27.時宜を待つ
エリィの決意が固まった所でシェリロルを叩き起し、先を急いだ。
早朝から魔物を倒しつつ一日中歩いたが、この一日で再度グレアムとエリィが魔族を感知することはなかった。
途上で冒険者が八つ裂きにされている酷薄な現場に遭遇した。まだ血が固まりきっていないことから、死亡してから間もないことが分かる。
「酷いですね……これは憩泉の精霊でもどうにも出来ません……」
シェリロルは躊躇なく死体に触れ、心臓に耳を当てた。そのせいでシェリロルの右頬と耳、綺麗な髪は死体の血液で汚れてしまった。こういう突飛な行動を見ると、シェリロルは本当に妖なのではないかと思う時がある。
周囲には人間の首や四肢が散らばっていた。この殺戮法は見覚えがある。この冒険者たちは"斬撃"によって死亡している。
密かにリアトを一瞥する。"記憶を辿る"を使用して過去を覗いていた。リアトも既に魔王討伐後に襲撃してきた魔族ということに気がついているはずだ。
「黒髪で毛先が血のように赤い長髪の魔族だ。鳥みたいな羽で飛べる」
「知らないね」
「俺も知らない」
リアトが記憶魔法の調査報告をするものの、グレアムもエリィも首を横に振る。私も首を横に振った。
そういえば前回記憶を覗いた時も鳥の羽を持っていると言っていた。上空を移動できて敏捷である理由は翼人魔族のためか。
「大魔族でよく知ってるのは、魔王城の番人ネベルブリーヤと不可知のユーペスくらい」
「僕もだよ」とグレアムが同意する。
「でも魔族ならアイユイユに聞けば何かわかるかも」
「アイユイユって?」リアトが疑義を呈する。エリィは肩を竦めて呆れていた。
アイユイユの立場を概括的に説明し、魔族研究に勤しむ変人だと教えた。
「なら、早くシヴァージ王国の王都に行ってこの魔族の情報をアイユイユから聞く必要があるな」
その冷徹な声はリアトの口から出てるとは思えなかった。リアトも私も時間が巻き戻れば考えることは同じで、あの襲撃の根源となる魔族を先に屠るという考えだ。
今迅速に進んでいるのも、3度目──前のリアトの行動のお陰だ。シヴァージ王国に訪れ、アイユイユとマリオネの襲撃事件を踏査出来たことは、今の私に響いている。
その後、メリペール遺跡を目指して数日間南下するが、魔族の気配は一向に現れなかった。恐らくあの魔族はアイユイユとマリオネを待ち伏せする為に早めに行動している。襲撃まではまだ猶予があるはずだ──そう言い聞かせて自制心を保った。
今だけは運命が変わらずに進んでくれないと困る。
今頃マリオネとアイユイユはメリペール遺跡での任務をこなしているはずだ。ここからメリペール遺跡の影は見える。今から魔法を使って向かえば確実に間に合うが、魔法を使ってまで急く理由が足りないし、2人の場所の特定も出来ない。
マリオネはメリペール遺跡の周辺に糸を張り巡らせているはずだろう。それなのに、微塵も魔力を感じない。マリオネの糸は周囲の仲間の魔力も隠密させる能力があるため、アイユイユの魔力も感知出来なかった。
ただし、マリオネの糸でも魔法発動時の魔力放出を抑えることは出来ない。そこで、作戦のひとつとして、アイユイユの魔法発動を待機する手がある。あの気色悪い特殊な魔力を発してくれれば場所は一目瞭然で、リアトも私も、シェリロルも探知できる。
問題点は今際の際かもしれないという点だが、爆速で向かってなんとか間に合わせればいい。
不安で仕方ない。マリオネとアイユイユは友人だから絶対に救いたい。それに、あの女の策略を壊したいという気持ちもある。鼓動が早まる。一旦深呼吸をしよう…………
息を吸った時、不意に時が訪れ、人差し指が背筋を伝うような心地の悪い魔力を感知した。
「うぇっ、なんだこれ……」
「ひゃあっ……なんですかぁ!?」
リアトとシェリロルも例に漏れず同じ感触を味わっているようだ。
場所はあそこか。この不愉快な魔力も一瞬にして消え、薄暗い夜の森に同化しち。ちょうど今、アイユイユとマリオネは盲目の魔族と交戦中だ。
絶対に間に合わせる。あの女を出し抜くために。
「アイユイユの魔力……」
「アイユイユって、あの宮廷魔導師の?どういう事だイヴィアナ?」
まだ見ぬ展開にリアトは眉根を寄せて言う。リアトだけじゃない。私だって未踏の未来。だからこそ自由に動けるし、期待がとまらない。
「グレイ、私についてきて」
「え、うん?いいけど、アイユイユが魔法を使ったんなら大丈夫じゃない?魔族殺しのアイユイユだろう?」
「いや、何かおかしい」と言うものの、全て詭弁だ。「魔力放出量が異常なの。こんな所にアイユイユが居るのもなんだか胸騒ぎがするし……何も無ければいい。何か起こってからじゃ遅いから、爆速で行く」
グレアムは私に気圧されながら肯定の返事をした。虚言でもいい。詭弁らしく語ることが出来れば、この場は凌げる。
「俺も行く」と、エリィが果敢に前に出る。
「ううん。エリィはリアトとシェルをお願い。リアトはともかく、シェルは走れないから。でも出来れば早く来て」
盲目の魔族との戦闘はパーティーで戦わなければ勝てないだろう。誰一人として欠けてはならない。私とグレアムが先陣を切るのはアイユイユとマリオネの死を止めるためだ。
杖に魔力を込めながら、全速力で疾駆した。
「いくよ、グレイ!」
「うん」という声が聞こえてすぐにグレアムは地面を蹴り、目にも止まらぬ豪速で私を越した。
私もグレアムに続き、杖に乗って空に飛んだ。杖の先端に炎魔法を凝縮させ、その力で速度を上げる。
私は炎魔法で浮遊し、爆速で移動出来ているが、グレアムという凡人が地上で私と同等の速度を出せているのは理解できない。
「エリィも実はあれくらい速度出たりするのか?グレアムが地面蹴ったあと、周りの木々を破壊して行ったんだけど……あ、木くずついてるぞシェリロル」
「何言ってんだよリアト、あれは俺にも無理だ」
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