13.別の襲撃
「嘘はついていませんね」
「当然だ」
「本当ですか」
「本当だよ」
「そんなにリアトを疑うなら、アイユイユがいるでしょう?そちらには」
疑心を続けるフェリシィラに慇懃無礼なイヴィアナが口を挟んだ。貧乏揺すりをしている所を見る限り、鬱積が溜まっているようだ。
ところで"アイユイユ"って誰だ?
「アイユイユは殉教しました」
「は?……え?どういう事?」
声を荒らげるイヴィアナにフェリシィラは人差し指を口元に置き、無言で注意した。
「内密な調査ですから」
「でもアイユイユが死んだなんて、信じらんない……」
「そんな強いやつだったのか?」
「リアト知らなかったの?!」
そんなに驚くほどの有名人なのだろうか?
「知らない」と言うと、イヴィアナは呆れながらもアイユイユについて教示してくれた。フェリシィラは少し目を丸くしていたから、俺の非常識さにドン引きしているんだろう。
「アイユイユはシヴァージ王国の宮廷魔導師の1人だよ。目に関する魔法の使い手」
目で攻撃というと、目からビームだろうか。
「目からの光線とかじゃないからね!あとはアイユイユは言葉の真偽を見分けられる力もあるとか言う噂も流れてた。浪漫溢れる魔法!──だからこそ、不思議でならない。あれほどの魔道士が魔族なんかにやられるって、一体どれほど強い魔族と戦ったのか……」
イヴィアナの燦然と輝く目が憧憬をいみじくも表していた。
「アイユイユさんが殉教したのはもちろん魔族牽制に出立した後でしたが、騒ぎを沈静した後の可能性が高いと思います。ですから、アイユイユさんとマリオネさんが殉教した素因として何者かによる襲撃という説が上がっています」
「襲撃?」
「ちょっと、それ以上にまって!マリオネは数ヶ月前の戦いで戦死したんじゃないの?さっきそう言ってなかった?」
イヴィアナは酷く狼狽している。そういえば確かに昨日のフェリシィラの発言では、グレアムが帝国からの撤退命令に逆らえなかったことが理由でマリオネという人が死んだように聞こえた。
そして、マリオネは宮廷魔導師の1人らしい。闇市に向かう道中でイヴィアナに聞いたことだ。
シヴァージ王国の宮廷魔導師はマリオネ、アイユイユ、フェリシィラ、マルシユラフトの4人で編成されている。
「マリオネさんとアイユイユさんは一週間前に殉教しましたが」
「グレイめっちゃ落ち込んでたのに!?ひどい!」
「元よりグレアムさんの責任ではありません。わたくしは事実を伝えましたよ」
フェリシィラの皮肉屋を思わせる言行は意図的ではないのだろう。こういう性質の子なのか。
「アイユイユとマリオネが死ぬなら、相当手練な魔族だね……」と、イヴィアナは深刻な顔をして言う。
「そのようで、情報も少なく」
俺はアイユイユとマリオネの実力を知らないが、宮廷魔導師という立場であるならば、傑出した魔法を使えるに違いない。
フェリシィラも唐突に傑物の同僚2人が逝去し、焦っているのだろう。
「だから闇市まで手を出してたんだな」
「酒場の噂程度の情報なので真偽は不明ですが、私の推測通り魔族牽制で対峙した魔族では無く、襲撃による可能性が高いということです」
「ありがとうフェリシィラ。何か分かったら伝えるよ」
「厚意に感謝です。ですがこの事は内密に願います」
何故かと口にしようとした刹那に「理由は答えません」と即答されてしまった。
襲撃を受けたのは俺たちだけじゃなかった。宮廷魔導師のマリオネとアイユイユを葬ったのが、あの未曾有の斬撃ならば痕跡が掴めるかもしれない。
惨劇に近づく日々は明日も訪れる。何も変えられていない気がする。不安を募らせながら宿屋のベッドに寝転がった。
「どうしたのですか?リアトさん」
「あぁ、ごめんシェリロル。ちょっと落ち込んでただけ」
「落ち込まないでくださいっ!どんな冒険も楽しむものです」
イヴィアナとグレアムで3人旅をしていた記憶が追憶された。その言葉はかつてイヴィアナが口にしたものだった。
『どんなに辛いことや怖いことが待ってても、それが冒険なんだからめいっぱい楽しんでやんなきゃだよ!わかった?グレイ、リアト』
どんなに陰鬱な事件が起こってもイヴィアナは直ぐに笑いを取り戻して"冒険"を一番に楽しんでいた。そうする事がパーティーで冒険する上での宿命だと言っていた。
イヴィアナはこの言葉をよく口にしていたから、シェリロルにまで冒険魂が伝染っている。
「わかってるよ。何回も聞いた」
髪の毛を突っつきながら考えた。楽しいことは──あと少しでマルシユラフトに会えることだろう。
明日は早起きして、万全の状態を整えよう。
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