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30.八斬りのシュラクぺ①


火炎放射フランメルン


 いつもの魔法で幾度も相手を牽制(けんせい)する。そして、別の角度からグレアムが攻撃するが、魔族に致命傷を与えることは出来なかった。

 

 魔族が翼で飛んでいるのもあり空中戦が繰り広げられている。そのせいでグレアムは攻撃の都度跳躍(ちょうやく)しなければならず、一撃ずつしか与えられない。


 その積み重ねの一撃でさえ、魔族を怯ませるほどの傷にならなかった。ついには、グレアムとシュラクぺの刃がぶつかり合う金属音が深夜の森林にこだました。


 グレアムの重い一撃が、盲目の魔族が持つ大剣と相対した。遂に盲目の魔族は魔力を微塵も持ち合わせていないグレアムを感じ取ったのだ。だが、魔力でしか敵を感知できない者が、何をどうしたら魔力欠如者の気配を感じ取れるのだろうか。


 いや……それか、この攻撃の法則性に──まだ早合点だ。彼の動向を見て結論を下そう。


「グレイ!」


 魔族の持つ大剣はせきとめられているが、手が空いている片方から斬撃魔法を出し、グレアムを傷つけた。


 浮遊系統の魔法が使えないただの人間のグレアムに、空中戦は厳しいだろう。せめてあの魔族を地面に落とせたら……


「なんなの、あの化け物……」


 翼で夜空に羽ばたく魔族。その姿はさながら天使だが、残念ながら魔族なのだ。

 足元まで伸びた黒く麗しい長髪は、毛先が赤黒いグラデーションになっていた。目元は盲目のためか目隠しをしている。神秘的で不気味な容姿だ。


「おや、ご存知ありませんか?イヴィアナ嬢」

「アイユイユ、知ってるの?」


 リアトの記憶魔法では魔族の名を聞き出せなかったと言っていたが、大地の記憶に残っていなかったということか。


「知らないのですか?それは残念ですねぇ……」

「いいから早く言って、なにか弱点とか知らないの?」


 アイユイユのこういう所が面倒で辟易へきえきするんだ。彼は空咳をして例によって「失礼」と言った。


「彼はですね、かの有名な災禍さいか四柱よはしらディアルキャルの一角、"八斬やつぎりのシュラクペ"」


 アイユイユは陶然と翼人魔族を眺めて言う。


 "シュラクペ"──確かにマルシュが口にしていた名前だ。これで魔王討伐後の襲撃犯がこの魔族だと言うことは証明された。


「でぃある……?きゃる?」


 思わず顔を顰めて、復唱した。生まれてこの方、"災禍の四柱(よはしら)ディアルキャル"を耳にした事はない。


「グレイ、知ってる?」と聞くが、グレアムは首を振る。


 私たちの首を傾げる反応に、アイユイユは「そうですかぁ」と些か俯いた。「まぁ、400年以上前の話ですから史料は滅多に残っていませんし、知らない人は多いんですかね?」


 "災禍の四柱"──そういえば、前回シェリロルが似たようなことを言っていたような気がする。


『もしかすると、昔の大魔族だったりしますか?私見たことあります。かつて最恐の魔王が存在した時の、災禍を起こす()()()()()()がいたと……』


 シェリロルは"災禍の四柱ディアルキャル"を知っていた……?だとしたら、なぜプリゾネイという閉塞的な環境で育った彼女が知っている?文明の進みが遅いが故だろうか。


「八斬りのシュラクペ……」


 無意識に魔力を込めた睥睨(へいげい)を送ってしまった。だって、三度も私たちを殺した宿怨(しゅくえん)だもの。


「史上最恐の魔王直下──伝説の大魔族ですよ……!!」


 アイユイユは高揚した声で叫び、愛おしそうに傷を負った右目を撫でた。本当にこの変人は気色が悪い。


「いずれ魔王を倒す私たちにはなんてことない相手だね」


火炎放射(フランメルン)


 盲目の翼人魔族シュラクペは、斬撃で私の魔法を裂き、微笑を漏らした。


「儂の事を(おぼ)える人が未だいるとは、(おどろ)いた」


 シュラクペの声は厳かで渋く、自然と固唾(かたず)を飲んでしまう迫力があった。


「今の時代の呑気な人族は愚かですよね…貴方のような本当の災禍をまだ知らないんですから…」


 アイユイユは恍惚とした表情を捨て、不敵に笑ってシュラクペを()めつけた。


()い分析力じゃ、人の子よ……それだけに惜しい」


 先程まで魔力を微塵も感じさせなかったシュラクペから、瞬時に甚大な魔力が溢れ出た。誰でもわかる不吉すぎる予感だ。


「アイユイユ!あんた狙われ──」


刎ね落とせ(トラシュナイン)


 シュラクペが大剣を振り下ろすと、巨大な斬撃が大地を刻み、大渓谷を創造した。あまりに素早い攻撃に追いつけなかった。


「アイユイユ!!」

「人のことを心配している場合ではないぞ。炎の女子(おなご)よ」


 強烈な魔力の圧力を目の当たりにし、鳥肌が止まらず萎縮してしまう。そもそもシュラクペは今まで無詠唱で斬撃を放出していた。そんな彼が詠唱して魔法を出すということは、ようやく真価を発揮したのだ。


木端微塵(ミンミヌーレ)


 本当は魔法で正面対決したい気持ちを、自分の恐怖心を信じて押し殺した。安全策をとり、炎魔法で出力して回避する。


「グレアム!」というマリオネの焦燥した声に体を傾けると、グレアムの肩が無惨にも抉られていた。少し前シュラクペが繰り出した巨大な斬撃魔法を受けたようだが、グレアムは別の場所にいたはずだ。どうして巻き添えを食らったのだろうか。


「どうも、ありがとうございます。グレアム卿……」


 アイユイユは唖然と呟いた。アイユイユに命中したと思っていた攻撃だったのだが、彼は無事だ。ということは、グレアムがその敏捷(びんしょう)さでアイユイユを救い出し、自身が傷を負ってしまったのだろう。


「グレイ……無理しないで。少しすればシェルが来るはずだから」


 八斬りのシュラクペは現魔王と肩を並べるほど──いやそれ以上の実力を誇っている。魔王と戦った時よりも勝機を見出せない。


 エリィとシェリロル、そしてリアトが来なければ消耗戦で負けてしまう。いつ来るか魔力を読んでいる暇は無い。こうして思索を巡らせている間にも斬撃はのべつまくなしに大地を裂く。


「この位なら平気だよ、戦える」


 グレアムは斧剣で斬撃を凌ぎながら言った。

 膨大な魔力が凝縮された斬撃は魔力欠如のグレアムだからこそ対抗出来る。彼は戦士──騎士として常日頃から攻撃を受け止め、いなす技術に長けていた。


 そもそも論、魔道士と戦士が対峙した時、圧倒的に有利で勝率が高いのは戦士の方だ。


 真っ向から戦っても勝てない。無力にも地上でシュラクペを睨みながら奸計(かんけい)を巡らせた。


 そして瞬きを一つした時、瞬き前まで居なかった影がシュラクペに急接近していた。


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