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25.幼馴染の抱擁


 前回より1週間ほど早い到着だったが、滞りなくシェリロルが仲間に与した。また、闇市で航海に便利な魔道具を購入したお陰で、船舶の進みが少し加速した。


 リアトやグレアムは私の闇市通いに批判するが、このように使える代物もごく稀にあるから止められないのだ。


 そもそも闇市を重要視し始めたのは、ループして2度目の冒険からだ。どうにかしてあの惨劇を回避できないかと、藁にもすがる思いで闇市を漁ったのが発端だった。


 そしてユミルテ王国には2週間早く到着し、魔竜退治を通してエリィも仲間になった。結末は同一だとしても、その過程で同じ(てつ)を踏むのはやり直している者がいる限り不可能だ。道中の運命が徐々に変わりつつも、私たちは目的に向かって邁進(まいしん)していた。


 かくして時は進み、私たちは南下していった。寄り道をせずに冒険するべきなのは分かっているが、仲間たちの思い出を削ることはできなかった。ダンジョンで少しの危機を感じたり、迷子の猫探しの依頼を受けて血眼で猫を探したり、私はもう4度目の経験だと言うのに一向に飽きない。


 それは大切な冒険のひとつであり、私の唯一の居場所だからだろう。全員で戦闘することがなによりも仲間を感じられて幸せだった。

 いつもひとりで戦うことしかできなかった私の、大好きな居場所。


 リアトが遂に"シヴァージ王国に寄らないか"と話してくれたお陰で順調にメリペール遺跡に近づいていた。


 ただ、残りの時間でメリペール遺跡に着けるかは不明だ。いざとなれば適当な言い訳を見つけ、魔法を使って駆けつけよう。


 メリペール遺跡での襲撃まで一週間を切ったある早朝。前回も前々回も、今回も変わらない青空を仰いだ。今日も野宿で、皆が寝ている中1人で朝日を浴びに来ていた。不変の空は私たちの運命を示唆しているようで少し不快だ。


 母上から賜った杖の先端を朝日にかざした。煌々と照る様は魔力を凝縮して魔法を放つ姿に見える。


 幻想的だな──そう思い呆然と眺めていると、私の杖が小刻みに震え出した。どうしたのだろうか。あぁ、なるほど。怖いのか。


 杖を下ろした。今まで三度も魔王討伐を経験しても、その後の襲撃に何ひとつ太刀打ちできなかった。


 自信が喪失する。私の単一的な魔法は誇り高き魔法だというのに、今はこの何も出来ない白痴(はくち)な魔法が憎たらしい。


 違う。違うんだ。憎たらしいのは私の魔法ではなく、あの女だ。それともやはり、私はパーティーに向いた魔道士ではないのだろうか。


 尊敬し、畏れられる1人の帝国魔道士は孤独だった。独りで戦うことしか出来ない帝国魔道士は仲間を求めていた。それなのに仲間を手にしても、全てを阻まれる。


 あぁ、ダメだよ。ダメだ。感情が溢れて視界が不明瞭になる。この目から出てくる水をどうにかして欲しい。まだ挫折するにも、恐怖するのも早い。


「おはよう、イヴィ」


 幼少期から聞きなれた声に動作を止める。ここで目を拭けば、私の恥辱(ちじょく)的な側面が露呈してしまう。いくら幼馴染でもそれは嫌だった。


「おはよう、グレイ」


 杖を握りしめる。湧き上がる感情を封じ込め、振り返ることなく、挨拶を返した。


「今日は早いね?」

「なんとなくひとりで朝日を浴びたい気分だっただけ。そろそろ行くから朝ごはん用意しといて」

「分かったよ」


 もうすぐエリィとリアトも起床するだろう。グレアムが去った後、目元を拭いて私も戻ろう。


「だめだろう?」


 私の頬は両手で挟まれ、グレアムの方に向かされた。立ち去ったと思っていたが、グレアムは魔力がないから気配を察知し辛い。気配を消され、油断したところを突かれた。


「こんなんになる前に拭き取らないと」


 グレアムの優しい指が私の涙を掬い、懐から出した手拭いで目元を拭いてくれた。


「僕はちょっと怒ってるよ」

「ごめん……」


 大事な幼馴染はこんなにも気遣ってくれると言うのに、私は何も伝えられない。この悩みの種を伝えたら、このループに少しの疑問だけ携えて私の話を信用するだろう。彼はそういう男だ。


 だからこそ言えない。私はあんたたちを守りたい。私のこの愛情が不滅な限り、絶対にひとりで立ち向かう。


「別に、ワケを話して欲しいんじゃない」

「え……」

「ただ、僕はいつでもいるから」


 グレアムが私の肩を2回叩いたので振り向くと、両手を広げて温和に笑っていた。


「おいでイヴィ」


 捨て鉢な私に感情を抑えることはできなかった。グレアムに飛び込み、嗚咽を漏らしながら歔欷(きょき)した。グレアムの服が私の涙でぐちゃぐちゃになっても、私が何も話さず泣いているだけでも、優しく抱擁してくれる。


 彼は昔から私を助けてくれる。私もよくグレアムが悲しんでいる時に抱きしめてあげたっけ。


「ありがとうグレイ」

「いつもの事じゃないか」

「そうだったかもね」


 グレアムを強く抱き締めて息を吸った。野宿生活中の体臭を嗅いでほしくないと本人は言っていたが、(ほの)かにするグレアムの匂いは心の安息をもたらしてくれるものだ。


 古くから変わらないグレアムの信頼感、私にとっての"存在感"──これがあった!


 どうして今までこの可能性を追求しなかったのだろうか。

 グレイがいれば──グレアムが居れば、盲目の魔族に勝機を見出せる。


お読み頂きありがとうございます。感想やリアクション、評価いただけるととても励みになりますꕤ︎︎

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