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35.無詠唱の宮廷魔導師①


 エリィの治療まで私たちは休憩をとった。グレアムとマリオネは久々の談笑に花を咲かせていた。しゃがみこんで、2人して笑顔を絶やさず話している。

 今回はマリオネが生存しているおかげで、グレアムが気を沈ませる事がなくて良かった。


 アイユイユとマリオネには助けたお礼に、シヴァージ王国王都への入国を頼んだ。もちろん、快く承諾してくれた。


「完治はしてませんから、あまり動かさないようにしてくださいね」


 シェリロルは見るからに疲労していた。精霊を召喚するために莫大な魔力を要するのに、その力を操るとなると魔力と体力の消耗は想像を絶するだろう。


「ありがとう」


 エリィの手首と切断されたはずの左手は確かに繋がっていた。あれほどの重症を1時間で治療することが出来る憩泉の精霊(ユーチー)とシェリロルは、頭ひとつ抜けた治癒能力である。


 シェリロルの休息が十分に済んだ後、シヴァージ王国へ出発する旨の声掛けをしようとした。したのだが──ある物がないことに気がついた。


「ねえエリィ……」と、私は引き攣った顔でエリィを睨んだ。エリィは無感情に「ん」と返す。


「あんた、"鞘"どこやった?」


「あ」


 エリィは乱雑に放り投げられた大太刀を急いで拾いに行った。


「ちょ、え?あの時まで持ってたじゃん!」


 頭を人差し指で叩き、リアトは必死に過去を追憶して鞘を探す。グレアムは肩を竦め、シェリロルは口に手を当て笑っていた。


 エリィは愛刀を無言で見つめている。考えているのかいないのか分かりづらい。


「あぁ、思い出した。かなり前意気込んで捨てた」


「「捨てんな!!」」


 私とリアトの叱責が重なった。エリィの釈明によると、グレアムと私を早く助けたい一心で調子に乗り、早々に鞘を外してしまったそうだ。


「アイユイユ、マリオネやっぱ謝礼にお金ちょうだい……」


 両人差し指を合わせて、気まずさを隠せないまま言った。


 まだ夜の帳が明けない時間。私たち勇者パーティーと2人の宮廷魔導師は馬車に乗ってシヴァージ王国に向かっていた。


 メリペール遺跡の森を抜けると、馬車の御者は律儀に待機していた。前回の御者はアイユイユとマリオネの帰還がなく焦ったことだろう、と意味もなく考えた。


「言われずとも陛下は貴方がたに謝礼金を下賜(かし)されると思いますが、ワタクシの手持ちからも贈与いたしますよ!」


 この真心がない笑みを作るアイユイユには嫌な予感しかしない。


 案の定、私とグレアムは無視し、マリオネはアイユイユの話を聞こうともせずに、真っ暗な外を眺めている。そういえばマリオネは一応アイユイユに苦手意識を持っているんだった。此度(こたび)の任務は地獄だったろうに。


「え、マジか?いいのか、アイユイユ!」


 (あぁ、リアトが食いついてしまった)


「貴方がたがいなければワタクシは死んでましね。本当に助かりました」

「それはどういたしまして!俺達もあんな凶悪な魔族倒せて万々歳だよ」

「そこでお願いなんですが……」

「え?」


 謝礼金を貰う側だというのに、頼み事を聞かなければならないのか?──いけない。反応したらアイユイユの思う壷だ。


「お願い……?」とリアトは困惑して私たちを見遣るが、私とグレアムは知らぬ存ぜぬの顔で、エリィとシェリロルは首を傾げていた。


「ええ!イヴィアナ嬢にたってのお願いなんですが、よかったら2人でおでかけ!しませんか?」


 リアトが唖然と、アイユイユが不敵な笑みで私を凝視する。結局話に巻き込まれた。


「嫌。そんなにお金に困ってない」

「これまた淡白な~!エリィ卿の鞘のためにお金が必要って言ってたじゃないですか〜。そういえば、前に1度2人で遊びましたよね!」


「え?!そうなの?イヴィ」


 ずっと無視を決め込んでいたグレアムが、口をあんぐりと開けて参戦した。


「覚えてない」

「またまた!熱い夜を過ごしたじゃないですか~!」

「普通に散歩しただけでしょ」


「ふうん」とグレアムが私を睨む。確かに帝国の社交パーティーでアイユイユと2人きりで談笑することはよくあるし、静謐(せいひつ)な庭園で散歩することもあった。


 一方、グレアムはだいたいマリオネや他の帝国騎士との交流で忙しない。私はああいう集いが苦手だから抜け出すのだが、アイユイユもそれに着いてくるのだ。


「アイユイユと遊ぶんなら僕と遊ぶだろう?イヴィは」


 グレアムが私の腕を引っ張って寄せる。前回、シヴァージ王国でエリィと武器・鍛冶屋巡りに明け暮れていた癖によく言う。私は「そうだね」と単調に肯定しといた。


「アイユイユ、流石にイヴィアナは無理だよ。グレアムに勝てるの?」


 リアトが不貞腐れるアイユイユに耳打ちしているが、位置的に私には丸聞こえだった。


「勝てるかどうかじゃなくて勝つんですよ、リアトさん」


 また面倒に士気が上がってしまった。アイユイユのことは嫌いじゃないが、長時間話したいとは思わない。疲れるのだ。


 王都ラヴィンタの裏城門に到着した。前回も会った謹厳実直な門番兵士が、宮廷魔導師2人に対して敬礼する。


 私とグレアムのことを睥睨(へいげい)していたが、宮廷魔導師の許可が降りたのなら文句は言えないのだろう。順序通りに身分確認を済ませ、城門が開かれる。


 さあ、マルシュ(あの女)はどうしているか。会いたくて仕方がない。この手で必ずあの女を殺してやるんだから。

 動悸が高まる。体温が上昇する。思わず奸賊らしい笑みを作っていた。


 マルシユラフト──そもそも、お前は本当にそんな名前なのだろうか。災禍の四柱ディアルキャルが仲間である限り、お前も魔族に違いない。黒魔法を使うくせして人族に扮した気持ちの悪い魔族め。


「王都に入ることは禁じます」


 城門を潜ろうとした刹那、背後の上空から冷徹な声がした。前回も聞いた背筋を凍らせる単調な声の主は、宮廷魔導師のフェリシィラだ。


 顧みると、冷酷な視線で私たちを()めつける厳然たるフェリシィラがくすんだ橙髪のハーフアップをなびかせて飛んでいた。


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