48.魔族殺しの実力
エリィがグレアムとの戦闘に疲弊する前に、この指揮者シェフドルを殺さなくては──
「アイユイユ、実体はどこにいるの?」
「灯台もと暗しですね。今は皆さんの真後ろにいますよ」
『火炎放射』
私は勢いで魔法を放つが、当たり前に手応えはない。やはり普通に攻撃するのは不可能だ。アイユイユを使うしかない。
「アイユイユ、見えるならあんたが殺して。私とリアトがどうにかする」
「英断ですね……殺害の件は分かりました。お任せ下さい」
アイユイユは色つきサングラスをくいと上げた。
「イヴィアナさん!大丈夫ですか?!なにが──」
シェリロルとフェリシィラが遅ばせながら到着する。本来なら人員がいた方が戦闘には有利だが、シェフドル相手は違う。
シェフドルを一瞥すると、興味深そうに顎をさすっていた。
「シェル、来ないで!フェリシィラ、今すぐシェルを連れて離れて。わかった?!」
フェリシィラは焦る様子もなく「分かりました」と言い、シェリロルを連れて風に乗った。
「おや、残念だね?せっかくの傀儡が……」
悄然としたフリをしてシェフドルが言う。
「そういえばアイユイユ。さっきの魔法をもう1回使えばグレイは元通りなんじゃないの?」
「いやぁ……」と言ってアイユイユは銀髪のポニーテールを弄る。「あれも"死線"と同じで発動条件が厳しいもので……」
「え?じゃああの時"死線"使えばよなったんじゃないの?」
「それは……指揮者シェフドルと話したくってぇ……」
下らなすぎる理由に二の句が継げなかった。「信じらんない……」とひとりごちたを残してアイユイユを睨んだ。
「次は使ってよ?」
「それはもちろん!」
精神魔法と対峙するのは困難を極めるが、力で捻じ伏せられるよりはいい。精神魔法の欠点は一般的な攻撃魔法を使えないことだろう。
「アイユイユ、お前の力貸してくれ!」
リアトはアイユイユに魔法の杖を向けて叫ぶ。アイユイユは一瞬、手を挙げて怯んでいたが「はい!」と返事していた。
『相手に合わせる』
私たちは指揮者シェフドルの実体を一生をかけても認識することが出来ないだろう。結局、私たちは虚空を攻撃するに他ない。でも認識できないだけで実体はここに居る。確かに生命体として存在している。
なら簡単すぎる話だ。私たちには万能魔法がいる。リアトの"相手に合わせる"なら、アイユイユの感覚に合わせて視界を共有することくらい簡単な話だ。
「イヴィアナ、俺を撃て!」と、リアトは叫んだ。
私とリアトの思考回路は一緒だった。
『火炎放射』
幻影のシェフドルと実体のシェフドルは、同じ表情で同じ動作を取る。私たちが見向きもしない幻影のシェフドルは、仲間を撃つ私を訝しんで見ていただろう。
傲然と鑑賞しているお前が愚鈍なだけだ。残念だが、思考する猶予すら与えない。
『入れ替われ』
リアトは誰もいない虚空に杖を向けて詠唱した。するとリアトは件の場所に飛ばされ、私の攻撃魔法が向かう先はただの虚空だった。その虚空でいいんだ。
手応えがあった。私の"火炎放射"は確かに命中した。
そして、攻撃を受けて立て直したシェフドルはこの戦闘の諧謔性から私を見て嘲笑うだろう。魔族は人族を嘲笑い、人族は魔族を軽蔑するものだ。
でも魔族の視線の先にいるのは私ではない。
「面白くて腹が立つ戦い方だ、帝国魔道──」
そこには色つきサングラスを外して構える、魔族の天敵がいる。
『死線』
「な、なぜっ……貴方は後ろの方で……?」
漆黒と群青のオッドアイは酷く狼狽して蠢いていた。彼は恐怖のあまり、後退りして紳士然としたシルクハットを落とす。
「俺は自分含めなくても"入れ替えられる"からな」
リアトはアイユイユの視覚でシェフドルを捉え、"入れ替われ"で自身とシェフドルの位置を入れ替えた。そしてその後、私とアイユイユの位置を入れ替えたのだ。
アイユイユの魔法で、指揮者シェフドルは恐れ戦きながらもアイユイユから目を離せずにいた。まるでアイユイユが生命体の求める至高の純美さながらに一心不乱に見ている。
そしてシェフドルの瞳からは血涙が流れ始めた。"死線"が効いている証だ。
最後には魔族の持つ2つの心臓から無数の棘が出現すると、指揮棒を握ったまま倒れた。魔物ならばまだ許容できた残酷な死に方だが、人型の魔族は正視できない。
ひとまず指揮者シェフドルを仕留められて良かった。
──エリィが無事だといいけど……
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