29.襲撃返し
「ふざけんな!このサングラスヤロウ!」
「死ぬ気はありませんから……!それに良策でしたでしょう?」
「オマエとは二度と口聞かない」
「それにしても、マリオネ卿の糸ってとても脆いんですね?漠然とですが、鋼よりも固いと思っていたのですが……」
「鋼より固いに決まってるだろ!この斬撃が頭イカれてんだ」
「おや、話しましたね!」と、マリオネの髪の毛をつんつんするアイユイユ。
マリオネは顔を紅潮させたが、戦闘中ということを思い出し、怒りを押さえ込んだ。
「おい、盲目の魔族。オレたちを襲った理由くらい話してくれてもいいんじゃないか?それとも、口も聞けないのか?」
浮遊系統の魔法を使えないマリオネとアイユイユは、惨めに翼人魔族に見下される運命にある。2人は首を痛めながら無駄に傲然と見上げた。
それまで無口に攻撃してきていた盲目の魔族は、億劫そうに嘆息を吐く。
「"魔王"の命令じゃ」
マリオネとアイユイユは目を合わせ、微笑を浮かべる。
「それは変だな……盲目のオマエが運良くアイユイユと対峙することになるなんて奇跡起こるか?」
「魔族は人族に興味がありませんし…もしや、人族の協力者がいますね?それも、シヴァージ王国に──」
口角を上げ推理を披露するアイユイユの言葉を斬撃が断つ。油断していたアイユイユは文弱と言いながら反射神経で躱したが、右目から左目の一部にかけて斬撃が命中してしまっていた。
「サングラスを外しておいてよかった……」
「バカか!アイユイユ……!ちっ、邪魔くさい!」
片目を抑えるアイユイユの手からは血が漏れ出ている。マリオネの救援を遮るように斬撃が邪魔をした。
「マズイ……アイユイユ!とりあえず頑張って避けてろ!」
片目を抑え、足元をふらつかせているアイユイユに避ける手段は無い。今の所はマリオネが張り巡らせている糸で妨害し、アイユイユに降り注ぐ斬撃を回避出来ているが、斬撃はマリオネをも襲う。もって数十秒だろう。
「ちっ、ここで終わりか……」
『火炎放射』
窮した状況に諦念を抱き始めていた頃合に、上空から放たれる肥大な火炎が盲目の魔族を襲撃した。
「あれは……!」
「イヴィアナ嬢!!」
マリオネは驚愕を含んで、アイユイユは血まみれの片目を抑えながら歓喜の声で名を呼ぶ。
2人の視線の先には、炎魔法で浮遊する帝国魔道士イヴィアナがいた。
盲目の魔族はイヴィアナの"火炎放射"を避け、お返しの斬撃を送った。それに対し、イヴィアナはご自慢の飛行技術で躱す。
そして盲目の魔族は謎の危機感を覚え、幾許か体を動かした。その後、彼は背中が斬られ、狼狽を表すことになった。その幾許の移動がなければ片翼が切断されていたのだ。
盲目の魔族は思索を巡らせる。規格外の魔力を持ち、大火力の魔法を放つ魔道士は眼前にいる。攻撃されたのは背後からだ。宮廷魔導師2人の魔力も地上から感じ取れる。他は"何も感じない"。
「グレアム!」
糸魔法使いのマリオネが先程のアイユイユに似た歓喜の声を上げ、顔を明るくした。
*******************
イヴィアナの推測通りだった。
「私が魔力で魔族の気を引くから、グレイは後ろから攻撃して」
「うん、分かったよ」
そして作戦は成就した。一撃で致命傷を与えられなかったのは悔やまれるが、あれも大魔族だろうし仕方ない。
盲目の魔族はグレアムの攻撃を受けた。私の攻撃を避け、マリオネの攻撃も避けていたのに、グレアムの攻撃は避けきれていなかった。
これで盲目の魔族が、魔力で敵を感知していることが証明された。グレアムは魔力が欠如している。盲目の魔族にとってグレアムは存在しないのだ。
ただし、他者からの魔法と勘違いさせる作戦は失敗に終わった。マリオネが嬉々のあまりグレアムの名を口に出してしまったのだ。まぁ、そのくらい瑣末な話だ。
この魔族との戦闘はグレアムをいかに潜ませ、私が目立つかが肝だ。
「アイユイユ、マリオネ、無事そう?」
盲目の魔族が混乱しているうちに地上に降りて安否確認をした。アイユイユは片目を怪我しており、マリオネも満身創痍だ。とりあえずは2人が生きていてよかった。無意識に安堵の溜息が漏れる。
「イヴィアナ、どうしてここに?グレアムまで……」
マリオネの憔悴した顔を見る限り、窮地に追い込まれていたのだろう。彼の藍色の瞳は潤っていた。本当に間に合って良かった。
「たまたま旅の途中通りかかって、アイユイユの魔力を感じたから来てみたの」
「杞憂であって欲しかったけどイヴィの言う通りだね。とりあえず生きていてよかったよ」
「あの時のこと、まだ気にしてんの?グレアム。あんなんで死ぬわけないでしょーが!」
グレアムとマリオネがここで再会できて本当に良かった。魔王軍を牽制するため共闘していた2人を皇帝の詔が引き裂き、撤退せざるを得なかったあの無慈悲な事件ぶりの再会だ。
「イヴィアナ嬢……ワタクシの気持ちを感じ取ってくれたのですね……!」
「あぁ……」尻目でアイユイユを捉えると、期待の眼差しで私を凝視していた。「いやぁ……魔力ね?」
「おや……やっとワタクシの気持ちに気づいてくださったんですかぁ!!イヴィアナ嬢」
アイユイユは右目を抑え、血を垂れ流しながら距離を詰めてきた。滴る血液が抑制する私の手に落ちる。
「こんな馬鹿なことやってる場合じゃないからアイユイユ!今は戦わなきゃ」
杖を盲目の魔族に向ける。グレアムも私も魔王討伐後の疲弊しきった状態じゃない。あの時のように彼の姿が見えない訳でもない。
やっと正々堂々と戦える。私の愛する仲間を何度も殺した怨敵。まずはお前から、絶対に殺す。
お読み頂きありがとうございます。感想やリアクション、評価いただけるととても励みになりますꕤ︎︎




