32.八斬りのシュラクぺ③
『自分が思う最強の攻撃』
リアトが杖を向けてもなお、シュラクペは悠々と飛んでいたが、魔法の詠唱が他でもない自分の目前で聞こえて酷く狼狽えた事だろう。
魔法が発動され、空中では物凄い衝撃波が起こった。
「まさかこんな魔法が使える時が来るとはな……どんな魔法でも学んでおくのは大切みたいだな」
確かに最強の攻撃を顕現させる魔法は直接触れなければならない点が欠点だと言っていた。
「リアト!」と、パーティーの誰もが声を上げる。シェリロルだけ"さん"付けだったかもしれない。
リアトは呼びかけに応じて気さくに笑って手を振った。
「まだ倒せてないよな。俺が思う最強の攻撃じゃ弱かったか」
リアトの魔法の衝撃で周囲の木々が倒壊し、砂埃が舞っていた。
砂埃の中に膝を着く影があった。もう夜空に翼人魔族は浮かんでいない。
「面白いのう。まさか儂の耳朶まで欺くとは……」
シュラクペは珍しく声に感情を乗せる。砂埃が晴れた時に見えた彼は満身創痍で、鋭い牙を見せて嗤っていた。戦闘中に地上に叩き下ろされ、膝をついたのは何百年ぶりだろうか。
「目が見えなくて残念だったな」
「いいや、儂はこんな刻でさえこの盲目を妬んだりしない。これは"魔王様"が儂に賜った勲章じゃからな」
『重力操作』
傷ついた両翼で再び空に舞おうとしたその時、リアトの魔法で地面に叩きつけられた。ちょうど空で悠々と浮遊するシュラクペを突き落としたかったところだ。
「人様と同様に地上で戦え、卑怯者」
「地上で戦ったとしても、そちらに勝ち目はないぞ」
シュラクぺは体躯と同等の大きさをした大剣を瞬間にこちらに振った。斬撃が来る。
「伏せて!みんな!」そう叫んでもリアトだけは果敢に杖を構えていた。
「リアトも伏せて!早く!」と執拗に声掛けするが、リアトが不動のままだ。炎魔法で出力を上げて杖に乗り、強引に伏せさせた。 巨大な斬撃が木々を真っ二つにする。
「リアト、カウンター魔法は使っちゃダメだからね」
「え、なんで?」
やはりカウンター魔法を使おうとしていたようだ。前回、リアトとシュラクペの魔力量対決ではリアトが負けていた。意味のわからない奇跡が起きない限り、今回も勝てるはずがないのだ。
「カウンター魔法は魔力の力量対決なんでしょ?シュラクペに勝てると思うの?」
「シュラ……あ、あの魔族か……」
何百年も生きている魔族と、少し前にこの世界に降り立った異邦人に魔力の格差があっても仕方ない。
リアトは目を眇めて「あ〜すまん」と言った。極限状態の危険を顧みない行動だと自覚したようだ。
「宮廷魔導師2人、帝国魔道士と名誉騎士、暗黒騎士に精霊使い、そして奇異な魔道士……実に興有る……」
不敵に笑い、再び高慢に大剣を振りかざそうとするが動きが止まった。何かにせきとめられているかのように見える。
「そういえばこんな絡繰があったのう」
「空中には張ってなかったけど、地上はオレの"蜘蛛の巣"で上手く動けないっしょ。今糸を強化したから、お前はもう終わり」
マリオネは魔族を蔑視して言い放った。
未だに付近に数多の糸が張り巡らされていることに気がつけなかった。虚空に触れてみても触感すらしない。繊細な糸はマリオネの糸魔法の特徴だ。
「じゃが、どれほど硬くとも糸は切れるものじゃよ」
拘束されている中、シュラクペは手から斬撃を繰り出して縛りを解いた。
まだこの傲慢な魔族は気がついていない。この一瞬の隙にどのような価値があるか。彼がそれに気づく頃には既に右手が切断され、大剣と腕が地面に落ちた。グレアムが切り落としたのだ。
戦場でのマリオネとグレアムは正直、私以上の相性の良さがある。これは、偵察に富むマリオネが最前線で魔王軍と戦っていた理由でもある。
「ほう、これは億劫じゃ……」
グレアムに続いてエリィも攻撃をしかけ、私もそれに便乗して"火炎放射"を多発した。
魔族の中でも肉体再生能力を持った化け物がいると聞いていたが、翼人魔族にその力はないらしく、残る左手で大剣を拾い対抗していた。
やはり魔族は生命力が凄まじい。リアトの魔法からエリィとグレアムの攻撃を受け、深手を負っているはずだというのに、活き活きと戦っている。
『木端微塵』
依然と前触れのないシュラクペによる範囲攻撃で腸が切れた。軽傷の切創とは訳が違い、出血量が多い。立つのもままならず、座り込んだ。
「イヴィ!」
私が崩れ落ちると、グレアムに加え、エリィも私の身を案じ、シュラクペから目を離してしまった。
『瞬速斬』
シュラクペの詠唱後、目にも止まらぬ速さで斬撃が通り過ぎた。視線で追うことも適わず、魔力隠密のせいでどこに斬撃が飛んだか不確定だった。
この乱舞のごとき戦闘中において、静寂が訪れる。私の吐息だけが聞こえた。
「グレイ、エリィ……無事?」
傷を抑え、木にしなだれかかりながら何とか発した。2人とも私のことを憂慮しながら肯定の言葉を言った。リアトもシェリロルも無事そうだ。よかった──とりあえず安心だ。
ひたと、マリオネが仰向けに倒れた。ドサッという音に、全員が引き付けられて顔を向ける。
マリオネは呻吟を漏らしながらも、立ち上がる余裕がなさそうに倒れたままだった。出血が地面に広がっていく。
「マリオネ……」
絶望の声が私から聞こえた。似た光景を何度も大切な仲間で見てきたためか、鳥肌が止まらなかった。
まずい!──マリオネが居なければシュラクペは自由に体を動かせる。それに、この混沌とした状況にリアトは狼狽している。彼を地上に縛り付けられる2人が機能していない。
まさか、逃亡を謀ってマリオネを狙ったのか?
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