15.故2人の宮廷魔導師
「エリィとグレイ、また武器屋行っちゃった」
翌朝、外出の支度をしているとイヴィアナがまた勝手に扉を開けてきた。人差し指と人差し指を合わせてもじもじしている。毛先が外にハネたツインテールも彼女の動きと共に動いていた。
明言してはいないが、また俺と出かけたいらしい。
「今日はごめん。俺用事あるんだよ」
「えー……そうなの?」
「シェリロル連れて遊び行ったら?」
ベッドで寝ているシェリロルの薄青髪に触れた。まだまだ熟睡していそうだ。
「シェルはまだ寝てるんだもん。昨日叩き起しちゃったし、今日はゆっくり寝かせたいでしょ?」
「じゃあ1人で出かけたら?」
俺のすげない対応に頬を膨らませている。そんな媚び方されても無駄だ。
「エリィとグレアムについてけば良かったじゃんか」
「嫌だよ、武器なんか見てもつまんないし、どうせエリちゃんの鞘探しだし」
「俺だって買い物行くわけじゃないし闇市は行かない。同じくらいつまんない事しに行くんだよ」
「そんな事ない!リアトと出かけたいんだもん」
この言葉をグレアムという存在を知らない一般男性が聞いたら、騙されてしまうのではないだろうか。イヴィアナは人好きのする言動をよくする。
「それ、グレアム以外にあんま言わない方がいいよ」と、助言をしてからイヴィアナを押しのけ部屋を出た。
「ちょっと待ってよ!どこ行くの?」
イヴィアナはシェリロルを起こさないような声量で声を荒らげた。
「フェリシィラに会いにいく」
「密会?!」
「違うよ、何言ってんだ」
本当は今日朝一で踏査しに行きたかったが、"構いません"とだけ言われて辞されてしまったから再び宮廷を訪れなきゃいけない。
「それでは行きましょう」
しつこくついてくるイヴィアナを引き連れながら宿屋を出た時、眼前にくすんだ橙色のハーフアップの女性──フェリシィラが佇んでいた。挨拶もなしに開口一番に出発の言葉とは、かなりコミュニケーションが苦手のようだ。
「フェリシィラ、何でここに?!」
俺は驚愕のあまり、声が裏返ってしまった。
「なんで、とは?昨日言ってたじゃないですか。宮廷魔導師として約束は守ります」
相変わらず冷たい視線だ。藤色の瞳に見つめられているだけで氷結してしまう。
約束──あの"構いません"は約束だったのか。分かりづらい約束だ。
かくして王都を後にし、事件現場に向かった。驚愕の事実に、事件現場は魔王領の反対側にあるシヴァージ王国の領土だと言う。
というか、なんでイヴィアナも仲間に加わってついてきているのだろうか。
「イヴィアナはなんで来たんだ?興味無いだろ」
「そんなことないよ、闇市で私も一緒に話聞いてたでしょ?」
「軽すぎでしょ」
俺は肩をすくめる。
「それとまぁ……アイユイユとマリオネのことなら気になるし」
イヴィアナの表情に翳りが差した。
「フェリシィラとマルシ……ユラフトと繋がり無かったのに2人とは知り合いだったの?」
「うん。マリオネはグレアムとよく共闘してたから、たまに帝国に遊びに来てたの」
「アイユイユは?」
「アイユイユも……一応だけど、ううん……めんどくさいやつだった」
故人を追憶して哀切に笑うイヴィアナの背後から、「同感です」とフェリシィラの声が聞こえた。
「でも、死んだら悲しいよ」
イヴィアナは小さく言う。
「アイユイユさんが早世するとは思いませんでしたしね」と、フェリシィラは無感情に頷いた。
「ね、あんな馬鹿げた魔法持ってる限り、死なないのかと思ってた」
「そんな強い魔法を使うのか?」
この間聞いた限りだと、便利な魔法ではあるが、攻撃系には弱いように思えた。帝国魔道士のイヴィアナと宮廷魔導師のフェリシィラが絶賛するほどの魔法使いとは、一体どれほど厄介な魔法を使うのだろうか。
「"魔族"ならひと目で殺せるような魔法も使えるからね」
「まじかよ……」
また俺を超えるチート能力である。
