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24.私の愛情


 私にとっては"4度目"の魔王討伐に向けての冒険が幕を開けた。


 3度目(前回)のリアトは私と同様に記憶を保持したままやり直していた。でも、今回リアトにはなぜか前回の記憶がない。彼は2度目の記憶を保持したままやり直したリアトだった。

 元から私がやり直しを先行していたが、さらに時系列がズレてしまった。いったいどういう構造になっているのだろうか。


 そもそも、この"やり直し"の原理はどうなっていて、いつが最後かも分からない。やり直しの発生源は私ではない。魔法か呪術か不明だが、ただ巻き込まれているだけなら、今回が最後のやり直しの可能性もある。


「ねえ、リアト。良かったらなんだけど、私と魔王を討ち取りにいかない?」


 前回の台本通りに勧誘した。本来の結末である1度目は、リアトの不可思議な魔力を感じ取って真っ先にツアルトさんの家に入ったわけではなく、リアトが滞在していた村落で私が騒動を起こしたことが出会いの発端だった。

 

 1度目は私の困窮を見兼ねて、逃亡を幇助(ほうじょ)してくれたのだ。


 その時、リアトは私を"私を追う帝国兵(悪者)"から救出したかっただけと言っていたので、私がその"悪者"──反逆者であることを告げると、しばらく口を開けて固まっていた。


 2度目からはツアルトさんの家に押し入り連れ出すという、少し強引な邂逅(かいこう)だったかもしれない。


「もちろん。イヴィアナのことは俺が助けるよ」


 1度目、2度目と続いて私が魔王討伐を無理に誘った時は弱腰だったというのに、記憶を保持した前回からは初めから勇猛果敢な勇者面をしてくれる。


 あの約束も前回はできなかった。


「怖がってるでしょ?平気だよ。私だって怖いし」

「怖がってなんかない」


 分かってる。独りは本当に怖い。たった一人で、運命を打破しようと模索するのは想像もできないほどの苦難が伴う。それは、3度も同じことを繰り返しているのに未だに何も変えられていない私が痛いほど共感できる。


「私、帝国魔道士だよ?すっごい強いんだから。私がリアトを守るよ」

「え?なんだよ、俺だって守れる」

「いいから、これは"約束"だよ」


 リアトは不満そうに薄目で私をみる。ただ私は絶対にリアトを守りたいだけ。他意はない。


 純粋に勇者で英雄のあんたを守りたいんだ。


 私が小指を差し出しても一向に指を絡めて来ないため、強行突破で指切りげんまんをした。

 この約束方法は1度目の冒険中にリアトが私に教えてくれたものだ。確か私が"魔物を1番早く倒した人にご飯を奢る"という約束を交わしたことがきっかけで教わった。


 最初のやり直しは私もリアトのように運命の(ひず)みに怯えていた。もしグレアムとシェリロル、エリィと冒険できなかったら──そう思うと、不安で堪らなかった。だが、今怯える理由も何も無い。私は憤懣(ふんまん)やるかたないのだ。会えないなんてことは起こらない。無理矢理でも会いにいけばいい。


 全てを私の望み通りに進める。そして、マルシュ(あのおんな)の思惑の全てを撃ち崩す。


 前回同様に旅を続けると、マリオネとアイユイユを殺したメリペール遺跡前の襲撃事件に間に合わない。私たちがシヴァージ王国に到着した1週間前の事件だとフェリシィラが言っていたから、今から半年後の事件だ。


 グレアムはともかく、プリゾネイにいるシェリロルと、ユミルテ王国のエリィと出会うには合計して最速で3ヶ月はかかるだろう。


 ユミルテ王国は最北端に位置する島国。対して、シヴァージ王国は最南端に位置する人族の最後の砦である。つまり、ユミルテ王国からシヴァージ王国までがさらに長い道のりになる。


 アイユイユとマリオネの襲撃事件を手始めに阻止しなければ、私の計画が台無しになる。


 とはいっても、やり直しを経たリアトは私のことを懐疑(かいぎ)的に見ている。説明するのも面倒だし、露呈しないように急ごう。


 グレアムとの邂逅(かいこう)はいつも通り端的に、プリゾネイまでの漂泊までは魔物討伐を手短に済ませて、時間を短縮した。


 私もそうだが、正直なところ前回起きた事柄を仔細(しさい)に記憶している訳では無い。目立つ言行でなければ、前回と違う行いをしてもリアトは気づかないはずだ。あとはリアトのいない場所で突飛な行動をしても気づかれないため、それを利用した。


「そこをもうちょっと安くしてくれない?」


 これはリアトの魔法の杖を購入する恒例行事だ。これからプリゾネイに向けて航海することにはなるが、本来ならユミルテ王国に向かうために訪れた港湾都市での出来事だった。


 帝国の外(外の世界)にも冒険にも無知だった1度目の私は、自身の杖を包み隠さず携えていた。そのせいで、値段交渉の話にもならず金貨1枚もぼったくられてしまった過ちがある。


 私の持つ長杖は母上から(たまわ)った貴重な代物だ。商人という生き物であれば、一目見ればこの杖がどれほどの価値を潜めているかわかる。


「まだリアトは杖を持ってないんだよ?魔法使いとして、それは可哀想だと思わない?」

「知らん」

「いい?リアトは勇者なんだよ!?それでもいいの?あんた、勇者に杖を売った商人になれるんだよ?」

「何バカげた妄想してんだ?名無しの勇者はとっくの昔に……」

「リアトだって"万能魔法"の使い手だもん。ね?」


「あ……うん……」


 リアトとグレアムはいつも私の熱血的な交渉術に圧倒されている。この軟弱な男どもをどうにかして欲しい。

 その後も粘り強く交渉し、やっと折れてくれた。


「……はぁ、分かったよ。銀貨4枚で手を打つ」

「そう来なくっちゃ」


 前回の襲撃の際、リアトは練達したカウンター魔法で斬撃に勝負していた。だが、斬撃は杖が分解されるほどの威力で、リアトのカウンター魔法では太刀打ちできなかった。


「さんきゅー!!イヴィアナ!グレアム!」


 新品の魔法の杖がリアトの手に渡った。同時に、私の頭にはカウンター魔法で受け止めきれず、粉々になった杖が想起される。頭を振って残酷な想起を打ち消した。


 この杖は、私とグレアムが銀貨を2枚ずつ出した思い入れのある魔法の杖だ。どうか、長生きして欲しい。


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