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12.付き添い闇市


「今回の宿はふかふかですね!リアトさん!」


 シェリロルは部屋に入るなり、ベッドに飛び込んで感触を確かめた。せっかく綺麗に作っていた2つのお団子が崩れてしまっていた。


 宿屋を見つけ、いつも通りの部屋割りになった。金銭に余裕がある時は二部屋を取り、2人と3人に分かれて宿泊するのだが、倫理観や常識がないのか男女混在が当たり前だ。女二人男三人なのだから、普通は男女別れて宿泊すべきだと今も思う。


 それもこれもイヴィアナとエリィがどうしてもグレアムと同じ部屋がいいと我儘をいうためだ。


「グレイといると慣れてて安心するからお願い!」


 イヴィアナに関しては早く付き合えばいいのに、と思う。


「グレアムが一番常識人なんだもん」


 こうやってエリィは俺にばっか面倒な役を押し付ける。


 どうせエリィはシェリロルを起こすのが億劫なだけだ。シェリロルは基本夜遅くまで起きているし、起床は昼過ぎだ。さらに用事がある日はシェリロルを叩き起す役目を果たさなければならない。


 かくして、宿泊する際はイヴィアナ、グレアム、エリィの三人部屋と俺とシェリロルの二人部屋で泊まっている。一言言っておくが、シェリロルとは何も無い。


「おはよー!リアト!王都散策でもいかない??」


 翌日、ノックも無く扉が開かれた。シェリロルがまだ寝ているのだから静かにして欲しい。ほら、横ですーすー寝息を立てている。そう思いながらも寝起きの声で返事をする。


「なんだよ……」

「散策だよ!散策!」

「いや、もう謁見……」

「まだだよ!グレイとエリィは武器屋に行っちゃって暇なの〜。ほら、この間また失くした鞘探すんだって」


 エリィの使う大太刀は腰に装備できる大きさではなく手持ちが主流だ。そのせいか、戦闘後に鞘を紛失することが多い。()てて加えて大太刀という稀有な刀に対応する鞘を売っているところは少ない。


 そして寝起きのまま王都散策に出かけた。寝癖はついてるがイヴィアナなら気遣いはいらないだろうし、直していればイヴィアナに催促される。


 シヴァージ王国最後の都市ラヴィンタは滅亡寸前の国とは思えないほど栄えており、国の民も多幸感で溢れていた。本当に魔族の侵攻が切迫している国なのか疑うほどだ。


 情景は古代地中海世界のような古さを感じた。ヘズ帝国とは文明の差が出ているのか、ファンタジーというより古代都市を見ている感覚だ。


 男商人が大声で客を呼び込む市場を抜けると、閑静な住宅街を通った。そこでは女性が洗濯物を干していた。平和の象徴である子供の笑顔も健在で、楽しそうに追いかけっこをしていた。先程すれ違った老婆は市場で買い物を終え、帰宅する最中だろう。


 目的も分からずイヴィアナの後をついっていった。どうせまた闇市に行くんだろう。


 イヴィアナはどこにいっても闇市には必ず寄る変人だ。治安も悪くイヴィアナのような高貴な体裁の少女は舐められ易い。そのせいでよく絡まれるが、こんな些末な心配は杞憂であった。


 闇市に到着後、様々な店を回り「う〜ん」と唸りながら、魔道具をためつすがめつしている。


「また無駄遣いするなよ」

「しないよ!」


 ユミルテ王国の闇市でぼったくられ、その後の冒険に支障をきたしたことを本当に覚えているのだろうか。


 俺もなにか役立ちそうな魔道具を探してみよう。イヴィアナの買い物は女の子らしく優柔不断だ。


 目星の魔道具がなく虚空をみていると、見覚えのあるくすんだ橙色の髪を持つ女性がいた。フードを被っていて素性を隠しているようだが、一目瞭然だった。


「イヴィアナ」と、肩を叩いて呼びかけているのにまだ悩んでいるようで聞き耳を持たない。

「イヴィアナ!」

「なに?」と、不機嫌そうに振り向く。

「あれ、昨日あったフェリシィラじゃない?」

「何言ってんの。ここ闇市だよ?そんな人がいる訳……」


 呆れの溜息で俺をバカにしているが、俺の指に視線を合わせると、「……いるね」と困惑の色を強くした。


「何してんだ?」

「付けてみる?」

「いや、魔力でバレるだろ」


 と言いながらもちゃっかり追跡している。どうやら闇市の住民に話を聞いているようだ。何かよからぬ事を企んでいるのか疑心暗鬼になる。


 そもそもあの襲撃は魔王軍の復讐とも言い切れない。見聞き感じることが出来なかった限り、魔族の攻撃と決めつけることはできないのだ。俺たちと同じ、人族の仕業の可能性もある。


 フェリシィラがもし襲撃犯だったら──


「で、なんで付けてるの?私たち」

「付けようっていったのお前だろ、イヴィアナ」

「だって、リアトがもじもじしてたから」

「もじもじはやめて」

「ちょっとあれ、大丈夫なの?」


 フェリシィラは貨幣が入っているであろう麻袋を闇市の貧しげな者に渡していた。


 二人で会話しているものの、詳細な情報は聞こえない。フェリシィラの表情は見えないが、相手の顔はまるで奸賊だ。


「ちょうど良いところに」


 フェリシィラがやにわに声を張り上げたため、俺とイヴィアナにも聞こえた。イヴィアナと目を合わせている刹那にフェリシィラと話していた相手は消え、フェリシィラが藤色の瞳でこちらを見ていた。脊髄反射で顔を引っこめる俺たちだったが、無意味なことを理解してしぶしぶ顔を戻した。


「取り急ぎ陛下に報告したところ、了承頂きました。明日、王宮に来てください」


 はて、俺たちがいるここは宿屋だっただろうか。それかそこらへんの市場か?偶然遭逢したからついでに報告しておこうのニュアンスで話しているが、解釈は間違えていないだろうか。


「え、あの、それよりもどうしてフェリシィラさんはこんなとこに?」

「私情です」


 にべもなく即答された。踏み込むべきだろうか。変に目をつけられるのも面倒だが、建設的に行動すべきだ。


「私情ってのは?」

「言いませんよ」

「……じゃあ何か(よこしま)なことしてるって事だな」

「そう思って頂いても構いません」


 何を言っても揺らぐ様子がない。泰然、そして悠然とした彼女を狼狽えさせるには赤裸々に話すしかない。情報を掴むには虎穴に入る勇気がなければ手に入れられるものも手に入れられない。


「俺はある脅威を恐れている。漠然としているんだけど……俺たちは魔王を討伐した後、魔王以外の襲撃に合う」

「リアト、何か見たの?」


 何も知らないイヴィアナは不安そうに俺を見る。魔法の一環ということにしておこう。イヴィアナに向かって頷く。


「予見ですか」


 フェリシィラの声音に幾許の揺らぎが見えた。


「夢魔法だ。その中で予知夢を再現した。まだ不完全だから確定だとは言えないが、良くない兆しは事前に対策しておきたい」

「それが何か」

「いや、関係ないならいい。明日また王宮で会おう」


 収穫なしどころか、フェリシィラの私情を探ることすら出来ずに俺が弱音を吐いただけになってしまった。平静を装っているがかなり気を沈めながら歩いた。


「襲撃ですか」

「え、うん」


 話は収束したと思っていたので、フェリシィラの言葉に驚いて頓狂な声が出た。


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