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41.帝国の夜間警備隊


 血さながらの朱殷(しゅあん)色軍服が特徴的な帝国の夜間警備隊──残酷非道な手法を使い胡乱(うろん)な者を消す職務を担っている、皇帝公認の暗殺組織と言われている。もちろん本職の夜間警備もしている。


 その前に、シヴァージ王国において帝国の人間は宮廷に招待されない限り忌避(きひ)される存在だ。どうやって入国した?


「こっちのセリフだ、答えによっちゃ殺すぞ」


 マリオネの魔道具をつけているせいで魔法を瞬時に発動できない。それなのに、銃口が額に押し付けられていて絶体絶命だ。私は世界に(とどろ)く帝国魔道士だが、頭を撃ち抜かれたら普通に死んでしまう。


 それにこの夜間警備隊、魔力の気配が全くしない。私が彼の接近に気が付けなかった要因だろう。グレアムのような魔力欠如か。

 固唾(かたず)を飲んだ。何か少しの隙ができればこの魔道具を外して対抗できる。どうすれば……


「なんの用で盗み聞きしてんだ」

「それは……」

「てめぇが魔道具で魔力を抑制してるせいで魔法が使えねぇのは知ってる。無駄に時間稼ごうとしてんなら、もう撃つぞ」


火炎放射(フランメルン)


 右手で彼の持つ拳銃に触れ、魔法を発した。マリオネの魔道具は魔力を抑制するものだ。魔力を"ゼロ"にするものではない。"火炎放射(フランメルン)"の威力は激減するが、拳銃を溶かす火炎を出すくらい造作もない。


「別に、魔法を使えないわけじゃないけど」


 毅然(きぜん)と振る舞い、腕につけていたマリオネの魔道具を外して杖を構えた。もう全力で"火炎放射(フランメルン)"を出せる。


「やっぱり格がちげぇな!帝国魔道士イヴィアナ・フレイン!」


 くすんだ黄緑色の髪の夜間警備隊は、愉快そうに哄笑(こうしょう)する。夜間警備隊は物騒な人が多いと聞いていた。噂どおりだなと辟易(へきえき)しながら魔法を繰り出そうとした時、腹部から燃え上がるような痛みを感じた。


 左手で腹部に触れると、指に液体が付着した。それが血液であり、銃創だと頭で理解してしまえば痛みが全身に渡る。いつの間に撃たれた?──立つこともままならず座り込んだ。


「バカだなぁ……帝国の貴族は」


 銃声が全くしなかったのは夜間警備隊専用の魔道具のせいだ。この帝国製消音銃器は発砲音を極限まで抑えられているので、静謐(せいひつ)なる深夜でも構わず発砲できる代物だ。帝国の優秀な鍛冶屋が魔力を使用して製造する高価な銃器で、威力も馬鹿にならない。


「私のことを……殺してもいいの?」


 痛みで上手く話せない。意識を保つのに精一杯だ。


「はぁ?」と言って軍帽を上げ、私を覗き込んだ。紫に水色が混じった深海を彷彿とさせる不気味な瞳が街灯に照らされた。この瞳には既視感がある。どこで見たんだ。


「てめぇ、俺たちの"計画"知ってんのか?」


 俺たちの計画?──こいつ、まさか伝説のパーティーの銃使いか?オリミユって顔はしていないから、ハルだろうか。


 眉をひそめて返答に逡巡(しゅんじゅん)していると、彼は私の腹部を足で押し込んだ。激痛が走り、自分の苦悶の声が小さく響く。


「その様子だと一部は知ってんな?なんでこいつが知ってんだよ」


 頬を彼の大きな手で掴まれた。もし彼が本当に伝説のパーティーの銃使いなら、私はさらに幻滅してしまう。


「おい、フレインの令嬢」

「そうやって呼ばないで」


 私はもう、ただの魔道士イヴィアナだ。帝国魔道士は魔道士としての実力を示す身分であって誇りに思っているが、帝国の貴族という称号は大嫌いだ。


「あぁ、その気持ち痛いほどわかるぜ。てめぇも帝国が嫌いでよかった。せっかくの同士を殺すのは勿体ねぇな」と、帝国の銃器で頬を思い切り殴られた。「俺らを疑ってんのはいい線いってるけど、踏み込みすぎだ」


 "気持ちが痛いほどわかる"?──こいつ夜間警備隊に留まらず、帝国の貴族なのか?でも、貴族が単なる夜間警備隊になる例はほとんど聞かない。何者なんだ。


「あんた……は……」


 次の言葉が上手く発せなかった。頬を殴られたせいで、口の中も痛む。


「俺はハイル──……帝国の夜間警備隊ハルヴィンだ。じゃあな、偉大なる帝国魔道士さま」


 "ハルヴィン"──ハルだ。伝説のパーティーの銃使いの戦士、ハルヴィンが帝国の夜間警備隊で、魔力欠如者──なんて奇怪な境遇だ。


 戦士と戦うのは嫌いだ。私の速度でも優秀な戦士には対抗できない。今から"火炎放射(フランメルン)"を出しても、私の額が撃ち抜かれたあとの残滓(ざんし)にしかならない。


 でも次に繋げる情報は手に入った。今の情報量で次に移行出来れば間違いなく円滑に進められる。ただ私は円滑に進むどうこうよりも、マルシュ(あの女)をどうしても殺したい。今私を殺そうとしているこいつじゃない。


 どうせ、この騒ぎであの2人も私の存在に気がついているし、最期に暴れさせてもらおう。"私は1人の方が強い"。ラヴィンタの一部が少し崩壊するくらい別にいいだろう。私の魔法の残滓(ざんし)はあいつに使う。


「ちっ」という、ハルヴィンの舌打ちで独白(どくはく)から抜け出せた。まだ引き金は引かれていない。引き金と同時に特大魔法を発動しようと思ったが、何をしているんだ?


「相変わらず気色悪ぃ地だな。ここは」


 ハルヴィンは闇夜の空を仰いだ。私も追随(ついずい)して仰ぐと、宮廷魔導師のマリオネが空中で雅に足を組んで座っていた。


「そりゃ、王都全体がオレの"蜘蛛の巣(トワネーニャ)"の巣窟だからな。オレの庭を荒らすなよ」

「わぁったよ。ここでは何もしねぇさ」


 ハルヴィンは拳銃から手を離すが、拳銃は不動のまま浮いていた。マリオネの糸が拳銃を静止させ、私を守ってくれたという事だ。


 ハルヴィンが降参の意を示し、手を上げると拳銃が勝手に動いて彼の懐に入り込んだ。彼は深海の瞳で私を睨み、嘲笑して立ち去った。


 王都全体を糸魔法で守護するマリオネと、一瞥(いちべつ)で魔族を瞬殺するアイユイユ。2人を真っ先に抹殺させようと企む理由も頷ける。逆にマリオネがいない王都の防衛網は一気に脆弱(ぜいじゃく)化するということだ。前回のシヴァージ王国は想像以上に深刻な状況にあったのか。


「助かったマリオネ……」

「何やってんだよ、イヴィアナ」


 安堵の溜息が漏れる。マリオネは空中からゆっくり近づき、薄目で私を見た。


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