43.真実の共有
翌朝──といっても昼前にパーティメンバー5人が私たちの3人部屋に集結した。シェリロルの寝坊のせいで開始が遅れてしまったのだ。
まずは昨夜の出来事について仔細に語った。次に伝説のパーティーについて、マルシュから聞いたことを伝え、彼らが魔族と繋がりを持ち、何かを謀略していることを説明した。私の憧れを侮辱するような言い回ししか出来ないことが不甲斐ない。私は、自分のツインテールで顔を隠しながら話した。
仲間たちは信じ難い話に驚愕の声を絶えず上げていた。
「私のこと信用出来ないかもしれないけど……」
恐る恐る目線を上げる。全員中空を見つめて頭を整理しているようだった。
「帝国の夜間警備隊のハルヴィン……か」とグレアムは独り言を続け、「許せないな……」と翡翠の瞳を暗くした。
「ひとまず、イヴィアナさんがご無事でよかったです……」
眉を下げたシェリロルは胸を押さえて息を吐く。
「俺もマルシュの口からウルリクアクアのことは聞いてるから、災禍の四柱とマルシュの繋がりがあるのは分かってる……でもアイユイユとマリオネを襲撃させた黒幕がマルシュたちの伝説のパーティーって話にはならないだろ?」
リアトは苦虫を噛み潰したような顔をして言った。初恋が奸雄だなんて、リアトはひたむきでいい男なのにただ運が悪い。
そんなリアトを誑かし、平然と虚言を弄して殺しを厭わないマルシュは地獄に落ちるべきだ。
リアトはセンター分けをした黒髪をぐちゃぐちゃにして溜息を吐いた。見ていて苦しい。
「マリオネとアイユイユの魔法は同僚の宮廷魔導師や2人と親しい私たちくらいしか知らない。そこで偶然対峙した魔族が盲目だなんてことあると思うの?2人の魔法を漏洩したのは、災禍の四柱と交友関係にあるマルシュしかありえない」
私は触覚を耳にかけて、手慰みをしながら続けた。
「それにあの任務、本来ならアイユイユとマルシュの2人で行く予定で、急遽マリオネが赴くことになったんだよ。こんな怪しいのになんとも思わない?」
マリオネとアイユイユが故人になった前回のやり直しで、フェリシィラ、リアトと3人で事件現場に調査しに行ったことは記憶に新しい。あの時フェリシィラはマルシュが本来行くはずだった任務を、急遽マリオネに赴かせたと言っていた。あの女は──マルシュは意図的にメリペール遺跡への任務を避けていたのだろう。
この過程を見ると、マルシュらは王都ラヴィンタを守護するマリオネも殺害しようとしていたに違いない。彼女らの目的は分からないが、アイユイユとマリオネを殺害するとなると、シヴァージ王国を滅ぼそうとしていたのだろう。
「マリオネの防衛網の存在を知ってればアイユイユと一緒で、真っ先に殺したいはず。私たちですら知らなかった防衛網も宮廷魔導師同士なら知ってると思うけど」
私だってリアトが消沈するような言葉を発したくない。でも、リアトの目を覚まさせるためにも冷淡に言わなければならない。
彼の黒い瞳は辛そうに震えていた。私は誠意を見せるために真っ直ぐに彼を見つめる。
「いや……そうだな……わかっ……た……」
リアトは酷く俯いて頭を抱えた。だから他の奴らよりマルシュの罪が重いんだ。リアトをこんな気持ちにさせて、あの女は悠々としているのが許せない。
「イヴィアナのことは信じてる。ただ有り得ないことを言われて戸惑ってただけだ……ごめん」
リアトは沈鬱な顔を上げた。眉を下げ、悲哀に満ちた表情は私まで心が苦しくなる。
「大丈夫だよリアト」
私はリアトのさらさらな黒髪を手ぐしてから、頭を撫でた。それから首に手をかけ、"慈愛"のある抱擁した。
「ありがとうイヴィアナ、もう大丈夫だよ」
指先を解いて離れると、リアトの瞳は透き通っていた。彼は微笑を浮かべる。その背後から、シェリロルがひょこりと顔を覗かせていた。
「私も抱きしめること、できますよ!」
「やりたいだけだろシェリロルは」
胡座をかいたまま、エリィが吐き捨てる。
「大丈夫だって!」
リアトは笑って、広げたままのシェリロルの手を優しく叩いた。
「で、なにすんの?作戦会議って言ってたけど」
無感情でにべもないエリィは頬杖をつく。紫色の前髪が目にかかって邪魔そうに見えた。
「私、イヴィアナさんのことならずっと信じてますし、なんでも命令してください!」
続いて素直なシェリロルが純真な瞳で私を見つめて言った。
「伝説のパーティーの目的がいまいち分からないけど……多分、王都を出たら私を殺しにくる。あまりにも踏み込みすぎた。あの人たちにとって私は邪魔だろうね」
「イヴィアナでも勝てない相手ってなんだよ……」
リアトは独りごちたを零す。彼は私とグレアムに全幅の信頼を置いているが、どんな優れた魔道士や戦士も相性の善し悪しや不意打ちで命を落とすことがある。加えて、マルシュやホワステルは私より遥かに練達した魔道士だ。
(勝てないとは思わないし、言ってないけど)
「提案はある。マルシュたちは魔王領で私たちと行動を共にしない。だから、本来の道のりから外れれば、私たちを探しにくくなるはず……どう思う?」
「本来の道のりがなにか分からないけど、魔力でバレたりしないのか?」
顎に手を当て、伏し目がちにリアトが言う。真剣に考えるリアトを見ているのが幸せで、つい凝視してしまった。
「そこは大丈夫なのリアト。魔王領はこっちと違って魔物も魔族も多いから、そこらじゅうで魔力が蠢いてる。木を隠すなら森の中ってこと。その中から見つけられるのはマリオネくらいでしょ」
特に"魔王城の番人ネベルブリーヤ"の支配下にあるエラファ稠林では、彼女の霧魔法で稠林全体に魔力が蔓延している。
「最初に魔王城の番人ネベルブリーヤを倒しに行くはずだけど、後回しにして暫くニルトア湖畔に身を隠そうと思って」
さらにエラファ稠林から少し離れた地点に、ニルトア湖畔がある。ここは魔力が不安定で、エラファ稠林と同じように湖畔一帯から魔力を感じる。身を隠すにはもってこいの場所だ。
「ふむ」とグレアムが頷く。「ネベルブーリヤの魔法で魔力探知も不安定になるし、ニルトア湖畔に潜むのも得策かもね。でも、クリファイドにはなんて説明するんだい?」
「それはねグレイ。"説明しない"んだよ」
「え?」と言うグレアムの唇に人差し指を当てた。
作戦会議を終え、エリィとグレアムは再び鞘探しの旅に出た。もう鞘見つからないのではないか。そう思っていた矢先、エリィは胸を躍らせて帰ってきた。西にある闇市で大太刀の鞘が売られていたそうだ。相当割高だったらしく、グレアムはぶつぶつと嘆いていた。その一方で、エリィは大太刀を大切そうに抱き抱えていた。
何はともあれ、魔王討伐に赴く前に見つかってよかった。もう鞘は無くさないで欲しいところだ。