「一緒に戦ったことないからあとは知らないけど、魔法は無駄にひけらかすものじゃないからね」と言いながら、イヴィアナはフェリシィラを凝視した。
「私も知りません。アイユイユさんに限らず、私たちは韜晦すべき立場にいますので」
確かにフェリシィラがどんな魔法を使うのかさえ俺は知らない。魔法を隠すことによって敵に対策させないようにしているのか。戦うにも初っ端から全力を出せないのは厳しいものだ。
「もう少しで到着します」
休憩を取りながら1時間半ほど馬車で移動した。
魔法使いと言えば浮遊は基礎魔法で転移魔法も使えたりするのかと幻想を抱いていたが、この世界の魔法使いは系統に縛られている。前世の社会ほど文明は発展していないため、車等の交通手段がない。にしても馬車は遅すぎるし、酷く揺れる。どこかで転移魔法を習得できたら楽なのだが……
「なぁフェリシィラ、なんで案内を許してくれたんだ?一か八かだったからてっきり教えてくれないのかと思った」
道中の雑談を楽しみながらも、俺の頭にはこの事が時折過ぎっていた。
「機密事項ですが足掛かりが何も無く、手詰まりなんです。猫の手も借りたいという事です」
俺は猫レベルなのか?
「というかこの事フェリシィラしか知らないのか?ほかの人たちとあんま話してなかったような気がするんだけど……」
「いいえ。恐らく他の宮廷の遣いにも話はいっているでしょうね」
「へえ……?」「ふ〜ん……」と俺とイヴィアナは目を合わせて単調に反応した。協力せずに個々で調査を進めるなんて明らかに不可思議だ。
「わたくしの類推聞きますか」と言いながらフェリシィラは返事の有無を聞かずに続けた。「端的に言うと、あの襲撃は予定通りのものだと思っています。それにアイユイユさんを狙ったのでしょうね」
「誰かが2人を陥れたってことか?」
知らないふりをしているが、その線しか考えられない。2人の宮廷魔導師を殺害した犯人が俺らを襲った犯人と同一犯なら、事態が益々混迷する。
「帝国と魔族が2人の動向を知る由もないですし、国の中に謀反人がいるという事ですかね。元老院の中にいる可能性は高いと踏んで、私たちに個々に調査させているのです。キャメさんの指示で」
宮廷の遣いの中でも宮廷賢者のキャメリチスが高位にいるようだ。国王でなくとも宮廷魔導師を動かすことができるのは恐ろしい権力である。
「ごめんフェリシィラ、前提の話聞いてなかったんだけど、なんでアイユイユさんとマリオネさんは2人で一緒にいたの?ここ魔王領でも無いし、魔族牽制ってどういうことだ?宮廷魔導師が2人も任務に赴くって珍しいなって思ったんだけど……」
王国でたった4人の選りすぐりの魔導師だ。そのうちの半分を魔王軍の牽制ではなく、別の場所の牽制に向かうのは理解できない。恐らくこちらの魔族は魔王軍ではないだろうし……
「近頃、不思議にもメリペール遺跡の周囲に魔族が湯水のように湧き出る現象が起きたのです。キャメさんの能力、共感覚で発生源が遺跡の中にある魔道具だと確認できまして、それは上級・下級問わず魔物や魔族を生み出す馬鹿げた魔道具でした」
「それの踏査に行ったってことか?いかにも怪しいじゃんか!」
「それはそうですが、放置しては我が国が魔族に挟み撃ちにされてしまいますし、キャメさんが2人に赴かせたのです。本来は火力要員でマルシュさんが行く予定だったのですが、直前に不都合が生じてしまって、代わりにマリオネさんを派遣しました。ですのでアイユイユさんを狙ったと踏んでいます」
「じゃ、警戒はしてたってことなんだ」
イヴィアナは床を見つめ、熟考しながら話した。
「はい」
あれ──フェリシィラは俺たちにかなりの情報漏洩をしているが、機密事項ではなかっただろうか?
この宮廷魔導師、厳格に見えてたいして厳かでもないな。
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