した光景だが、指揮者シェフドルは既に亡くなっている。生命体を操れる高度な精神魔法を扱える魔道士はそうそう居ない。
つまり、彼は自発的に行動している。
「それは陛下のご命令ですか。それとも宮廷賢者の命令ですか。どちらでもないのなら、わたくしは従いかねます」
フェリシィラは橙色のハーフアップした髪を、毅然と払った。
「フェリシィラ嬢の言う通りですよ、クリファイド卿。イヴィアナ嬢たちが反逆者だなんて……いったいどういう冗談です?」
アイユイユは律儀に色付きサングラスを外して、眉を下げる。
2人が私たちの味方になってくれるのは嬉しいことだが、その説得の意味は全くないだろう。
彼がニルトア湖畔に来ている時点で敵という位置は揺らがない。クリファイドは伝説のパーティーの仲間だ。
──いつから?いつから私たちを騙していた?
シヴァージ王国が伝説のパーティーと協力している可能性は──いや、ない。フェリシィラとアイユイユはクリファイドの行動に疑義を呈している。宮廷賢者のキャメリチスは分からないが、マリオネはないと断言できる。
マルシュとクリファイドが手を組んでいるだけ──その可能性が1番高い。
「魔王領ってのは便利だからな。殉教を理由に自由に殺せる。宮廷魔導師2人が減るのは王国としては痛手だがな……!」
先刻までいた場所にクリファイドは居なくなった。瞬間移動さながらの速度で行動していた彼は、次の瞬間には、アイユイユの目の前で大剣を振りかざしていた。
それに反応したグレアムが大剣をせきとめる。
「数年の絆は帳消しですか!クリファイド卿……」
クリファイドはグレアムの斧剣を掻い潜ってアイユイユを倒そうと尽力する。しかし、グレアムは彼の大剣の攻撃を防ぎきった。
『催眠術視』
アイユイユはサングラスを外して魔法を唱える──が、クリファイドが催眠に掛かる様子はなかった。
「俺に魔法が効かないことくらい分かってんだろ」
クリファイドはグレアムと対峙していながら、余裕そうにアイユイユを煽った。
──魔法が効かない?
『火炎放射』
私の魔法も無効なのか、と疑問に思い魔法を雑に放つ。
クリファイドは避ける様子はなく、私の魔法が命中した後は無傷だった。
どういう体質だ?これも魔法なのだろうか。前回、エラファ稠林でネベルブリーヤの毒霧に突入していたのも魔法が効かないからだったのか。
フェリシィラが手をひとたび叩くと、アイユイユは私に向かって吹き飛ばされた。
長駆の成人男性を、魔道士という貧弱種族に受け止められるはずもなく、アイユイユの下敷きにされた。
私はフェリシィラを睨めつけるが、「すいません。アイユイユさんが戦いの邪魔かと思いまして」と冷酷に言うだけだった。
前線では一隙を狙ったエリィが大太刀で斬りかかる。だが、クリファイドはまるで背中にも目があるかの如く見向きもせずに攻撃を防いだ。
「グレアム、俺も戦う」
エリィが敢然と言う。
魔法が効かないのなら、物理で戦うしかない。
戦士──いや、私たちの騎士に──グレアムとエリィに任せるしかない。
「グレイ、エリィ死なないでよ!」
アイユイユを押しのけながら叫んだ。
前回、エラファ稠林でネベルブリーヤを蹂躙するクリファイドの手腕は凄まじかった。2人の実力は信用しているが、心底クリファイドという強敵に立ち向かうことを心配していた。
グレアムは「任せてイヴィ」と温和に笑い、エリィは単調に「うん」とだけ言う。
「一度名誉騎士とは闘ってみたかったんだ……」クリファイドは陰険に笑う。「更に狂王ラフアンと契約した戦士まで居るのは楽しくなりそうだな?戦士同士の戦いだ」
「僕たちは戦士じゃないさ」と、また面倒なグレアムが威勢よく言う。「名誉騎士グレアムと暗黒騎士のエリィだよ」
「あ?あぁ……」
グレアムの騎士に対する拘りは、敵すら困惑する意地だ。
エリィの紫色の髪とグレアムの栗色の髪が勇敢に靡いた。2人の騎士の背中がいつも以上に逞しく見える。
「エリィ」と、グレアムが得意気に呼ぶ。
「なに?」
「その鞘、僕が有り金はたいて買ったものなんだから、なくさないでよ」
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